第233話 ドンドン教の野望

 セントラル帝国は広い。

 広いので、一国の中にいくつも気候がある。

 ドンドン村がある辺りは、雨が多い山の中だな。


 ちょうど村が雨雲に隠されていた


「どーれ」


 雨雲に接近して、つんつんと突いてみる。

 念の為の作業である。

 ただの雨雲ならよし。しかし、これが何かドンドン村を守るために強化された雨雲なら……。


「うほっ、ビリっと来た! 魔法結界ですなあ……。明らかに一線を越えた力を持つやつがいるところですなあ、ドンドン村……」


 これは俺がサッとやって来て正解だった。

 俺は手刀を作り、振り上げた。

 聖剣は鍛冶神になってしまったので、今の俺は常に無手なのだ。


「ツアーッ!」


 裂帛の気合が放たれ、手刀が魔法で強化された雨雲を二つに割る。

 ビリビリと空間が震えた。

 俺をバックに、陽の光が村に差し込む……。


「空が割れた!!」


「なんか後光を纏いながら降りてくる人がいる!!」


「神では!?」


「バカな、神はドンドン様がいるはずなのに……!!」


 なるほど、ちょうど俺は、後光が差して神っぽい感じでゆっくり降下してきているところなのか。

 ここは大地で俺を見上げる村人たちの先入観を、利用させてもらおう。


『俺は神やで』


 声に魔法でビブラートを掛ける。

 それっぽくなった。

 ここで気付く俺。


 あっ、マドレノースの厳かな感じの声にビブラート掛かってたの、これかあ!

 あいつも色々演出してたんだな。

 アセロリオンは全くこういう威厳を作ることしなかったからなあ。


 凄みではマドレノースの方が圧倒的に上だと思ったんだが、それこそが相手の心をコントロールするための演出だったのだ。

 倒してなお、あの魔王の凄いところが分かる。


「か、神!」


「新しい神様が来た!」


「ドンドン様の仲間か……!?」


『そもそもドンドン様とは誰だね』


 サービスで、目から光を放ったりしながら聞いてみる。

 村人たちはすっかり俺を恐れていて、膝をついて迎えてくれた。


「ど、ドンドン様はわしらの主ですじゃ」


「十万人のドンドン教団を従える、偉大なる力を持つ現人神です……!」


『えっ、十万人もいるの』


 俺はかなりびっくりした。

 十万人って、ハジメーノ王国の人口と同じくらいいるじゃん。

 さすがはセントラル帝国、スケールが違う。


 この国だけで、一億とかいるらしいもんな。

 世界で最も人口の多い国だ。


「神がびっくりした……?」


「神ではないのでは……?」


『待てお前たち。神も知らないことはあるのでびっくりするのだ。次からはびっくりしない』


 おっといかんいかん、信頼が揺らぎかけたぞ。

 

「そうでしたか……。それで、神は何を求めて来たんですか」


『葉物野菜を育てられる人をうちの村にスカウトにやって来たのだ』


「村……!?」


「神の村……!?」


『いかにも! キャベツとチンゲンサイを育てるのが得意で、なおかつうちの村に移住してもいいかなーっていう人はいないか!』


 村人たちがざわめいた。

 なんだなんだと、他の村人も集まってくる。


「新しい神がノーアポで来たって」


「うちから野菜育てるの上手い人をスカウトしたいってよ」


「えっ! 直接神様の村に行くわけ?」


「それってつまりここにいるよりも凄いことなんじゃね?」


「ばっか、ドンドン教以外は邪教で魔王だってドンドン様が仰ってたろ! つまりこいつは邪教で魔王の神なんだよ!」


「なんだと!」


「許せねえ!」


「とっちめろー!」


 じーっと眺めていたら、妙な方向に話が動いていった。

 そしてついに村人たちが武器を取り、俺に襲いかかってきたので、


『ツアーッ!!』


 俺は彼らの目の前の地面を思い切り踏みしめて、魔力を流して大地を激しく揺さぶってやった。


「ウグワーッ!?」


 村中の人々が立っていられなくなって転がった。

 建物が倒壊しないように、二本足で立っている生き物だけが転ぶくらいの振動を広範囲に広げる、高等技術である。

 名付けて振動魔法フラフラ(俺命名)!

 

 村人たちが全員転がったところで、俺は村の中をじっくり眺めて歩くことにした。

 ところどころに転がっている村人に、事情を聞いて回る。


 すると、ドンドン教団が何を目指しているのかが分かってきた。

 村の中心には、ドンドンという現人神……つまり、神になった人間がいる。


 そいつがドンドン教を組織し、周辺の村人たちを信者にした。

 魔王大戦後、皇帝の弟が暴れだして、荒れてきたセントラル帝国。

 これを憂いた知識人がドンドンらしい。


 そしてドンドンは謎の神様みたいなのからありがたい教えと魔本をもらい、これを使ってドンドン教を組織した。

 今や、ドンドン教はセントラル帝国のあちこちに広がり、あちこちで悪さを働いているそうだ。


 悪さを働いたらだめじゃないか。

 というか、三国志の黄巾党みたいな奴らだな。


 そして、彼らが悪さをする理由として、皇帝の弟が世界に混乱を起こしたからということになっている。

 俺が去年やっつけたヤツだな。

 一年経ってるのにそれをネタにして暴れてるのか。


 どうしようもないな、ドンドン教。


「おい、そのドンドン様とやらはどこにいる?」


「空が割れた瞬間に支部の様子を見に行かねばって言って出かけられました……!」


 逃げたな!?


 葉物野菜の農家をゲットするのと同時に、ドンドンとか言うやつも捕まえなければならないようなのだった。


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