第225話 ハナメデル奮闘

 ドルドルドン男爵に案内されつつ、貴族の町を見て回る。

 あちこち雰囲気が変わったなあ。


 ハイソな感じの人々が歩いてて、近寄りがたい雰囲気だったのが、今はもっとカジュアルな感じの人たちが歩き回っている。

 どうやら、一代貴族である準男爵とか騎士爵に任じられた異種族がちょこちょこいて、彼らが新しい流行を貴族の町に作り出しているらしい。

 いいことだ。


「勇者様!」


「ショート様ではありませんか!」


 異種族の貴族たちが気さくに声を掛けてくる。


「おう、俺だ。そして嫁さんと娘だ!」


 マドカは、たくさんの人たちが声を掛けてくるので、びっくりして目をくりくり動かしている。

 勇者村にはこんなにいっぱい人がいないもんなあ。


「あわわー」


「よーしマドカ。お母さんのところに行こうなー」


「おかたん!」


「おいでーマドカー」


 ということで、マドカを比較的注目度の低いカトリナに渡す。

 マドカはカトリナにむぎゅっとしがみついて、そっと横目で群がる人々を観察していた。


「本当にショート様のお陰ですよ。人間以外もこうして、政治に関われる立場になりました」


「ええ。先代の王の時代には考えられなかったことです。魔王大戦の時の迫害はひどかったですからね。その時のことを根に持って、過激な活動をしようという連中も多い」


「だからこそ我々が、人間ではなくても地位を得て、社会を作っていけるのだと示さねばなりません。その大いなる助けをショート様がしてくださった」


「俺はただ、カトリナと結婚しただけだがな。愛の前には種族の差など大した問題ではない……」


 俺の言葉に、おおーっと集まった異種族の貴族たちがどよめき、うんうんと頷いた。

 カトリナはちょっと赤くなりながら、にへにへ笑っている。

 君は割と、ハジメーノ王国にとって重大な変革のきっかけになった重要人物なのだぞ。


「活動家は不平等やら、不平不満を拾い上げて飯の種にしてますからね。我々がそれを食い止めないと」


「ええ。正しい情報を広めていかないとですな!」


「ドルドルドン男爵のような貴族を、どんどん生み出していかねば!」


 わいわいと盛り上がっている。

 まあ、活動家なんてのはカモと見た相手を情報から遮断して、呪いを注ぎ込んで飯の種にしたり鉄砲玉にしたりする人種だからな。

 こういう志ある人たちが、世の中捨てたものじゃない、とか、チャンスはあるぞってのを広めていくのは大事なことだ。


 ハジメーノ王国内部でも、こうして自浄作用が起きているのだな。

 俺は大変感心した。

 だが、ここで足止めを食らっている場合ではなかったらしい。


 レプラカーンのドルドルドンが飛び上がって叫んだ。


「しょくーん!! わたくしめは今! ハナメデル殿下からの命を受けて! ショート様を王城にお連れするところなのだー! 気持ちは分かる! 大変分かるが、歓談は夜のパーティーでやってくれたまえー!」


 ドルドルドンは小さいのに、声がよく通るなあ。

 他の貴族たちは、おう、そうだそうだと我に返り、道を開けてくれた。


「ではショート様! カトリナ様! マドカ様! また夜に!」


「夜にパーティーがあるのか! よし、じゃあそこで!」


 かくして、貴族たちと別れる。

 あいつら、エルフやドワーフ、ハーフリングのみならず、カトリナと同じオーガや岩のような肌のトロール、そしてバードマンまでいたな。

 人種のるつぼというやつだ。


 これからのハジメーノ王国は面白いことになって行きそうだ。


 王城では、ドルドルドンと俺を見て、門番たちが素早く門を開けてくれた。

 顔パスである。


 王城内部でも、働くスタッフの顔ぶれが変わっているのが分かる。

 やっぱり、ザマァサレ一世が投獄されてザマァされてから、彼の派閥の人間至上主義者が一掃されたようだな。

 異種族がたくさん働いている。


 バードマンの掃除夫が、空中でシャンデリアを磨いている。

 適材適所だ。


「ショート! よく来てくれたね!」


 懐かしい声がした。


「ハナメデルか!」


 振り返る俺。

 やって来るのは、記憶にあるよりもちょっとガタイが良くなったハナメデルだった。


「……親父さんの遺伝子が仕事を始めたようだな」


「父がどうしたんだい? 最近、食事が美味しいんだ。それに、激務に負けないように体を鍛えるようにしてる。トラッピアのつわりがひどくて、あまり動けないからね」


「なるほど、条件が揃ったわけか……。じゃあ、今は政治はハナメデルが一人で取り仕切っているのか」


「いや、トラッピアの調子がいい時に、二人で相談しているよ。だけど民からの陳情を受け付けるのは、僕がやっているね。トラッピアほど怖くないせいか、評判はいいんだ」


「ハハハ。トラッピアの前で変なことを言ったら、地下牢獄にぶち込まれるもんなあ」


「そうそう」


 傍から聞くと恐ろしい話を笑い合いながら、貴賓室へと向かう。

 周囲の従業員が俺とハナメデルの談笑を耳にして青ざめたりしているな。

 新しいスタッフにも、トラッピアは恐れられているらしい。


 彼女が恐怖で人々を縛り、ハナメデルが人柄で人心をまとめる。

 この夫婦はこうして上手く国を運営しているのだ。


 普通逆じゃない? とか思ったりはするが。


「マドカちゃんは大きくなったねえ……! 本当に大きくなった!」


「う?」


 ハナメデルに話を振られて、マドカが首を傾げた。

 覚えてないかなー。

 覚えてないだろうなー。


「マドカ、この人はな、お父さんの友達だ。ハナメデルって言ってな」


「おとたんの!」


 それで納得したらしい。


「よろしくね、マドカちゃん」


「あい!」


 ハナメデルの差し出した手を、マドカのちっちゃい手がぺたっと触った。


「殿下! わたくしめはもう少しこちらにいていいですかね!」


「ああ、ドルドルドン、ご苦労さまだったね。もちろん、君にはもう少しここで、ショートたちの相手をしてくれるとありがたい。これからトラッピアに伝えてくるから」


「はい! かしこまりましてございます!」


 ドルドルドンが敬礼した。


「どうどう!」


 おっ、マドカはドルドルドンがお気に入りか!

 手をぶんぶん振り回して、ドルドルドンに触ろうとしている。


「お、お手柔らかに頼みますぞぉ……!」


 これを見て、ドルドルドンがヒゲを守りつつ、じりじりと遠ざかるのだった。

 

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