第239話 肥料の素材を供給せよ

 穴が完成した。

 器ができたら、次は中を満たすものである。

 肥料の材料となるのは、我々が出したうんことかだが、他にも野菜の切れっ端や肉の一部やら、ジャバウォックの内蔵やらが使われている。

 こうして成分を調整して発酵させ、畑に撒いているわけだな。


「頭数には限界がある。つまり、手に入るうんこの量も決まっていると言っていい」


「そうですね。巨人族の方がもっと多く移住して来られると話は変わるでしょうけれども」


「それはバインが大きくなるのを待つ感じだなー。ひとまず、安定供給できる肥料の素材を見つけないといけない」


 俺と、勇者村三賢者は再び会議を始めた。

 ここは肥溜めの近くにあるスペースで、物置にしたりしている。

 特に何に使うと決められてはいないので、ここに四人で車座になって話をしているのだ。


「これは、常時素材を採取に行くチームが必要になりますね」


 ブレインが発言した。


「今までは、たまにショートとクロロックさんが出かけて手に入れてくる素材と、村の中で手に入る素材で十分でした。今後は積極的に素材を入手しなければならないでしょう」


「新しいルーチンワークが誕生するわけだな……!」


 それはできれば、危険ではない仕事が望ましい。

 しょっちゅう行うわけだから、毎度毎度危険な目に遭っていたら、いつ事故が起こって悲惨なことになるか分かったものではない。


「わたくしめから提案ですが」


 カタローグが挙手した。


「フォレストマンの方々に協力を仰ぐというのは? ちょくちょく、彼らと物品の交換をしているでしょう。あの交換品の一部を肥料の素材に変えてもらうのです」


「おおー!」


 俺たち三人が感嘆の声を漏らした。

 それは素晴らしいアイデアだ。

 

 さっそく行動に移すことにした。

 何日かして、フォレストマンたちとの物々交換を行うことになったので、俺はそこに赴いた。


「これ、新しく採れた魚。干した。大きい」


「でけえ」


 なんか、ピラルクみたいなサイズの干し魚が出てきて、勇者村側がどよめく。

 おっといかんいかん。

 いきなりフォレストマンの品物に呑まれているではないか。


 俺はここから提案を始める。


「実は頼みがあってな。俺たちは毎回そっちにあげている野菜を育てるために、肥料というやつを使っている」


「ヒリョウ?」


 フォレストマンが首を傾げた。

 基本的に肥料の概念がないか?


「例えば、みんなでうんこをしたりするだろ。そういうの集めて埋めておいたら、近くの植物がめっちゃくちゃ成長してたとかそういうことない? すぐには育たないだろ。あれってうんこが発酵して肥料になっていって、そこから威力を発揮している」


「おー!!」


 心当たりがあったらしい。

 フォレストマンたちが新しい気付きを得て、どよめく。


「うんこ埋める、草育つ、それをやってるか! 時間掛ければいい、なるほど。臭いもの、獣を呼び寄せる。危険だからすぐ埋めてた」


 フォレストマンが住んでいるのは、危険がいっぱいの熱帯雨林だ。

 確かに、埋めてしまって臭いが分からないようにするのは合理的である。


「なので、今後はうんこや、そっちで捨ててしまうようなゴミとかあったら引き取るぞ。じゃんじゃん持ってきてくれ」


 すると、最初に俺と接触したフォレストマン、マレマが疑問の声をあげる。


「俺、思う。うんこ埋める、植物育つ。うんこをショートにあげる。植物育たない?」


「頭いいなあ! 確かにそれもあるかもしれない。だったら、どうだろう。狩りをしたり食べ物を採集したりしたら、食べかすとか食べられないところとか出てくるだろ」


「出てくる」


「それをうちにくれ」


「おお、ならいい」


 フォレストマンは、何かを加工する、ということが少ない。

 骨は武器に、毛皮は着るものになるが、どうやら内蔵を食ったりはあまりしないらしいのだ。


 内臓は病気や寄生虫、フォレストマンにとって良くない未消化物が残ってるかもしれないもんな。

 彼らは火を使うが、それでも食材が乾いてしまうほどには熱さない。

 汁物にして一気に食べてしまうなどするようだ。


 それでも、食中毒者などが過去に出たという内臓は、食べようとしない。

 ということで、内臓を分けてもらい、代わりにこちらからは、ブレインが調合した薬などをあげることにした。


 マレマに協力してもらって、治験済みである。

 滋養強壮の効果くらいしかないが、フォレストマンにアレルギー反応が出ないなら、体力をつける薬は重宝されることだろう。

 

 かくして、肥溜めに溜めるための素材を一部確保できた。

 その後、生物学の魔本や薬学の魔本が、ピアを連れてやって来た。


 手に入れた熱帯雨林の獣の内蔵を、みんなでわいわい言いながら検分している。

 毒があるとして、発酵させた時に無毒化するかどうかを調べているらしい。

 ピアの手を借りるのは、比較的自由が利く人材であることと、獲物を解体する技量を持っているから。そして、食べられる内臓を報酬にもらう条件で容易に協力してくれるから、らしい。


 魔本の間でも評価を上げているな、ピア。


 ここに、現在ピアに求婚中の虎人、フーもやってきて、「なにっ!? お前、内蔵もイケるのか!! うおおお、俺の子を産んでくれ!!」とか吠え始めた。

 何から何までやつの好みにストライクらしい。

 こういうストレートに愛を叫ぶキャラは好ましいな……!


「えー! フーも内蔵好きなの? うちもねー。内蔵を焼いてから甘辛く味付けたのがねー。美味しくてねえー」


 ピアは食う話しかしていないのだった。

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