第251話 迎肉祭、始まる

 朝。

 村の広場から運び出されてきた屋台が、広場にもどんどん並ぶ。

 想定以上にやって来た客……いや、参加者が多い。


 そうそう、客ではなくて参加者なのだった。

 みんなで祭りを盛り上げるのだ。


 屋台では、農協の若者たちが商品を提供する。

 地球産の野菜は美味いから腰を抜かすであろう。


 だが、異種族たちは野菜を別の楽しみ方で味わうこともできる。

 それは、魔力量である。


 若き貴族たちには亜人が多く、その半数は生来の能力として魔法を扱うことができる。

 そのため、食品に含まれる魔力にも敏感なのだそうだ。


 食味なら地球の野菜。

 魔力量なら勇者村の料理!

 負けんぞ、地球産の食物め!


 と俺が戦意を燃やしていたところ、村の入り口辺りでどよめきが上がった。

 なんだなんだ。


 リタだった。

 そう言えば、祭りの開催宣言を彼女がやるんだった!


 リタの後ろでは、宣言の脚本を書いたブレインが、まるで我が子の晴れ舞台を見るような顔をして立っている。

 若き司祭代理は、大きく深呼吸。

 そして、


「ここはかつて、人を寄せ付けない未開の土地でした。ですが、そこに家を作り、畑を作り、人を増やして村が生まれました。全ては、人と人が繋がる力。ユイーツ神よご照覧下さいませ。ここに、我ら人が築き上げた大地の恵みがございます。人々の笑顔がございます。ユイーツ神よ、お越しくださいませ。ここに、あなたが愛した人の営みの実りがございます。これより続く未来への導べがございます。これなる祭りは、あなたへの祈りとなります」


 ここまで一息で告げて、リタが祈りの仕草をした。

 ユイーツ神は世界中の人々にとってメジャーな神様なので、みんなそれぞれの祈りの姿勢になる。

 しばしこのまま。


 ちなみに、村人や貴族たちの間に混じって、ちゃっかりユイーツ神がいるぞ。

 光を少なめにしているから目立たないようだ。

 おいおい、お前は誰に祈っているんだ。


 少しの間の祈りが終わると、リタが手を広げて宣言する。


「ここに、迎肉祭の始まりを宣言します! 皆様、ともに楽しんで参りましょう!!」


 うわーっと大歓声が上がる。

 お祭りの始まりだ。


 どこから聞きつけてやって来たのか、旅芸人の楽団がおり、ぴーひゃらぴーひゃらと笛を吹いて、どんどこどんどこ太鼓を鳴らす。

 こりゃあいい。


 俺はと言うと、祭りを楽しむ間もなく、今日も今日とてやって来た連中の挨拶をひたすら受けている。

 めんどくさいなあ。

 俺もお祭りに参加したいなあ。


 そう思っていたら、カトリナとマドカがやって来た。


「ショート!」


「おとたーん! おまつい、いこ!」


「そうだな!!」


 愛する嫁と愛する娘がやって来たのでは仕方ないな!!


「諸君、俺への挨拶は夜。夜にしてくれたまえ……! 俺は家族とともに過ごすぞ……!!」


 俺はそう告げると、二人と手を繋いで立ち去ることにしたのだった。

 そしてお祭りの中を歩き回る。


 マドカが「なんこれー! たべうー!」と言うので、そのたびにそれを買って食べる。

 地元の食材を使ったお好み焼きめいたものがあり、それを農協の人々が作っている。

 やるなあ……。


「これはいいねえー。小麦粉でお肉も野菜もまとめちゃうんだ。朝ごはんとかでちゃちゃっと作って、まとめて食べられて、洗い物も少なくなるねえ……」


 カトリナの目が光る。

 お好み焼きは、マドカが美味しく食べた。


 次には焼き鳥がある。


「一口大のお肉を、野菜と交互に突き刺して焼いてタレとか塩を掛けてるんだね? なるほどなるほど……。これならお野菜とお肉を同時に焼けて、子どもも気にせず食べちゃうかも……」


 カトリナの目が光る。

 焼き鳥は、マドカが美味しく食べた。


 次にはアメリカンドッグがある。

 さすがに中心になるソーセージは用意できなかったので、魚肉をミンチにして成形した、かまぼこめいたものを使ってある。


「主食とお肉を同時に……? ああ、でも中のお肉はちょっと作るの大変かもねえ。え、ショート、これって本当は動物の腸にミンチ肉を詰めて焼いたものになるの? なるほどなるほど、それを保存できるようにすれば……」


 カトリナの目が光る。

 本来、オーガは創造的才能には恵まれていないのだが、目の前にあからさまなヒントがあるのと、日々奥様方からインスピレーションをもらっているカトリナは、発想力というものを芽生えさせて来ている。

 ちなみにアメリカンドッグもマドカが美味しく食べた。


 流石にお腹いっぱいになったらしく、けぷーっと言っている。

 お腹が膨れると眠くなるものである。

 目をこするマドカを抱っこしたら、すぐにぷうぷうと鼻息を立てて寝始めた。


 たくさん食べてたくさん寝る。

 大きくなれよー。


「あらおいし」


 カトリナはさらにさらに、色々な屋台を回って食べ比べている。


 パメラの仲間だった屋台の人々もやって来ており、彼らが作るモツ焼きとかも美味い。

 パメラの仲間たちからは、バインが大人気だった。


「パメラに赤ちゃんがなあ!」


「おう、そっくりだ!」


「まだ生まれて一巡りしてないのか? でかいなあー」


 たくさんの大人たちに囲まれて、バインが「お?」とか首を傾げている。

 堂々としたものだ。


 そうこうしていると、旅芸人たちが村の中心で出し物を始めた。

 笛や太鼓を慣らしながら、軽業を見せたり、ジャグリングをしたりする。

 やんややんやと盛り上がるみんな。


 注目が彼らに集まったところで……。


「ここで、一大発表をする!!」


 いきなり宣言したやつがいた。

 誰だ。 

 パワースだ!


 ……なぜあいつは、ビシッとした小綺麗な白いワイシャツを身にまとっているんだ?

 あれは地球のものだろう?


 そしてパワースの隣に並んでいるのは、白いサマードレス姿の海乃莉では?

 ま、ま、まさか!!


「俺、パワースと」


「私、海乃莉は」


「「世界の壁を超えて、結婚します!」」


 な、な、な、な、なんだってーっ!?

 自分も世界の壁を超えてカトリナと結婚したことを完全に棚に上げ、俺は腰が抜けるほど驚愕したのである。


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