第230話 バイン、トリマルに乗る

 ブルストとパメラの子、バインだが、何気に風邪に罹患していたらしい。

 しかし、オーガとミノタウロスのハイブリッドである、ナチュラルボーン・フィジカルエリート赤ちゃんのバイン。

 数時間熱を出した後、サッと回復したのだそうだ。


「驚いたよ。あっという間に治っちまったんだもの」


 パメラの話を聞いて、俺も驚いた。


「バインは凄いな。その辺りはマドカよりも頑丈なんだな!」


「ぶぶぶぶ」


 俺が話しかけると、バインが口を震わせてぶーっとしている。


「何をしているのだ」


「最近、泣くだけじゃなくて暇つぶしに口をぶぶぶぶぶってさせてるんだよね。寝返りを打てるようになってきたし、そろそろ外を見たいのかもねえ」


「なるほど。独立心旺盛なんだな。そう言えば、随分大きくなったな」


 バインは生まれて半年経つか経たないかというところだが、オーガとミノタウロスの血を受け継いでいるため、かなり大きくなっている。

 既にサーラと同じくらい大きい。


 バインがくりくりっと目を動かして、俺を凝視した。


「なんだなんだ」


「ぶぶー」


「ぶー、か。よーし、外を見せてやろう。ここは安全な子守役を呼んでだな。トリマル、トリマルー」


「ホロホロ」


 呼んだらすぐに、家の入口から顔を出したトリマル。


「ちょっとバインを借りていい?」


「いいよ。その子頑丈だから、ちょっとやそっとじゃどうってことないしね」


 パメラからの了承を取り付けて、バインを抱き上げた。

 ハッとするバイン。

 ママではない男が俺を抱っこしている!? という顔だ。


 だが、俺はバインが状況を完全に理解する前に、トリマルの上に載せた。

 ふわっふわの緑の羽毛に包まれるバイン。

 また、バインがハッとした。


「あー!」


 トリマルの上で、手をぶんぶん振り回す。

 もふもふ、もこもこが気に入ったらしい。

 これは大変元気な子だぞ。


「トリマル、バインを乗せてちょっと村をひとっ走りしてくれ」


「ホロ!」


 トリマルは一声応じると、駆け出した。

 バインが落ちないように、絶妙にバランスをコントロールしながら、加速していく。


「あー!」


 バインの叫び声が響いた。


「あれは怖がってるのかね?」


「怖いの半分、楽しいの半分だねー。ブルストがすっごく高いところまで高い高いするんだけど、その瞬間は顔がひきつってるのに、キャッチされるとキャッキャとはしゃぐのよあの子」


「なるほど、スリルを楽しむ心を持っている赤ちゃんだ」


 いろいろな意味で、大変男の子らしいと言えよう。

 ぐるりと勇者村を一周してきたトリマルは、バインを羽根で掴んで差し出してきた。


「お疲れ! あとでおやつ出すからな!」


「ホロホロ」


 トリマルは頷くと、台所に向かって行った。


「待て待て、俺がおやつを出すようにお願いするから一緒に行こう」


 ちなみに背後では、トリマルに乗って村内一周の冒険を終えたバインが、興奮で鼻息を荒くしていた。

 うーうー、あーあー言いながら手足をばたばたさせている。

 元気元気。


 これは勇者村一の暴れん坊が誕生しそうな予感だな!

 その暴力衝動は良い方向に使ってもらうとしよう。


「トリマル、どうだった?」


「ホロホロ」


「なに、上に掴まって揺られているだけだったが、常に歓声を上げていたか。スピードを愛する心を持っている」


 地球だったら走り屋とかになってたかも知れないな。

 バイン、なかなか凄いやつになりそうである。


 赤ちゃんも、六ヶ月を過ぎてくると個性が目に見えて分かるようになってくる。

 大人しいビンや、引っ込み思案だけどしっかりもののサーラ、そして食欲の権化マドカと言った赤ちゃんたちとは、ひと味もふた味も違うバイン。


 ある意味、一番ステレオタイプな男の子的な性格と言えよう。


「あーうー!」


 手をぶんぶん振り回して、じーっと俺を見るバイン。


「ほう、トリマルに乗るのが楽しかったか。もう一周行ってみるか?」


「あー!」


 言葉が通じているわけではないだろうが、バインがよだれを垂らしながら、満面の笑顔で叫んだ。


「よーしトリマル、今度はジグザグに村の中を頼む」


「ホロホロ!」


 バインを乗せて、再びトリマルが駆け出す。


「嬉しそうだねえ。まだハイハイできないから、自分で動くってのを知らなかったからね。あの子、あんなに動き回るのが好きな子だったんだねえ」


 パメラがすっかり感心している。


「赤ちゃんのうちは分からないもんな。だけど動かない間も、その子の個性ってのは育っていっているのだ」


「そうだねえ。バインは間違いなく、ブルストとあたしの性格を受け継いでる」


「俺もそう思う」


 豪快でエネルギーに満ち溢れた子どもに育つことであろう。

 それに、種族の血が混じると生まれた子どもは強くなる。

 知的にであったり、肉体的にであったり、魔力的にであったりする。


 バインの場合、オーガとミノタウロスという、人種の中では一番パワーに満ち溢れた二つが結びつき、さらに勇者村で様々なパワーに触れている赤ちゃんなので、力の権化みたいなものに育ちそうな気がする。

 これはこれで楽しみだ。


 そして、またトリマルが戻ってきた。

 おや?

 一人増えている。


 トリマルの真横に、ビンが浮かんでいるではないか。


「ちょーとー! ばいん、おっこちそうだった!」


「おお、助けてくれたのかビン! ありがとう!」


「どーいたしまして!」


「ホロホロ」


 なるほど、バインは大変活動的で、二周目ともなるとトリマルの上でばたばた動いたらしい。

 そしてトリマルもフォローしきれず、ころりんと落ちるところだったと。


 だが、すぐ近くに他の勇者村四天王がいた。

 ビンがすぐさま念動魔法でバインを受け止め、ここまで連れてきてくれたのだ。


「うーあー」


「おお、バインがビンを見る目に尊敬の色が混じっている気がする……! やっぱり強いやつが分かるんだな」


「んー? つよい?」


 ビンは首を傾げる。

 まさに、僕、何かやっちゃいましたか? ってやつだな。


 かくして、バインちゃんの赤ちゃん軍団デビューも間近となっているのであった。



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