第227話 パーティ前の散策

 パーティが開かれる日の朝。

 三人で豪華な朝飯を食う。


「味は美味しいし、見た目もきれいだけど、食材は勇者村の勝ちだね」


 カトリナが鋭いことを言う。

 まったくその通り。


「勇者村はとれたて新鮮だったり、食材の種類がおかしいからな。普通はこんなもんだろう」


「確かに。私とお父さんだけの時なんか、お芋と野草と、たまにイノシシやお魚しか無かったもんねえ」


 遠い目をするカトリナ。

 そうだったそうだった。

 前は芋が主食だったよなあ。


 それが今では、米も麦も大豆もある。

 ハナメデルに頼んで、葉野菜の種もお土産でもらう予定だ。

 さらに作物の種類が増えるぞ。


 葉野菜担当の村人も新たに欲しいところではある。

 王都でスカウトしていこうかな。


 ちなみにマドカはなんでもよく食べる。

 王宮朝ごはんであるパンとスープを、むしゃむしゃ食べてごくごく飲んで、デザートのケーキをもりもりお腹に詰め込んだ。


 自分担当のお皿を空っぽにした後、満足げに背もたれに寄りかかっている。


「おいしかった?」


「おーし!」


 おお、マドカ的には王宮朝ごはんも美味しかったようだ。

 食べ物を美味しく食べられるというのは、才能だよな。


 俺たち一家は王都において自由に行動していい権限を持っているので、朝食後の散歩はベランダから出かけることにした。

 カトリナとマドカを抱いて、フワリで浮き上がる。


 スーッと城門の前に降り立つ。


「うおーっ!? ゆ、勇者様か!」


「いきなり頭上から来ないで下さい、心臓に悪い……」


「はっはっは、すまんすまん」


 門番たちに手を振って、俺たちは市場へと向かうのだ。

 勇者村は貨幣経済をやっていないので、買い物などは本来できない。


 俺のポケットマネーを使って買い物をしてもいいのだが、これは俺がいるからこそできることだからな。

 きょろきょろと市場を見て回り、良さげなものがあったら物々交換を申し出ることにしている。


「物々交換?」


 ふん、と鼻で笑う市場の店主。

 金物一般を売っているところなのだが、普通は貨幣経済だもんな。


「うむ。これがうちの村で作られた鍛冶神の小鍋」


 スッと小鍋を差し出したら、彼の目の色が変わった。


「な、な、なんじゃこりゃああああああ!? 持った瞬間、手に吸い付くような感触……重量バランスの完璧さ……そして光り輝く見た目……!!」


 鍛冶神が手加減しながら片手間に打ったものだから、人間の世界としてはせいぜい大業物の鍛造品相当であろう。

 魔法の力は掛かってないから安心だ。


「こ、これと交換? いや、ぜひ交換して下さい!!」


 店主がちょっと卑屈になった。

 気持ちは分かる。


 ということで、ここで金属製のおたまや、農作業用のフォークやクワ、鋤などを交換してきた。

 どれも、王都の最新技術で作られた逸品ばかりである。


 これを鍛冶神とブルストを交えて検証し、勇者村用のものを作る材料とする。


「ショート! 面白いものあるよ!」


「おとたーん!」


 おっと、妻と娘が呼んでいる……。

 なんだなんだと言ってみれば、そこにはどーんと天を衝くクリームの塔が建っていた。


「なんだこれはーっ!!」


「パフェって言うんだって!」


「パフェ!? この世界にあったのか!」


「食べたい!」


「おーしーそー!」


 カトリナとマドカが目をキラキラさせておねだりしてくるので、俺はポケットマネーからお金を取り出すのであった。

 家族を満足させるためなら、散財やむなし。


 クリーム山盛りのこの恐るべきスイーツを、俺は家族とともに食うことになったのだった。

 名を呼ぶなら異世界パフェ。

 最近、店主が開発したらしいこいつは、とにかく分量がおかしい。


 値段もかなり張るが、それ相応の生クリームが山のように盛られている。

 はちみつでも混ぜてあるのか、これが甘い。


「あまーい!」


「あまー!」


 カトリナとマドカが口の周りをクリームだらけにして、満面の笑みになる。

 女子は甘いものを愛する……!

 俺も嫌いではないが、なかなかこの量はハードだ!


 頼むぞカトリナ。

 君の健啖が頼りだ!


 俺の思いに応えるように、カトリナは猛烈な勢いで生クリームの山を平らげていった。

 マドカも、赤ちゃんとしては相当食った。


 そしてついにクリームの山は姿を消し、俺たちはパフェに勝利したのである。


「店主」


「なんですかね。おお、あれを食い切っちまうとはすげえ」


「すげえ、じゃねえ! あれは多すぎだ。もっと小分けにしてだな……。女子や子どもが好む食い物だから……」


「そんなもんですかい? 牛乳から作るもんだから、男の筋肉と骨になる食い物をイメージして作ったんですが」


 んな訳あるか。

 ということで、ハジメーノ王国にパフェなるスイーツが誕生した。

 俺たち家族が、パフェの前身となる異世界パフェを最後に食ったことになる。


 それ以降のパフェは、ごく常識的な量になったからだ。

 その後、店は大変繁盛したらしいと、風の噂で聞いた。


 さて、こうして昼の散策を終え、夜までお茶を飲みながらのんびり。

 マドカはぐっすりお昼寝をして、ついに運命の時を迎える。


 トラッピア懐妊パーティ……というか、妊娠して彼女が身動き取れなくなったとしても、元勇者であるこの俺がいるから、好き勝手はさせんぞと貴族や周辺国家に睨みを効かせるためのイベントが開かれた。


 権力者というやつは、本当に大変なことだなあ……。

 だが、ハジメーノ王国が平和であれば、我が勇者村も平和になる。

 ここは一つ、手を貸してやるとしようではないか。


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