第243話 ついにできたか!!
「はい、まーそういうわけでね」
いつもの、村人がほとんど揃っての夕食が終わり、いきなりヒロイナが切り出した。
なんだなんだ。
女性連中はみんな(ピアや赤ちゃんたちを除く)察したらしく、ニヤリと笑う。
ま……まさか……!?
「あたしもこう、腹の中に命を授かりました。わーわー、はい拍手ー」
やる気なさそうに拍手してみせるヒロイナ。
いや、これはあれだな。
照れくさいんだな?
フォスが傍らで、すっごい笑顔でばちばち拍手している。
涙目ではないか。
そうかあ、フォスも父親かあ。
かくして、奥様軍団が大変に盛り上がり、ヒロイナを囲んでわいわいお喋りを始めた。
こうなれば、洗い物は男たちの役割である。
「ついにヒロイナもか。あいつはなんか、ずっと気楽な状態でいいわよなんて言ってたのにな」
パワースが意外そうな顔をしつつ、皿をもりもり洗っている。
こいつ、皿洗いが上手くなっている……?
実家で家事の手伝いをしているな、貴様……!?
「お前が王宮を飛び出したときはどうなるかと思ったけどな。それがほら、なんだかんだでまとまって、みんな同じ村でよろしくやってる。まあ、お前のお陰だよな。やらかした俺ですら、お前は助けてくれたからな」
「罪を憎んで人を憎まずって言うからなあ。というか、マドレノースを相手にしたら、人間が抱けるレベルの悪意とやれる悪事ってたかが知れてるんだよ。誰だってやり直せるぜ」
「でかいやつだなあ、お前は!」
パワースはわはは、と笑った。
それでこそ俺の義兄だぜ、みたいなことをぼそっと加えたので、俺は奴に腹パンを放った。
「ウグワーッ!?」
パワースが吹っ飛んでいく。
皿洗いは俺がやる!!
遠くでパワースが受け身を取って立ち上がり、そのまま実家直通コルセンターの方にいそいそ向かっていく。
なんという男だ!
「ショートさん、これとこれとこれも洗って」
フックとアキムが洗い物の山を出してくる。
食べかすや食べ残しは、肥溜め行きである。
ニーゲルが回収して、発酵させて再利用する。
クレイゴーレム軍団が、まるでカルガモの雛のようにニーゲルの後ろに続いている。
「ほうほう」
「こうやって」
「食材を」
「無駄にせずに」
「活用していくわけです」
「ね」
最後の一人にセリフ残しておいてやれよ!
クレイ5欲張って喋りすぎだろ。
なるほど、赤ちゃんに毛の生えた知能レベルか……!
ともかく、クレイゴーレム軍団は大変勉強熱心だ。
みんな自前で調達してきたらしき粘土板を手にして、ニーゲルの言うことを書き込んでいる。
「このままだと使えないっす。新しい肥溜めに入れて、他の肥と一緒にしながらかき混ぜてじっくり発酵させて行くっす。順番も決まってるっす。だから、目印に石を置くっす。石を三日ごとに移動させるっすよ」
「「「「「「おおー」」」」」」
ハモったハモった。
微妙に全員声色のトーンが違うのな。
これを作った魔本は、芸が細かいのか術の精度にムラがあるのか。
おっと、そんなことを気にしている場合ではなかった。
俺は超加速して洗い物を終えて、乾かしておいた。
そして奥様たちの話に加わる。
「やっと来たわねショート。あんたがいないと始まらないんだから、さっさと洗い物行くんじゃないわよ」
「村長としては率先してやるべき仕事は片付けねばならんだろ」
「あんたってそういう時、平気で情を殺して即断するわよねえ……。まあいいわ。おかげさまで、あたしもどうにかこうにかってわけ。フォスはブルストに連れて行かれて、酒を飲まされてると思うけど」
「確かにブルストを見かけないと思った」
ブルストとブレインが、フォスと一緒に酒を飲むという状況になっているらしい。
故にここは、正しく女の園である。
女性しかおらん。
「おめでとう」
俺が告げると、ヒロイナが眉尻を下げた。
「ありがとう。ま、色々やらかしたし、かなりドツボに嵌りそうになってたあたしが、まさか人の親になれるとは思わなかったわ……。いい? 危険な状態になりそうだったら、絶対助けなさいよ?」
「どういう脅迫だ。まあ助けるが」
この世界、乳幼児の死亡率は高いし、出産時に母親も死んでしまうこともちょいちょいある。
特に人間は多いな。
その代わり、年中発情期で子どもを作れるので、頑丈な個体がポンポン産んで増えている。
異種族は発情期が決まっているらしくて、それも年ごとどころか、数年ごともざららしい。
数がそう多くないわけだな。
その代わり、肉体的には人間よりも強靭。ただし、肉体を維持するために相当な食事量か、特定の住環境が必要になる。
つまり、この世界における人間の乳幼児死亡率を下げる方向に、俺や神が介入したとすると……。
人口爆発が起こり、世界を覆い尽くさんとする人間の群れと、亜人たちが生存領域を取り合う戦争状態になるだろう。
なので、基本的に手は貸さない。
勇者村の場合は特別、というだけだ。
それに、俺が手を貸したが最後、生まれてくる赤ちゃんが絶対とんでもないことになるじゃないか。
これ以上超人を作るつもりは無い……!!
「ばーうー!」
「ホロホロー!」
「まてー!」
「まてまてー!」
トコトコ走るトリマルと、それに乗ったバイン、そして追いかけるマドカとサーラが駆け抜けていった。
……まあ、超人と言っても赤ちゃんは可愛いからな……!
大切にしなくちゃな!
さっそく揺らいでいる俺なのであった。
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