第240話 カイゼルバーン伯爵にその辺り聞いてみたい

 昨今の勇者村では、新たなる移住者であるフーがピアに求婚した話題で持ちきりである。

 こういう辺境の開拓村というのは娯楽が本来少ないので、そういう話をみんなでわいわいするのが楽しみになる。


 まあ、うちは魔本があったりするから、知的な娯楽にはめちゃくちゃ恵まれてるんだけどな。


「ピアさんはけっこんするのですか!!」


 カールくんまで話題に敏感に!!


「君も気になるお年頃か」


「ははうえが、どうなるのでしょうねーって、ずっといってるんです」


「あー、シャルロッテさんね。確かに奥様方が集まって恋バナしてるもんなあ」


「ははうえがですね、カトリナさんからおみあいしないかっていわれてるみたいです。ぼくにきいてくるんですけど、なんのことかわからないです」


「何だって!? カトリナ、水面下でそんな動きをしていたのか!!」


 うちの奥さんが世話焼きおばちゃんとしての才能を開花させていく……!!


「そしたらピアさんが、フーさんにけっこんしてくれっていわれたって、そのはなしでみんなもちきりになったって」


 話題の方向性が逸らされたわけだな。

 しかし、シャルロッテさんもまだ若いし、カトリナとしては心配なんだろう。


 ところでシャルロッテさんは、伯爵家と正式に離縁したのかな……?

 してないから執事がついてるんじゃないかな?

 この辺りは一応、確認しておかねばなるまい。


 カールくんを連れて、畑にやって来た。

 本日はシャルロッテさんが畑仕事の担当だ。


 首から手ぬぐいを下げて、野良着姿のシャルロッテさん。

 ホロロッホー鳥軍団を誘導しながら雑草を食べさせる姿は、堂に入っている。


 これが、つい半年前までは深窓の令嬢然とした貴族の奥様だったとは、誰も信じられまい。


「シャルロッテさん、ちょっと聞いてもいいですかね。センシティブな話題なんだけど」


「ああ、はい!」


「シャルロッテさんは、伯爵家とまだ繋がっていますかね?」


「ううん……正式に離縁されたという訳ではないので、なんとも……。ですけれど、もう向こうからは何の音沙汰もありません」


「なるほど……。じゃあ、カイゼルバーン伯爵家に行って直接確認してみるか」


「えっ、直接!?」


 シャルロッテが目を丸くした。


「スッキリさせたほうが、今後の身の振り方も変わってくるだろ。よしカールくん、ちょっと君の実家に行くぞ。ついてくるんだ」


「はい、ししょう!!」


 俺がゆっくりと浮き上がると、カールくんもフワリの魔法を使って浮かび上がる。

 いいぞいいぞ。

 既に、自由自在に飛翔できるレベルに達している。


 彼の魔法は、出力は大したことがないが、とにかく精度が高い。

 これは、カールくんがビンを見て編み出した方向性なのだ。


「ビンはパワーとせいかくさがすごいです。ぼくがパワーをふやしてもかてないです。だから、せいかくさならすぐにあげられるので、こっちをきたえました!」


「偉い」


 俺はがしがしとカールくんの頭を撫でた。

 それを嬉しそうに見つめるシャルロッテさん。

 

 彼女にとっては、俺がカール君の頼れる兄貴分のように映っているのだろう。

 うむうむ、息子さんは任せなさい。

 俺の大事な弟子でもあるからな。


 ところで、シャルロッテさんと呼んでいたが、村の仲間をいつまでもさん付けというのも他人行儀だな。

 これからは呼び捨てで行こう。



 こうして俺とカールくんは、カイゼルバーン伯爵家へと向かったのだった。

 

 さすがにカールくんが飛べると言っても、せいぜい時速30キロくらいなので、俺が手を引いてあげるのである。

 これで時速200キロくらいまでは楽に行ける。

 俺としてはアイドリング状態くらいだが。


 風に対する結界を張りながら飛べば、速度を出しても何ら問題ない。


「うわあ、すごいすごい! けしきが、ぐんぐんながれてく!」


「カールくんは語彙が豊富だな……!! もしかして最近、ビンとよくお喋りしてる?」


「はい! ビンにあいてをしてもらって、そのときによくおしゃべりします」


「どうりでビンの語彙が豊かになってきているわけだ。貴族の家庭教師がついたようなもんだな」


 精神的にも、知識的にも、能力的にもビンは凄いことになっていっている。


 対してうちの子は……。

 聞いた話では、両親が娘を猫可愛がりすると大変にわがままなお姫様が育つので、今後が大変になるとか……。


 そんなマドカをきっちりお相手できるのはビンしかいないのではないか……?

 俺はカッとなると、マドカの結婚相手になる男を想像した後に打ち倒そうとしてしまう。

 しかしマドカの将来を考えるとどうだろう……。


 いやいや、俺とカトリナがマドカの教育の際に、こう、もうちょっと慎みを覚えてもらいながら社会に合わせる感じに……。


「ししょー! みえてきました! うちです!」


「うおー! いかんいかん、自分の世界に入り込んでいた」


 まったく。

 マドカはまだ二歳にもなっていないのに気が早すぎるぞ、俺よ。

 ということで、今はカールくんのことが重要だ。


 見えてきたカイゼルバーン伯爵領に、ゆっくりと着陸することにした。

 

 空から俺たちがやって来たので、領民たちが指差してわあわあ叫んでいる。

 おお、騎士やら兵士が出てきたな。


 そして、俺の隣りにいるカールくんを見て、みんなポカーンとした。


「カールぼっちゃま」


「カール様」


「おやまあ、カールちゃん」


 みんなカールくんのことを知っているな……!

 そりゃあまあ、この間まで、次なる爵位を継承する嫡子として育てられていたわけだからな。


 唯一、貴族たちの先頭にいるヒゲの男が、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「どうして今戻ってきたんだ」


 そんな風に口が動いているな。

 色々事情があるっぽいぞ。


 だが知ったことではない。

 カイゼルバーン伯爵領到着なのだ。


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