第224話 異種族貴族、ドルドルドン

 トコトコあるくマドカと手を繋ぐ俺とカトリナ。

 石畳を歩き慣れないマドカは、すぐに疲れたみたいなので、抱っこしてやることにした。


「おとたん! ぐるーって、ぐるーって」


「ほう、景色がよく見えるように逆方向の抱っこがお好みか。ではこうだ!」


 俺は魔法の力で椅子を作り、マドカを座らせて、それを肩車の要領で設置した!

 高いところからいっぱいに広がる景色に、マドカが興奮してキャーッと叫ぶ。

 大変ご満悦である。


 俺もカトリナもニコニコ。

 アサン兵長も微笑ましげに見つめている。


 そして王城までのんびりと歩く。

 本来ならば迎えの馬車が来るようだが、待っているのも何なのでこちらから王都を歩いて行こうという算段だ。

 観光もできるしな。


 途中、上流階級の面々が暮らす町を通った。

 彼らはカトリナを見ると、ハッとして逃げるように道を空ける。


 うーむ、トラッピアの教育が行き届いているな。

 異種族に対する差別感情は消えないだろうが、俺とカトリナに対してそれを見せたがために、少なからぬ貴族が地獄に落ちた。

 相手は見て物を言わねばな。


 俺の顔は彼らにも売れているようで、隣を歩くオーガの娘が妻のカトリナだと、誰もが分かる。

 俺たち家族を見て、聞こえないようにひそひそ会話をするが、ハハハ、勇者の耳をなめるなよ。

 全部聞こえているぞ。


 まあ、俺は優しいので思想を統制するつもりはない。

 だが、人間が上位で異種族が下位という思想はこの国のこの場所でしか通用しないものだ。

 そして国家がその思想が誤りであると明言している。


 古いしきたりに縛られていると、次々にぼろを出して地獄行きだぞ。


 ああ、いや、トラッピアのやつ、こいつら全員を牢獄に叩き落として、自分に従う新たな貴族たちを作り出すつもりなんじゃないか?

 ありうるな!


 途中で、貴族というには風変わりな男と出会った。

 何が変わっているかって、この男は異種族なのだ。

 俺の腰ほどの背丈しかなくて、耳が尖り、顎髭を伸ばしている。


 ドワーフに似ていたが、ひょろりとした体格なので、違う。


「やあやあ! 勇者ショート様とご婦人ではありませんか!! わたくし、ドルドルドン男爵と申します! 先日トラッピア陛下にお取り立ていただきました貴族でございまして、わたくしめが異種族の貴族第一号になるそうですよ! 何もかもショート様のお陰です! ああ、わたくし、レプラカーンでして」


「ほうほう! よろしくな。俺がショートで、妻のカトリナと、娘のマドカだ」


「ははあ! お美しい奥様ですなあ! よろしくおねがいしますぞ! そしてお嬢さんも可愛らしい……ふひゃーっ」


 ドルドルドンが吹っ飛んだ。

 なんだなんだ。


「す……凄まじい魔力!! 我らレプラカーンは、相手の魔力や能力を知ることができるのです! なるほど、ショート様の力を正確に受け継いでいる……」


 ふわりと浮かび上がるドルドルドン。

 レプラカーンは、種族的に念動魔法を使えるのだ。

 ビンほどではないが、魔王大戦の時には色々手伝ってもらった記憶があるな。


 ちなみにこのドルドルドン、取引所でエンサーツの補佐をしていた男らしい。

 ちょくちょく出かけては、各地の視察を行うエンサーツに代わって取引所の管理などを行っており、その功績を認められて男爵になったとか。


「どれ、お嬢ちゃん、ちょっとその力をわたくしめに見せてはくれませんかな?」


「おー! なんこれー!」


「ウグワーッ! ヒゲー!」


「いかんいかんマドカ。お髭を引っ張ってはいかん。うおっ、すごいパワーだ」


 俺はマドカの脇腹をこちょこちょくすぐった。

 マドカは、キャーッと叫んでけらけら笑い出し、ドルドルドンを解放した。


「ふう、ヒゲが抜けるかと思いました!! しかし凄まじい! これは勇者様のみならず、奥様のオーガの血が成せる身体能力ですな! いやはや! トラッピア陛下が異種族をみだりに差別することを禁じた理由が分かりました! 血は混じり合って強くなる!」


「なるほど。確かに」


 ドルドルドンの言葉は、俺も納得するところだ。

 より遺伝子が遠いもの同士が混じり合ったほうが、生物として強靭になるとか聞いたことがある。


 このワールディアは不思議なことに、全ての知的生物が混血できるらしい。

 なので、種として遠い相手と子どもを作ると、その子どもは強くなる。


 極端な例では、人とドラゴンの子どもとかな。

 いるんだよ。

 魔王大戦のさなかに出会って共闘したことがある。


 素で人間の上限を何段階も突破してるやつで、とても強かった。

 あいつは今、どこで何をしてるだろうな。


 ちなみにここから導き出されるのは、すくすく成長中なバインがオーガとミノタウロスの血を受け継いで強く育つであろうことだ。

 なお、勇者村の子どもでダントツ最強のビンは、例外中の例外ね。


 神の祝福を得た上で、さらに弛まぬ修練の末に念動魔法を俺が辿り着いていない領域まで昇華させた二歳児が、例外でなくてなんだと言うのか。


「ということで! アサン兵長! ここからはわたくしめが案内を受け持ちましょう!」


「お願いできますか、ドルドルドン卿」


「お任せされました! では!」


 なるほど、ここで彼と会ったのは、トラッピアが新たなハジメーノ王国の象徴である彼を俺に見せるためであったのか。


「これより、ハジメーノ王国は大きな改革が始まります! それはつまり、内憂外患の現時点の排除が完了したということでありますな! 今はハナメデル殿下が指揮を執っておられます! いやはや、楽しくなりますぞ! そして良き時に、陛下がご懐妊あそばした!」


「うんうん。古い時代にしがみつく人間にとっての終末で、新しい時代を迎え入れる人間への福音だな。古いものが全部悪いとは思わんが、まさかトラッピアめ、俺の家族への貴族どもの反応をこうして利用するとはなあ……。これで、ザマァサレ派の貴族は全滅するだろ」


 俺が勇者村でスローライフしている間に、凄まじい豪腕を振るってやがった。

 さて、では女王陛下と対面と行こう。


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