第245話 お祭りの計画

 また人も増えたし、赤ちゃんたちも大きくなってきたし……。

 ということで、俺は勇者村の一つの区切りとして、お祭りをやろうと考えた。


 以前、うちの村でホロロッホー鳥の肉が食えるようになった時、感謝の意味も込めて迎肉祭というのをやった。

 あれをもう一度やろうというのである。


 あの時と比べると、肉は安定して供給できるようになった。

 ホロロッホー鳥はいつも生まれているし、イノシシは獲れるし、フォレストマンからも森の珍味として変わった肉がもらえる。

 彼らは昆虫とかもくれるのだが、これがまた面白い味がする。


 ちなみに昆虫食は、ヒロイナとフォスとシャルロッテがNGだ。

 合う合わないはあるからね。

 意外にも、勇者村の神官代行となったリタは平気らしい。


「ちっちゃい頃、住んでた村ではゲンゴロウとか揚げておやつに食べてたんです」


「そっかー。地球でも、国によってスナック感覚だったり、バリバリの主食だったりしてよく食べられているからな。地上にいるカニやエビみたいなもんだ」


 俺も三年間の勇者生活の中で、そのへんの食事には慣れた。

 好き嫌いしたら死ぬ環境だったからな!


 話を戻そう。

 迎肉祭である。


 これは神事的な意味合いもあるので、今回は相談役としてリタに来てもらった。

 リタももう十四歳である。

 こっちに来てすぐに十一歳になって、三年目だから十四歳。これで合っているはずだ。


 以前は大人びた感じのお子さんだったのだが、今では淡い色合いの茶髪を長く伸ばした、儚げな印象の美人さんに成長した。

 儚げに見えるけれど、実はこっそりとブルストに師事して釣りの腕を上げているのを俺は知っている。


 アキムとルアブがリタを取り合って争うのは、よく見る光景だな。


「迎肉祭をやるに当たって、リタには神官としての役割をお願いしたいんだ」


「私が神官ですか! そんな大役、いいんですか?」


「いいも何も、ヒロイナは腹に赤ちゃんいるからな」


「そう言えば……。じゃあ私がやらなくちゃですね……! 最近、お魚を捌けるようになったんです」


 うちの村の女子はどんどんたくましくなっていくな。


「いいことだ。じゃあ、命をいただくってのも、釣って調理して食べるところまで行ってるだろうからよく分かると思う。この辺、王都の神官とかになると分かってないやつが多くてな」


「そうなんですか?」


「加工された食物しか市場には並んでないし、あいつらは遊行でもしない限りは都の外に出ないからな。実感として生き物の命を食ってるんだってのが分かってない事がある。やはりここは、自らの手を使って命を奪って食べ物にした経験がある方が望ましい……」


「そ、そうなんですか?」


 リタがちょっと引いている!

 いかんいかん。

 いつもの連中に話しかけているのではないのだった。

 

 リタはあらゆる意味で、普通の感性を持っていて優しいのだ。

 加減せねばならん。


「外からもお客が来るだろうから、リタの執り行う儀式みたいなのを祭りの半ばで行う。これがキモになる部分な。あと、開会と閉会にも一言頼む。脚本はブレインや魔本が考えてくれると思うから……」


「は、はい! 責任重大だあ……」


「うちの村の新しい神官様だからな! 外の世界へのお披露目も兼ねてる。俺は君に期待してるのだ。大人たちが全力サポートするので、気合を入れて挑んで欲しい」


「はい!」


 よいお返事だ。

 彼女には期待できる。

 ただ、とても真面目な子なので、頑張りすぎないように注意しておかなくてはな。


 頑張りすぎると、物事はたいてい逆効果になるものだ。

 

 最近のんびりと暇を謳歌しているブレインを呼んで、リタのサポートを任せた。


「お祭りをやるんですか? それは素晴らしい。勇者村は良いところですが、乾季と雨季の入れ替わり以外に大きな節目が無いのが気になっていました。祭りを定期的に行うようになるといいですね」


「そういうものなのか?」


「そういうものです」


 ブレインが頷く。

 隣でリタが、へえーっと目を丸くしていた。


「私たちは、何を以て時間というものを認識していると思いますか? 日の昇り沈み、月の満ち欠け、季節の移り変わり。色々あるとは思います。ですけれど、そういうものは全て当たり前にやって来るもので、日常なんです。では、日常の中で、私たちが時間の経過を実感するのは何でしょう? それが、節目というものです」


「節目か。例えば俺なら……マドカが生まれたとかそういう?」


「ええ。それも節目ですね。今まで連続していた日常に、大きな変化が訪れる瞬間。あるいは、ショートならばよく経験していると思うのですが、異なる場所に行って事件に遭遇することは、非日常と見えることそのものです。人には、非日常が必要なんですよ」


「非日常が……? なんとなくイメージしてたのは、あまり変なことがあるとみんなストレスだと思ってたんだが」


「ええ。ですから、ほどよく非日常なイベントが、時間と時間の区切りに、節目として存在するのがよろしい、ということです。それがお祭りなのですよ」


 ブレイン、この男は本当に賢者なのだなあ。

 俺はすっかり感心してしまった。


 地球でも、季節ごとに祭りは行われていた。

 そこの出店や屋台で物を食うのは楽しみだったが、どうして祭りが行われるのか、なんてことは考えたことも無かった。


 祭りは、節目か。

 みんなが参加する非日常があって、そこで楽しんで、また次の日常に戻っていく。

 言うなれば、日常が永遠に続くというのじゃなく、それには祭りというエンディングがあって、あるいは祭りがオープニングになって次の日常が始まると。


 そう言う風に、節目節目で理解すると、祭りというのの大切さが分かる気がした。


「こりゃあ、迎肉祭は絶対に成功させねばな」


「は、はいぃ!」


「ああ、リタ、緊張しないでいいから! みんなでサポートするからな、な?」


 ということで、お祭り準備が始まるのである。

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