第232話 葉物野菜を求めて

 落ち着いてきた頃合いである。

 葉野菜を作る村人を加入させねばならぬと考えた。


「葉物野菜が恋しくなってくる」


「おいおいショート。葉物野菜って、旬にしか食えないあれだろ? あんなもん、生産している村か、漬物以外じゃまともに食えない贅沢品だぜ」


 ブルストが驚く。


「うむ、ワールディアだとそうだろう。それに、保存技術も漬物以外は無いからな。ならばどうする? 簡単だ。村に葉物野菜を育てる人を招けばいい」


「ほう!! そりゃあその通りだ。だが、どうやって勧誘する? アキムみたいに連れてくるのか?」


「そうだな。これまで世界を巡って、葉物野菜を盛んに栽培しているところが何箇所かあった。これから総当りでそこを巡って、移住者を探してくる」


「そうか! 期待してるぜ!」


 俺とブルストは拳をぶつけ合って健闘を祈るのだ。

 かくして、俺はフワリと上空まで舞い上がる。


 見送る村の仲間たちに手を振った後、バビュンと飛んでいく事にする。


 さて、葉物野菜がよく採れる場所はどんなところか?

 四季がそれなりにあって、野菜を育てぬ限り、可食部の少ない野生のものを食わねばならぬ環境ではないか。

 つまり、狙い目は山里。


 まずは北に向かっていく俺である。

 海の王国から山を一つ隔てたところに降りる。


 羊がたくさんいる。


「あんれまあ、空から人が降りてきたよ」


 俺を見てびっくりする村人たち。

 ここは山奥で、特に産業や、魔石が掘れる鉱山などがあったわけではないので、魔王軍がやって来なかったらしい。

 勇者の顔を知らない。


「実はな、俺は葉物野菜を育てられる人を探しているのだ」


 集まってきた、山奥村の村人たちを前に、俺は声を上げた。


「ここに葉物野菜を育てられる者はいないか」


「うちは羊と芋だねえ」


 芋はいかん。

 間に合ってる。


「そうか。邪魔をしたな」


 俺は再びフワリと舞い上がる。


「飛んだ!」


「飛んだ!」


「あれまー!」


 素朴な人々である。

 いつか羊が飼いたくなったら来るとしよう。


 ちなみに、この土地で羊からとれる乳を原料としたチーズ。

 こいつが絶品だったので物々交換でいくらかもらってくることにした。

 これはパンが旨くなるぞ。


 そして俺は考えを改める。


「北だからいいってものでもなかったな。もうちょっと南か……?」


 南方に向けて飛翔する。

 そして降り立った俺は、現地の人々に尋ねてみた。


「葉物野菜を育てていないか」


 彼らは、よく日に焼けた肌をして、獣の毛皮を纏った人々である。


「野菜? 芋畑ならある。あとは獣を狩る」


「また芋か!! 南に来すぎたか! しかし、どこにでもあるな、芋……!!」


 現地の人々に聞くと、この辺りはかつて海だったらしく、塩が含まれた土らしい。

 そのため、芋しか育たないのだとか。

 他の必要な栄養分は動物の内臓を調理して食うことで補っていると言っていた。


 これは仕方ない。

 だが、彼らが作ったという内臓の漬物は珍味だったので、物々交換でちょっともらってきた。

 これは酒が進むぞぉ……。


「しかし、北もだめ、南もだめとなると次はどうするか。俺のイメージ的には、地球のアジアみたいなところで葉物野菜をガッツリ育ててるような……」


 ここでハッとする俺。


「セントラル帝国で葉物野菜の漬物出てたじゃん……!!」


 思いつけば後は行動するだけだ。

 俺はシュンッを使用して移動した。


 セントラル帝国皇帝の間である。


「アレマー!!」


 突然俺が出現したので、そこに居並んでいた家臣団と皇帝が飛び上がって驚いた。


「ああ、会議中だったか! すまんすまん! 俺だ。ショートだ」


「ショート殿でしたか……」


 皇帝がほっと胸をなでおろす。

 周囲にいた将軍たちは、咄嗟に斬りかからなくて良かった、という顔をしている。

 俺が返り討ちにすると思っているんだな。

 俺と彼らではレベルが違いすぎるので、一切の物理攻撃が通用しないのだぞ。


「実は、村に葉物野菜を育てられる農家を迎えようと思っているのだが……もしかしてこちらでは何か緊急事態か?」


「ああ、はい。実は山奥にある村がドンドン教を名乗って独立を宣言しましてな。送り込んだ兵士たちが、謎の威力でやられてしまい、まるで第二の魔王が現れたようだと。これは帝国の全軍を送り込むしか無いかと考えていたところなのですよ」


 皇帝は困り顔だ。

 海を遠く隔てたウエストランド大陸……この国からするとずっと東だが、そっちに魔王が出て大陸ごと崩壊した話は知らんようだな。

 激しい津波のようなものが起きたらしいが、これはユイーツ神がどうにかしたらしい。


「よし、そのドンドン教とやらをどうにかすれば、俺の相談に乗ってくれるか」


「いいでしょう。どうにかしなくても相談には乗りますが」


「俺の気が済まない。何かしてもらうなら、こちらからも何かせねばな」


 俺の言葉を聞いて、なんか帝国の家臣たちが感銘を受けている。

 義の心がある、とか言っている。


「それで、ドンドン教の村はどんなところなんだ?」


「はい。ドンドン村といいまして」


 そのままじゃないか。


「キャベツとチンゲンサイの産地です」


「なんだって!?」


 今度は俺が飛び上がる番だった。

 まさしく、俺が求めてきたものがある村じゃないか!!


「よし、ではそのドンドン教の乱とやらは俺が収めてやろう。その代わり、村人を一組もらっていく!!」


「どうぞどうぞ」


 交渉は成立した。

 俺は皇帝の間に設けられた扉を開くと、そこに続くテラスから飛び立つ。


 目指すはドンドン村。

 葉物野菜まであと少しである。

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