第264話 日本お散歩紀行

 一通り店を見て回ったので、帰りは歩いて行くことになった。

 うちの実家は県庁所在地だが、まあそれでも地方都市だ。

 近場に行くにも車を使うような土地柄なので、道は割と空いている。


 俺とカトリナでマドカと両手をつないで、ちょこちょこと道を歩く。

 途中で、マドカを二人でひょいっと持ち上げると、うちの子が「キャーッ」と歓声をあげた。

 うんうん、ただ歩くだけでも楽しい。


 父がこれを、感無量と言った目で見つめている。

 そうしながら、何かあるたびにスマホでマドカを撮影している。


 赤ちゃん時代は短いからな!

 今のマドカをたくさん記録に残しておいてくれ。


 途中で、カトリナが父と交代した。

 これは周囲の光景をじっくり眺めるためだな。


 マドカには子ども用ハーネスを付けるという手もあるのだが、車に積んでこなかったので誰かが必ず手を握っていないとな。


「おとたん! だっこ!」


「おっ、もう歩くのに飽きたか」


 抱っこをせがまれたら抱っこするのが父の努め。

 俺はマドカを抱き上げた。


「いいなあ」


「マドカは結構な重量物だぞ。今のあんただと腰に来ること間違いなし」


「ぬうっ。では家に帰ったら抱っこさせてくれ」


「良かろう」


 父とそんな話をしつつ、歩道をずんずん進むのである。

 ところでなんと言うか、道端のお店が閉まっている事が多い気がする。


 俺がワールディアへ召喚された時よりも、シャッターが降りてるところが増えてない?

 故郷周辺は寂れてきているのかも知れないな。


 それでもカトリナにとっては、物珍しい異郷の地。

 あちこちの店に興味を示し、入りたがった。


「あれはレンタルカーの店だから関係ないぞ」


「レンタカー?」


「馬車の貸し出しサービスみたいなの」


「あー。そっか。馬だと、飼料もお金掛かるし、馬糞の処理はこの町だと難しそうだもんねえ」


 なんとなくカトリナ流に理解したようだ。


「じゃあショート、あそこは?」


「あれはコンビニだな。行ってみるか!」


 ということで、一家でコンビニに入る。

 所狭しと並べられた商品に、カトリナが感嘆の声を漏らした。


「すごい……。見たこと無いものがこんなにたくさん! これは何に使うの?」


「髭をそった後のクリームだね」


「これは?」


「ツメを保護するやつ」


「こっちは?」


「うーん、うすうす0,05ミリ……」


 説明に大変困るな!


「おとたん! これー!」


 マドカが何やら指差していると思ったら、お菓子の美味しい棒である。

 美味しい棒というのは、10円で数十年前から値段の変わらない、ロングセラーなスナック菓子だ。


「あまりこっちのうまみに慣れすぎるのはいかんが……。よく考えたら、王都にはパフェが出現したりしてたもんな。いいだろう」


 美味しい棒のコンポタ味をマドカに買ってやった。

 カトリナには明太味である。


 スナックを口にしたカトリナとマドカ。

 目を丸くする。


「お、美味しー!!」


「ま!!」


 マドカが俺の手からコンポタ味を奪い取り、むしゃむしゃむしゃーっと食べてしまった。

 そしてニッコニコになる。

 ここに来る前、勇者村で朝ごはんを食べてきて良かったぜ。


 そうでなければ、色々な美味しい棒を食べようとするところだった。

 しかし、この美味しい棒的なお菓子を勇者村で再現してみるのも面白いな。


 俺は研究用に、店の美味しい棒を買い占めた。

 アイテムボクースに放り込んでおく。


 途中、コインランドリーに立ち寄って、ぐるんぐるん回る洗濯物を眺めたり。

 本屋に行って、「村の図書館みたい!」とかはしゃいだり。

 家族を連れてのお散歩を堪能していたら、父のスマホに母からの連絡が来た。


「もう家についたら早く帰ってきて、それから改めて外に出ようって言ってるな」


「確かに。そうなると家族総出だな」


 俺は納得した。


「そうだね、お義母さんとも一緒にお散歩したいかな。ねえマドカー」


「あい!」


 マドカはご機嫌である。

 かくして、俺たちは家へ直帰し、母を仲間に加えて再び町へ。


「海乃莉が式を挙げる予定の教会行こうか」


「なんと、洋式で行くのか」


「あんただって洋式だったでしょ?」


「あれは勇者村の位置が、地球で言う洋式の辺りだったからではないか」


 そもそも、神がちょこちょこ遊びに来る土地だ。

 あそこで結婚したら必ず洋式の神前婚になる。


 ということで、しばらく歩くことになる。

 駅前までそう遠くないのが我が家なのだ。


 10分ほどで駅に到着し、横の大きな道を抜けて真っ直ぐ。

 すぐに、教会を併設したセレモニーホールが見えてくる。

 ここだけで、冠婚葬祭全部できるというわけだ。


「ここで海乃莉とパワースが……!! 今から破壊してしまっては迷惑だろうか」


「ショート、気持ちは分かるが俺も堪えているんだ……! 海乃莉の門出を祝福してやろう……」


「くっ、俺も大人だ。今日のところはセレモニーホールを許してやることにしよう」


 俺と父の反応はこんなものだったのだが。


 カトリナと母が、セレモニーホールに飾られている結婚式の写真などを見て、二人でわいわい騒いでいる。


「やっぱりこっちのドレスって、デザインが凄いよねえ! 私が着たら、繊細すぎて破いちゃいそう……!」


「あら、カトリナちゃんだって似合うわよ絶対! それに将来、マドカちゃんが着るかも知れないし」


「おー?」


 今はカトリナに抱っこされているマドカが、自分の名前を話題にされて首を傾げた。

 大変可愛い。

 そして、まだマドカが嫁に行く話はしないでいただきたい……!



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