第237話 炒められしチンゲンサイ

 ふと気付いたが、ドンドン教のバックには、どうも魔王とは違ったでかい存在が関わっていそうである。

 世界の外から来た神とか、超越者みたいに呼ばれそうな何かだ。

 この星に目を付けたのかなあ。


 まあ、そんなことは後回しである。

 今やるべきことは何か?


 そう、葉野菜を料理することだね。


 俺は虎人親子から提供されたチンゲンサイを使って、豚肉(イノシシ肉)と合わせた炒めものを作るのである。

 味付けは魚醤を使うのだが、これもそのうち、醤油や味噌を開発して自給できるようにしていく予定だ。

 開発者はクロロックと魔本たち。


 魔本がいるおかげで、様々な知識に手が届くぞ。

 ワールディアは世界のどこかに、醤油と味噌が存在しているらしいのだ。

 そのため、これらの調味料について書かれた魔本がある。


 大豆発酵食品の研究は、どんどん進んでいるのだ。

 おかげで、クロロックは最近、畑仕事に関われていない。


 彼の代理をしている農学の魔本が、日陰を伝いながらふわふわと浮遊して、農業に勤しむ村人たちにアドバイスをして回っている。


 話を戻そう。

 チンゲンサイを炒めるんだ。


「うおお、燃え盛れ炎! 今葉物野菜と豚肉が一体になり中華風っぽい肉野菜炒めが生まれる!!」


 俺は咆哮をあげながら炒めた。

 特に難しい料理でもないので、きちんと火が通った段階で完成なのである。


 カトリナに試食してもらうと、彼女はうんうんと頷いた。


「ふつうに美味しい」


「ふつうですか」


「うん。感動するほど美味しいってわけじゃないけど、ふつうに。でも、チンゲンサイっていうお野菜の歯ごたえ面白いねえ。炒めたのに、ちょっとシャキシャキしてるの」


 チンゲンサイは味そのものは淡白だが、食感が素晴らしい。

 料理の色合いも鮮やかになるしな。


「そうだろうそうだろう。マドカも食べるか?」


 近くに、お友達と遊び終わったらしいマドカがやって来ていたので、料理のお皿を差し出す。

 うちの娘は目を輝かせて駆け寄ってきた。


「たべるー!!」


 豚肉を食べて、ニコニコする。

 そしてチンゲンサイを食べて、「んー?」首を傾げた。


「んー。おーしくない」


「な、なんだってー!!」


 ガーンとショックを受ける俺。

 チンゲンサイ美味しいのに!!


「あー、これは子ども向きの味じゃないかもねえ。マドカはもっと、分かりやすい味が好きだもんね」


「そ、そうなのか……! いや、確かに俺が子どもの時も、味の薄い野菜は嫌いだった気がする。美味しくないって言ってたな……」


 そしてこの世界の葉物野菜だが、地球のそれに比べると、若干味にえぐみがある。

 地球の野菜は品種改良されているからな。

 めちゃくちゃ美味いのだ。


 ということは、ワールディアの野菜は調理前提だな。

 キャベツは炒めれば甘みが出てくると思うから、子どもに食べさせるのはあれか。

 チンゲンサイは大人向けだな。


 俺は調理の計画を組み立てる。

 その間に、マドカとカトリナで、お皿はすっかり空になってしまった。


 美味しくないといいながら、チンゲンサイも豚肉も全部平らげるマドカ。

 もしかして、美味しくないというのを味が濃くない、みたいな意味で使ってるんじゃないか……?


 まあ、全部食べたんだから問題ないだろう。

 好き嫌いはあるみたいだが、嫌いなものも全部食べるのがマドカなのでそこは心配しなくていい。


 むしろ、赤ちゃんの味覚を調べるにはサーラに食べさせると色々分かってくる。

 食が細くて、好き嫌いもそれなりにあるからな。


 いや、だが食が細い食が細いと言ってきたが、最近のサーラはマドカの隣でご飯を食べているので、すっかり大食いマドカに釣られてそこそこ食べるようになってきている。

 おかげで背丈もぐんぐん伸び始めた。


 むむむ……、うちのマドカは実は赤ちゃんたちの規範となりうるのではないか……?


 じーっとマドカを見ていたら、マドカもじーっとこちらを見返してきた。


「だっこ!!」


「よし!!」


 俺はすぐさまマドカをだっこする。

 おお、だっこするたびに、ずっしりと重くなって行っているのが分かるな!


「ということで、マドカを連れてこの辺り歩いてくる」


「いってらっしゃーい。私はチンゲンサイっていうの、色々工夫してみるね」


「心強い……!」


 カトリナにチンゲンサイの研究を任せて、俺はマドカとともにお散歩に出た。


「おとたん、まおねー、おーしーのがねー、たべたいのねー」


「美味しいのならいつも食べているのではないか」


「あのね、おとたんと、おかたんとねー、あのね、しおくて、おっきーの。ぱへ!」


「パフェ……!」


「ぱへ!」


 キャーッと盛り上がるマドカ。

 目をキラキラさせて俺を見つめてくる。


 い、いかん!

 あれは王都にしか無い贅沢品。

 普段から食べられるものだと認識させてはいけないのだ。


 娘のおねだりには弱いお父さんだが、ここでわがままを聞いたら大変だ!


「丘ヤシにハチミツを掛けたやつで手を打つのだ」


「おー!」


 マドカのテンションが上った。

 何か甘いものが食べられればそれで良かったらしい。


 さては娘よ、俺から譲歩を引き出すために、甘味の究極であるパフェを例に挙げたな……!?

 恐ろしい子……!


 俺が我が子の凄まじい頭脳におののいていると、向こうからバタバタと二人組がやって来た。

 ニーゲルとポチーナだ。


「ショートさん! すんません! 相談に乗ってください!」


「どうしたんだ、二人とも血相を変えて」


「実は、肥料が足りなくなりそうなんです」


「なにっ!?」


 ポチーナの耳も、心配のあまりかしゅんと伏せている。


「畑が増えて、肥料を使うことが増えたので、とてもとても今の量では足りないです!」


「しまった、その問題があったか!!」


 葉物野菜の畑が増えたことで、勇者村の面積が増した。

 そして十分な収量を得るためには、十分な肥料が必要になる。


 肥溜め拡張計画をすべき時がやって来たのである。


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