第266話 近づく結婚式

 雨季は雨季で、乾季とは違う作物を育てている。

 水をいっぱいに浴びて、丘ヤシが実りに実り、綿花は今にも咲きそうだ。


 時期をずらしながら、その時々の気候に合わせた作物があるから、常に収穫期で忙しい……!

 だが、俺たちの努力が実りになって戻ってくるわけで、嬉しい悲鳴である。


「収穫だー! カゴを用意しろー!」


 わーっと、丘ヤシを収める大型のカゴを持って村人が集まる。

 この二年とちょっとで、丘ヤシも大きく育った。

 1メートルくらい伸びたんじゃないだろうか。


 枝はぐんと張り、実が大量に成っている。

 丘ヤシとは言うものの、その実は比較的小ぶりで、そしてたくさん成る。


 身軽な子どもたちが木登りをしていって、上から実を落とすのである。


「落とすぞー!!」


 アムトが叫ぶ。

 大人たちが、わいわい騒ぎながら落下予測地点へ走った。

 そこへ、アムトが丘ヤシの実を投げ落としてくる。


「こっちも落とすよー!」


「来るがいい! お前の落とす実は俺がすべて受け止めてやる!!」


 ピアの宣言に、目下彼女に求婚中の虎人のフーが、カゴを抱き上げて吠える。

 愛を感じるなあ。


 俺がにっこりしていると、カトリナも同じ心持ちだったようだ。


「早くピアちゃんが成人するといいねえ。私は勇者村に幸せな夫婦をどんどん増やしていくのが生きがいだよ」


「すごい趣味だ……」


「私はほら、小さい頃にお母さんが早く亡くなったから。でも、お父さんとお母さんが仲良しだったの、ずーっと見てたんだ。だからね、この村ではそういう素敵な夫婦をたくさん増やしたい」


「目頭に来る話だ」


 ちょっとうるっと来てしまった。

 彼女なりに苦労したり、子どもの頃に感じていた思いを、今こうやって形にしているのだなあ。

 だがお節介もいい感じで間合いを見るんだぞカトリナ……!


 収穫の途中で雨が降ってきたので、本日の作業はこれで終わり。

 大人たちが屋根のある食堂に引っ込んでいると、マドカとサーラがキャーッと叫びながら飛び出していった。


 真っ赤な傘と長靴を装備して、ちびっこ二人が雨の中で踊っている。

 うむうむ、よきかなよきかな。


 後から、ビンが青い傘と長靴姿で追いかける。


「あんまりとおくいったらだめだよー!」


 すっかりお兄さんだなあ。

 ビンがちっちゃい赤ちゃんだった頃から知っているので、とても感慨深い。

 いや、まだまだちっちゃいんだが。


 昼飯まではまだ時間があるので、のんびりぼーっとしていたところ。


「うわー、こっち土砂降りじゃん!! 傘持ってきて良かったー」


 海乃莉の声がした。

 そう言えば、日本と勇者村をつなぐ扉は、村の広場に開けてあったな。


 あそこには雨を遮るものなど何もない。


「うわーっ! 雨えぐい! えぐいって!」


 叫びながら海乃莉がこっちに走ってきた。

 そして、小さい人たちが傘を持ってきゃあきゃあ言っているのに遭遇する。


「うわーっ!! なになに、かわいいー!!」


「みのりさんこんにちは!」


 ビンがまっさきに挨拶する。

 すると、小さい二人もそれに続いて、「こにちわ!」「わー!」と返した。

 最後の一番横着した挨拶なのがマドカだ。


 海乃莉がしゃがみ込み、ちびっこをひとりひとり、むぎゅむぎゅっと抱きしめている。

 おーい、濡れてしまうぞ。


 そうしたら、パワースが大きな傘を持って走っていって、海乃莉とちびっこが濡れないように差し出した。

 自分はちょっと濡れているな。

 くそっ、イケメン仕草め。


「ああいうのいいよねえ」


 カトリナが、ほうっ……として見とれている。


「なんだ、カトリナもああいうのがいいのか」


「何言ってるの。ショートが私にしてくれたことじゃない。あれで大好きになっちゃったんだから」


「なん……だと……!?」


「手前村で……」


「ああ!」


 思い出した。

 あの時は、カトリナとブルストが理不尽な目に遭っているのが許せなくてやったんだよな。


 あれを思うと、今のパワースは俺と同じなんだろう。

 大切な相手を守るために、自分ができることをやっている。


 うむ……。

 見上げる海乃莉も嬉しそうではないか。

 あいつらの心はもうひとつなのだ……。


 兄はそっと見守ることにしよう。


「あはは、ついついやっちゃった。ありがとうパワース! ええとね、皆さん。今日は渡したいものがあってここに来たんだけど……」


 海乃莉は身につけていたポーチから、ビニール袋に包まれたものを取り出した。

 これは……?


「招待状? この間、返答した気がするんだけど」


 カトリナが首を傾げると、海乃莉は満面の笑顔になって頷いた。


「これは、村のみんなのぶんです! あっちの世界の式に、皆さんを招待します! 広い会場を取っちゃったので、みんな来れるよ!」


 みんなだと!?

 俺はめちゃくちゃびっくりした。


 つまり、勇者村の全員を結婚式に招待するというのか!?

 いや、まあ、日本でもワールディア側の人間の魔力を遮断する魔法は完成しているけどな。


 なんと大胆な考えであろうか。


「パワースがね、ショートくんだったらやれる。安心しろって言ってくれて! すっごく信頼されてるんだねえ」


「ぬうっ! まあな」


 パワースは腕組みして、うんうん頷いている。

 俺でなければ無茶ぶりだったぞ。

 だが、俺だからこそパワースはやれると踏んだのだろう。


 いいだろう、その期待に応えてやる。

 結婚式の開催日は、あと一週間後。


 勇者村の全員が、参加に◯をつけた。

 なんと、トリマル、アリたろう、ガラドンも一緒である。

 勇者村一同が余すこと無く式に参加する……。


 これは凄いことになりそうなのだった。

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