第228話 新たなる貴族たち
パーティが始まった。
まずは、調子が良くなったトラッピアの演説。
「私の中にはこの国の未来がある。これを守り切るために、私はすべてを使って戦う。去っていった者の力を使ってでもだ。諸君にはこれを支えてもらいたい! 新しいハジメーノ王国を作り上げていくために!」
おおおおおっとどよめく会場。
「ご懐妊あそばされてから、調子を崩していると伺っていたがお元気そうで何よりだ!」
「我らの新たな時代を作るために!」
「トラッピア陛下ばんざい!」
わーっと盛り上がっているのは、異種族の貴族たち。
おや、人間も混じってるな。
どの貴族も、あまり大きな場では見かけなかった連中ばかりだ。
ドルドルドンがふわふわと宙を浮きながらこちらにやって来た。
「やあやあ勇者様。礼服が……失礼、あまり似合っておられませんな」
「正直なやつだなあ。俺はTHE・日本人という体型だからな。こういう礼服はなあ」
「奥方もラフな感じのドレスで」
「カトリナはな、コルセットをやられるとお腹いっぱい食べられないからって妊婦用のドレスを使わせてもらっているんだ」
「なんとも型破りな……!!」
「なんこれー!」
「ウワーッ! ヒゲ!」
またドルドルドンのヒゲがマドカに引っ張られている。
すっかりマドカはドルドルドンを気に入ってしまったようだ。
ちなみにマドカ、ひらっひらのフリルがついた可愛い赤ちゃんドレス姿だ。
ちょっと日焼けしたマドカの健康的な可愛らしさと、人工美の極致であるドレス。
なんとも悪魔的な合致ではないか。
かーわいい。
ドルドルドンがどうにかマドカのおヒゲにぎにぎから逃げ出し、距離を取った。
今度はマドカ、カトリナが手にした骨付き肉に目を釘付けにされている。
「おかたん! まおも! まおも!」
「もちろん! お肉ほぐしてもらおうねー」
乾杯が始まる前から、フリーダムな我ら一家である。
こちらをなんか白い目で見ているのは、見覚えのある貴族たちだな。
古い人間の貴族連中だ。
「これだからマナーを知らん異種族は」
「こんな連中に爵位を与えようなど、陛下は何を考えておられるのだ」
「わしは先王陛下を追い出すことには反対だったのだ! 年若い小娘に国を治められるものか! 諸国に舐められるのがオチだ!」
なーるほど。
トラッピアを取り巻いていたであろう貴族たちの声が聞こえてくる。
これが、古い者たちの本音なのだろう。
表立って女王を舐めていた連中は、粛清された。
これでも、分をわきまえた貴族たちということだ。
連中の頭をすげ替えようというトラッピアの考えもよく分かる。
結局、若い力をこいつらはバカにしているのだな。
平時ならばまだ分からないが、魔王大戦前と後。
全く時代が変わってしまっていると見るのが当たり前だ。
それについていけていないのは、こいつらの方である。
「乾杯!」
トラッピアがグラスを掲げると、若い貴族たち、異種族貴族たちが並んで、グラスを掲げた。
あちこちで、グラスが打ち合わされる音がする。
こちらを見ていた古い貴族どもは、俺がじーっと見ていることにようやく気付いたらしく、青くなる。
「お、おい! 勇者がこっちを見ている!」
「くそう……。あいつがまさか、こんな恐ろしい化け物になるなんて思ってもいなかった」
「もはや反逆をすることすら許されない……! 女王は新しい魔王に守られているようなもんだ」
ああ、それは言い得て妙だ。
魔王とやり合える者は、魔王と同じになっていく。
力を得て、人の心を持っていられるかどうかは、そいつのキャラクターによるとしか言えない。
俺もカトリナとブルストに出会えなかったら、魔王みたいになってたかもなあ。
でも、奴らが何を喋っていたかは大体覚えたぞ。
後でトラッピアに教えてやろう。
その後、俺たちの元へひっきりなしに新しい貴族たちが訪れた。
「勇者様が、オーガの娘を娶られたことがどれほどの衝撃を世界に与えたか! これこそ、世界の変革でありますぞ!!」
吠えたのは、狼のような耳と鼻面をした毛深い男だ。
ウェアウルフという種族だ。
「世界はお二人に注目しております! 人間だけが世界を構成する種族ではない! 我らも確かにここにいる! それをあなたがたが証明して下さった! そして! お二人の間に生まれたお子こそが、新世界の象徴なのです!! あ、わたくしめはガオルン準男爵と申します」
「おお、よろしくな。情熱的な男だな」
ガオルンと固く握手を交わす。
彼の言葉に、若き貴族、そして異種族貴族はやんややんやと沸く。
注目の中心にいるマドカは、味付けされた肉に夢中で、両手と頬をべたべたにしながら食べている。
「マドカ、美味しい?」
「おーし!!」
食べるために生まれてきたみたいなところがあるからな、うちの娘は……。
ハジメーノ王国最高峰の食事を食べることができて、喜びの頂点にいることだろう。
素材では勇者村が勝つが、やはり凝った料理法や味付けでは宮廷料理がダントツで優れている。
このよく分からんソースが美味いんだ。
あらゆる料理に合わせて、別々の料理を作ってくる。
味を盗みたい……。
だが、俺の舌では無理だな。
勇者村で最も優れた舌を持つのは、ピアか。
あとはポチーナ。
この二人だな……!!
「ショート! 楽しんでくれているかい?」
トラッピアをエスコートしながら、ハナメデルがやって来た。
体格が良くなってきたこの男は、礼装が実に似合うな。
グンジツヨイ皇帝の血筋と、ハナメデルの儚さが芸術的な感じで融和している状態だ。
いつこのバランスが崩れるのか……!
周囲のご婦人がたは、完全に恋する娘になってハナメデルを見ている。
すげえ美形だもんなあ。
「まあな。気になるのはこのソースだ。こいつの秘密が分かれば、俺は完全に勇者村に引きこもっていられるのだが」
「それは大変だ! 我が国の全力で、ソースの秘密を守らねばならないね!」
この言葉に、周囲がドッと笑った。
なるほど、ソースの秘密を餌にして、俺をたびたびこっちに連れ出してくる気だな!
まあ、それもいいか。
うちにいる神の舌要員を連れてきてやるからな!
俺とハナメデルは握手をするが、お互い腹に一物を秘めたままの握手なのであった。
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