第263話 レンタル衣装を見に行こう

 久々に、うちの一家揃って日本へ行くことになった。

 俺の足取りは靴に鉛を入れたように重いのだが、まあ鉛程度は入ってても素足のように軽やかに動ける。

 カトリナとマドカなどはおおはしゃぎである。


 レンタル衣装屋で、カトリナとマドカの服を借りると母に告げたら、向こうも大張り切りだ。

 下見を済ませて、何軒かピックアップされているらしい。


 ちなみに父親は、ショックで酒量が増えそうになったが、母に取り上げられて酒の量を管理されるようになってむしろ体調が良くなっているとか。

 いいことじゃないか。


 我が家のディスプレイに通じる、イセカイマタニカケのゲートをくぐる。

 すると、めちゃくちゃ広くなっているのが分かった。


 振り返って驚愕する。


「うおーっ!? 超大型ディスプレー!!」


「どうせこの画面を通って翔人の村に行くでしょ? だから奮発して買っちゃった!」


 母のパート代の半年分がつぎ込まれたディスプレイだという。

 なるほど、これがあるから農協の人たちも入ってこれたのだな。

 おっ、父が窓際で椅子にもたれて放心している。


「おいおい、何をしているのだ」


「海乃莉がもうすぐ嫁に行ってしまう……」


「気持ちは分かるが」


「もう、お父さん。海乃莉は結婚してもこの家に住むって言ってたでしょ」


「そ、そうだがー」


 おお、これは重傷だ。

 父のダメージが凄いぞ。


 だが。

 俺は特効薬を連れてきているのだ。


「じいじ!!」


 マドカがトテトテーっと走ってきて、父の膝の上によじ登った。

 ハッとする父。

 脱力していたはずの全身に、パワーが漲る。


「うおおおおおー!! マドカちゃん! 来たのかー! わはは! マドカちゃんはかわいいなー!!」


「じいじげんき?」


「じいじは元気だよー。マドカちゃんはじいじのこと心配してくれたのかあ。嬉しいなあ。優しい子だなあ」


 完全復活したな。 


「よし、俺が車を出す。みんなでレンタル衣装屋を回ろう」


 覇気がみなぎる父がそう言って、一家総出でこの辺りの店を巡ることになった。

 ちなみに、自動車初体験のマドカ。


 父のボックスカーに、「おおー」っと目を丸くし。


 中に乗り込んで見て、「おおー」っと感嘆した。


 マドカをベビー席に座らせる……。

 むっ、このベビー座席、新品じゃないか!!


「マドカちゃんが来ると思って、買っておいたの!!」


「母さんの先読みが当たったな!」


 両親揃って、マドカを車に乗せてドライブするのが夢だったようだ。

 図らずも夢が叶ってしまったことになるな……!


 ということで、車は走り出した。

 マドカは窓際にベビー席を固定しているので、流れていく景色をじーっと見ている。


 時々振り返って、俺やカトリナに「なんこれ!」と質問する。

 しかし質問した頃には、風景は流れていってしまっているのだ!


「あーん」


 嘆くマドカだが、次に流れてくる町並みの光景で、すぐに過去のことは忘れてしまう。

 今この瞬間瞬間を生きる幼女、マドカ!


 もちろん、親バカである俺はニッコニコ。

 祖父母バカである両親もニッコニコ。


 カトリナだけが、マドカと同じ視点になって流れていく景色に目をキラキラさせている。


「ショート! お義父さん、お義母さん! 帰りは歩きたい!」


 もちろんそうしよう!


「えっ、俺は……?」


 父が悲しそうな顔をした。

 誰かが運転しないといけないもんな!


 そして、レンタル衣装屋に到着。

 何やら真剣な顔で、両親がじゃんけんをしている。

 どっちが運転して帰るかの勝負をしているな!?


 なんとこの白熱した戦いで、父が勝利を収めた。

 がっくりする母。


 後日、勇者村でマドカとデートする権利を与えることで納得してもらった。

 母がへそを曲げると大変だからな。


 そして、衣装屋では、俺の服なんかはそっちのけで、カトリナに何を着せたら似合うか、マドカはどうだ、なんて話をしている。

 結局、マドカは何を着ても宇宙一可愛いであろうという結論が、両親の間で成されたようだった。

 なんたる祖父母バカ。


 だが俺も同感である。


 お店の人は、カトリナに角が生えているのをじーっと見ていたが、「コスプレ……?」とか呟いて考えないことにしたようだ。

 ブルストでも来ない限りはごまかせるな、こりゃ。


 ちなみにカトリナはご機嫌。


「うわーっ、かわいい! お姫様みたい! だけど白いドレスは私が日焼けしてるから似合わないのでは?」


「うちの嫁は可愛すぎる」


「健康美ね!」


 なんか両親にべた褒めされて、めちゃくちゃニヤニヤしているではないか。

 マドカは、カトリナのお着替えを見ながら「おー」とか言ってる。

 なんとなく分かってるんだろうか?


 そしてすぐに飽きたらしく、「ウー」とか唸りだした。


「よしマドカ。赤ちゃん服コーナーに行くか」


「いく!」


 俺と手をつないで、トテトテあるくマドカ。


「これー!」


 おっ!!

 すっげえキラキラしたピンクの赤ちゃんドレス!!


「マドカ、これが気に入ったか。着てみるか?」


「うん!」


 カトリナも両親も、背後で何やらとんでもない事態が始まろうとしていることに気付いたらしい。

 慌ててこちらにやって来た。


「マドカのお洋服!? いいねー!」


「絶対似合うよ!」


「可愛いに違いないわね!」


 こいつら賛同しかしねえ!


 そしてマドカをお着替えさせると、ピンクのふりふりドレス姿に、俺もカトリナも両親もハートを射抜かれたわけである。


「なん……だと……!? 可愛すぎる……。うちの子は天上の可愛らしさを持っている……!!」


「はー、かわいいー。連れてきて良かったー」


「お父さん、写真写真!!」


「任せろ! マドカちゃーん!」


「お?」


 瞬くフラッシュ。

 振り向いたマドカのベストショットが、スマホに収められた。


 両親がハイタッチしている。

 家に帰ったらすぐにプリントして、額縁に飾るそうである。


 えっ、最高級の印画紙買うの!?


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