第238話 肥溜め拡張計画

 肥溜めの数が足りない!!

 この緊急事態に、勇者村三賢人が集結した。


 カエルの人クロロックと、最近のんびりと図書館で暮らしていた賢者ブレイン、魔本代表のカタローグである。


「想定以上の速度でショートさんが畑を拡張しましたからね。対応する人員も集め、それぞれをみんなが対応できるようにしていっているのは、とても素晴らしいです」


 クロロックは由々しき事態だと言うものの、嬉しそうである。

 カエルの人は一見して表情は分からないが、クロクローと喉を慣らしているのは機嫌がいい時とびっくりした時だ。


「そうですね。ショートは思い立てば、行動は迅速ですから。私も葉物野菜は楽しみですよ。一体どんな料理が、これから出てくるのでしょうか。食にそこまで興味はなかったはずなのですが、勇者村に来てから、食事が楽しみでなりません」


 ブレインも微笑んでいる。

 こころなしか、太った気がする。

 彼に運動もさせないとな……!


「我ら魔本に食事は必要ないとは言え、食料が増えれば人が増え、人が増えれば読者が増えますな。つまり我々としては、肥溜めの拡張には全面協力を行うと決定しておりますぞ」


「ありがたい! 肥溜め要員は、ニーゲルと、相方のポチーナがやってくれているが、どちらかというとポチーナは調理の方に比重を置いているからな。同じ日に作業はできないし、こちらの労働力的な問題もある。色々解決しなければいけないことは多いんだ」


 ふーむ、と考え込むおらが村の賢者たち。


「肥溜めの人員は問題ありませんぞ。単純業務ならば、我ら魔本がゴーレムを使って労働力としましょう。ただし、細やかな作業は人の手が必要になりますからな。ニーゲル殿は肥溜めの主担当という形になる」


「それがいいな。ポチーナとくっついてから、ニーゲルがなんか頭が良くなってきててな」


「人との出会いは、その人を変えると言いますね」


 カエルだけに、と続けるクロロック。

 カエルジョークだ!


 だが、確かにそれはある。

 俺がカトリナとブルストと出会って、前向きな人間になったように。

 ニーゲルは、自分だけが生きていくので必死だった状況から、誰かと手を取り合って生きていける環境に変化したのだ。

 あいつも成長しているのだ。


 とりあえず、決定したことをニーゲルに伝えに行った。


「お前の部下としてゴーレムが来るので、これに仕事を教えて単純作業を任せることになる」


「お、おれが教えるんですか!!」


 目を見開くニーゲル。


「そうだぞ。どこまで進展してるかは知らんが、お前だってポチーナとの間に子どもができたりするかもしれないだろ。そしたら子どもにとって、お父さんとお母さんは最初の先生なんだぞ。絶対に何か教えることになるんだから、今ここで練習しておいた方がいい。ゴーレムは文句言わないからやりやすいぞ!」


 ということでニーゲルを説得した。

 そして、ぞろぞろやって来るゴーレム。


 勇者村の土から作られた、六体のゴーレムは、なんかつるりとした質感で、陶器人形のようだ。

 クレイゴーレムというやつだな。


「クレイ1です。こんごともよろしく」

「クレイ2です。こんごともよろしく」

「クレイ3です。こんごともよろしく」

「クレイ4です。こんごともよろしく」

「クレイ5です。こんごともよろしく」

「クレイ6です。こんごともよろしく」


 六体がそれぞれ、握手を求めてきた。

 俺とニーゲルで握手をして回る。

 思ったよりも知的だぞ、こいつら!


「我々は勇者村の土で作られたのですが、すると不思議なことが起きて知性が宿りました。ですが知的には赤ちゃんに毛が生えたくらいなのでご安心ください」


 赤ちゃんに毛が生えたくらいの知性のやつが、ご安心くださいとか言うか。

 そんなわけで、ニーゲルはゴーレムたちの教師となり、肥溜めでの作業を教えることになった。


 まず、人員問題はこれで解決。

 次だ。

 肥溜めそのものを増やさねばならない。


「よし、穴を掘るか! ニーゲル、手伝え」


「うす!」


 肥溜めの現状維持については、ゴーレムたちにざっと教えてやらせておく。

 だが、あくまで現状維持しかできないので、任せておけば徐々に肥料は劣化していくのだ。


 正確な現状維持とは、常に新しい材料を加えたり、発酵の度合いをコントロールさせて行っていくものだからな。

 単純作業しかできないゴーレムでは、まだまだ難しい。


 そのため、穴を掘って肥溜めを増やす作業は迅速に行わねばならなかった。

 シャベルを持った俺とニーゲルが、わっせ、わっせ、と掛け声をあげながら穴を掘り進んでいく。

 魔法で一発で空けてもいいのだが、そうするとニーゲルに技術を継承できない。


 できうる限り、この辺りは体一つで行っていくのが俺の主義だ。

 二人でせっせと穴を掘っていると、汗がぶわっと吹き出してくる。


 肥溜めは日陰に作られていて、吹き抜けていく乾いた風が大変心地よい。


「冷茶が入りましたです!」


 ポチーナがお茶を淹れてくれたので、その辺りに座って休憩することになった。

 なぜかマドカとサーラがいる。


「おとたんおしごと!」


「すおいねー」


 二人がぺちゃぺちゃおしゃべりしている。

 ポチーナが二人にもお茶を出して、赤ちゃんから幼女にレベルアップしようとしている彼女たちは、きゃっきゃとはしゃぎながらお茶を飲んだ。


 ふーむ。

 ふと思うんだが、この世界の赤ちゃん、成長が早いと言うか、赤ちゃん赤ちゃんしている時期がちょっと短い気がする。

 環境が現代日本よりも過酷なので、ある程度速い成熟を要求されるんだろうか。


 単純に勇者村という刺激的な世界が、二人に知恵や知識を与えている気もしないでもない。 

 ビンなんて、まだまだ三歳になるかならないかだからな。

 それであれだけ人間ができているのだ。


 そんなことを思いながら、冷茶を飲んでお茶請けの干し芋を食った。

 よし、気分転換、エネルギー補給完了。


「作業再開するか、ニーゲル!」


「うす!」


 かくして、肥溜め拡張計画は進んでいくのだ。



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