第262話 恐るべきお知らせ

 ウナギ傘も完成したので、マドカとサーラにあげた。

 二人で雨の中、キャーキャー言いながらパチャパチャ走り回っている。

 スコールほどではない雨ならば、この傘でバッチリだな。


 二人の雨嫌いも解消したらしい。

 今では……。


「あめまだー?」


 空が晴れているのに、長靴を履いて傘を差して、マドカが村の中を歩き回っている。


「まだだなあ」


 畑仕事中の俺が返答すると、うちの子はぷくっと膨れた。


「やーだ! あめ! あめ!」


 俺が膨らんだほっぺをつつくと、プスーっと口から空気が抜けていった。


「おとたん!」


「わっはっは、マドカが怒った」


「おとたん、こらー!」


 畑の中に入ってきて、傘で俺のお尻をぺちぺちしてくる。

 だが、ここでマドカは気付く。


 畑の土の上でも、長靴なら汚れない!


「あー!」


「気付いてしまわれましたか……。そう、長靴があればどこにでもいけるのだ」


「おとたん!!」


 目をキラキラさせて俺を見上げてくる。

 うんうん。

 長靴は、マドカの行動範囲をぐんと広げたようだ。


 喜んでもらえて嬉しい。


「まおー!」


 ルアブに連れられて、サーラもやって来た。


「さーあー!」


 二人が畑で駆け寄り、がしっと抱き合おうとして傘が邪魔になった。

 だが、傘がボイーンと反発するの楽しかったらしくて、きゃあきゃあ言いながら傘をぶつけ合っている。


「おれもほしいなー」


 ルアブが指をくわえて、サーラの傘を見ていた。


「そう言えばルアブもまだ六歳だもんな。いいだろう。今度は男らしい傘を作ってやる」


「ほ、ほんと!? うおー! やったあー!!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるルアブ。

 畑でジャンプしてはいけない。泥が飛び散る。


「じゃあね、あのね、カールとふたりでかさほしいけど、いろ、ちがうのがいい」


「ほう、カールくんをライバル視しておるな……!」


「おれのかさ、モテるいろにして!」


「なにい、こいつめえ」


 ルアブのおでこを突くと、彼は「やーめーてーよー」とか言うのだった。

 勇者村のお子さんたちに、傘ブームが来たな。


 その日の夕方には、ブルストに男の子用の傘の話が行ったらしく。

 夕食後にブルストとブレインとパワースが顔を寄せ合って、傘の設計について話し合っている。


「勇者村は、乾季には日差しも強くなるからな。日傘があってもいいな」


「シャルロッテさんに似合いそうですねえ」


 俺の思いつきに、返答したのは市郎氏である。

 地球側の賃貸を引き払い、完全に勇者村に住み着いてしまっている。

 向こうの口座には給料が振り込まれているらしいが、全く使わなくなっているようだ。


「なんだ市郎氏、シャルロッテと仲良くなってきているのか」


「は、はあ。なんか、何かあるとカトリナさんが僕とシャルロッテさんをふたりにしようとするんですよ」


「うむ、それがカトリナの趣味だからな。誰かと誰かをくっつけたり、美味しいものを作って食べる人間の笑顔を見たりするのが趣味なんだ」


「前半はどうかと思いましたけど、後半は素晴らしいご趣味ですよね」


 俺もそう思う。

 しかしこれは、俺たちの世界である日本が、個人の自由意志にその辺りを委ねた価値観だからこそそう思うだけかもしれない。

 実際、こっちの世界ではカトリナのお節介が嫌がられている感じがないのだ。


 実際にニーゲルとポチーナというカップルが誕生したりしているしな。

 村の人口を増やしていくためには、重要なスキルかもしれん、お節介おばちゃん。


 市郎氏とそんな話をしていると、横にパワースが来た。


「ショート、ちょっといいか?」


「お前がそうやって切り出す時、大抵俺にとってダメージがでかい話が来るんだ。だから良くない」


「そうか。海乃莉から聞いてた通りだな……。じゃあ、これはもうすぐ行われる、地球での俺達の挙式の招待状で……」


「ウグワーッ!」


 俺は椅子ごと転げた。


「もっ、もうそんな話になっているのかー!!」


「この間婚約の話をしたじゃないか。来月には海乃莉が二十歳になるから、そうしたら籍を入れるんだが……」


「早過ぎない……?」


「お前だってカトリナが何歳の頃に結婚したんだよ」


「うっ、ぐうの音も出なくなった」


 こと、海乃莉に関して、俺は何も口出しができない!

 手渡されたのは、手作りの可愛い招待状だった。

 便箋に、恐らく海乃莉が表計算ソフトとかで作ったのだろう、招待文やらイラストやらが乗っている。


「この、参加する、しないのところ、最初から参加にマルがされているんだが?」


「お前、絶対来るだろ?」


「それはそうだが!!」


 ぎぎぎ、くやしい。

 

「ついに結婚式ですか。おめでとうございます。パワースさんとショートさんの妹さんなら、きっと素敵なご夫婦になるでしょうね」


 市郎氏が祝福した。


「ありがとう! あんたも頑張ってくれよ」


 何を頑張るというのか。

 パワースと市郎氏が握手している。


 招待状を持ち帰ると、カトリナがカッと目を見開いた。


「向こうの世界の結婚式!? 行く!! あ、でも着るものとかどうしよう?」


「あっちにはレンタル衣装もあるからな。多分今頃は、母親が探していることであろう……」


「そっかー! お義母さん、本当のお母さんみたいで、私好きなんだよねえ」


 カトリナの母親は幼い頃に亡くなっているからか。

 むむむ。


「よし、参加するかあ……」


「やったあ!」


「やったー!」


 マドカがカトリナの真似をした。

 そうか、貸衣装でマドカの可愛い姿をまた見られるのか。

 よしよし、行く気になって来たぞ……。


 こうして俺は、Xデーに向けて、己の気持ちを盛り上げようとするのであった……!


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