第244話 酔っ払い、集まる

 ヒロイナから散々、いかにお腹に赤ちゃんがいるのが大変か、凄いかを聞かされて、さらに禁酒せねばならない苦しみについて訥々と語られたので、お腹がいっぱいになった。

 あいつの周囲は経験者ばかりいるから、何かあっても頼れて安心であろう。

 奥様方に任せて、俺は移動しますかね……!


 ということで、フォスのところにやって来た。

 既に酒で真っ赤になって、くてっと転がっている。


「ありゃ、ダウンしている」


「こいつは酒に弱いな。飲めない体質じゃなさそうだが」


「下戸と言うのですよ。これはセントラル帝国周辺にそういった体質の人物がちょこちょこおられるんですよね。ですが、ハジメーノ王国の人間には基本的に存在しません」


 少し頬を赤くしながら、酒盃を口に運ぶブレイン。

 既に虎人の親子もいて、彼らは酒の肴である干し魚をむしゃむしゃやっている。


 フーが、骨までバリバリ食ったあと、


「俺がその下戸だな。酒は全くダメだ。親父も弱かったよな」


「わしら虎人は酔いやすいんですわ。その中でも、酒は全く受け付けないのがフーですな。まあ、虎人は猫みたいなものなんで、またたびでも酔っ払いますからな」


 酒いらずです、と笑う虎人のグー。

 なるほどー。黄色人種に当たるあの地域の人々に下戸がいるらしい。

 虎人もその例に漏れないのかもな。


「フー、ピアは大酒飲みになる可能性があるのではないか」


「ない」


 断言するフー。


「食い道楽にとって、酒はやり過ぎると腹を膨らませちまうもんだろう。酒も食材の一つ、料理の一つでしかねえよ。ま、俺は飲めないんだが」


 おお、食いしん坊への理解が深い。

 そんなフーが求婚しているピアだが、夕食をたらふく食い、歯を磨いて早々に家に引っ込んでいる。

 寝ているのであろう。


 アリたろうの姿もないので、ピアの家にいるはずだ。

 途中で、フックとアキムも合流してきた。

 みんなで酒盛りである。


「パメラがなあ。まだ酒が飲めないと嘆いててな」


「あー、赤ん坊のおっぱいが終わらねえといけないもんなあ」


 ブルストの言葉に、フックが分かる分かる、と頷く。


「俺が地元にいた頃は、厳格に教えを守ってたからなあ。うちの神様は、酒は禁止だったんだ」


 アキム曰く。

 砂漠の王国だからな。

 水がたっぷりと取れないところの民は、酒を飲んではいけなかったのだ。

 酒は体の水分を奪い、命が危なくなるし、酒を飲んだあとで大量の水が必要になったりするからな。


「うちの神様はさ、その土地に行ったならその土地の風習に従えとも言ってるからな。お陰で酒が飲める!」


 そんなアキムが信じてる神様も、ユイーツ神であることに変わりはない。

 土地ごとに、教えが最適化されているのだ。


 さて、俺はぶっ倒れているフォスでも起こして、話を聞くかな。

 彼に毒消しの魔法、ドクトールを掛けた。


 生水からアルコールから致死性の猛毒まで、全部解毒できるぞ。


 スッとフォスの顔から赤みが引いた。

 彼の目が開く。


「あっ、ショートさん!」


「おう。話を聞きに来たぞ新米お父さん」


「あー、いやあ、ありがとうございます」


 謙遜しないな。偉い。

 誇らしいことだし、嫁さんと子どもの価値を理解してるってことだ。


「で、実際どうだった? なかなかできるまで苦戦したみたいだが」


「はい。僕はこう、リードされっぱなしだったんですが」


「だろうなあ」


「でも、彼女も最近は、マドカちゃんたちを見て『いいなあ』って言うようになってて」


「そうかー」


「だから僕は、ユイーツ神様に毎晩祈りを捧げながら頑張りまして」


「ほうほう」


「いやでも、義務感とかじゃなくて、純粋に愛があってですね? そうしたらこうして授かることができて……。彼女もとっても嬉しそうで。ここ最近、ずーっとニコニコしているんです。体には結構負担が掛かってるんだと思いますけど」


「その辺りのサポートは得意だもんな」


「ええ! それに、リタさんも神殿での仕事は一通り覚えましたし。なんだか、何もかも上手く行っているから怖くなってきますよ」


「きちんと的確に備えて、励んできたから上手く行ってるんだ。不確定要素とか、今後はいくらでもあるけど、また備えていけばいい」


「はい!」


 うーむ、フォスもこう、芯みたいなものが出来上がっている。

 初めて会った頃の、可愛い系男子とは別人だな。


「僕はやります。やってみせます! 大事なものも、守ってみせますよ!」


「いいぞいいぞ!」


 酔いが醒めたフォスの手に酒盃を渡し、勇者村謹製のにごり酒を注ぐ。

 これはブルストが丘ヤシから作った、甘い感じのお酒なのだ。


 奥様方には人気だが、するする飲める飲みやすさの割にアルコール度数が高いっぽい。

 一杯ぐっとやったフォスが、また真っ赤になった。


「僕はれすねえ! ヒロイナさんを、愛してまふ!!」


「いいぞいいぞ!」


 俺も彼の惚気を聞きながら酒を飲む。

 だが、俺は酒に飲まれている余裕など無いのである。

 こうしている間にも、分身を作り、村の中をざっとパトロールさせる。


 よしよし、子どもたちは神殿に集められて、シーツとタオルケットで寝ているな。

 トリマルとヤギ軍団がいるので、子どもたちも安心して眠れるというものである。

 アニマルセラピー効果はすごい。


 クレイゴーレムたちは、本日分の仕事を終えて休息に入っている。

 そしてニーゲルの家も静かになって……おっと!

 野暮というものだったな。


 物音とかをバックに、俺の分身がクールに立ち去る。


 奥様方のお喋りは留まるところを知らない。

 分身はサッと摘めるスナック的な感じで、揚げ芋チップスをどっさり作り、奥様方にスッと差し出した。


「ショートありがとうー!!」


 分身がカトリナに強烈にハグされた。

 俺にもその感覚は伝わってくるぞ。

 さあ、たっぷり女子トークを楽しむがいい。


 こっちもこっちで、酒盛りしながら男子トークを楽しむとするのだ。

 やがて戻ってきた分身と一つになった俺は、船を漕ぎ始めたフォスを前に、ちょっと考えた。


「よし、寝かせておいてやるか」


 そういうことになった。

 勇者村にも、まだまだ新しく生まれてくる命があるなあ。

 楽しみなことだ。


 彼らを迎え入れるためにも、村をもっともっと豊かにしていかねばな。



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