第222話 ご飯まつり

 鍛冶神が猛烈な勢いで鍋を作ってくれた。

 だが、彼が手を加えすぎると神の鍋になってしまうので、仕上げは必ずブルストがやらねばならない。


 鍛冶神が自らを変えた聖剣がどんな代物になったか、覚えているだろうか。

 資格のない者が触れれば、その者の全存在を喰らい尽くす危険極まりない剣になったのだ。


 具体的には、1000レベルを超えないと触れない。

 幸い俺は条件を満たしていたので扱えた。


 この1000レベルは神様的にもなかなかハードルが高い。

 鍛冶神の作り出す鍋は、せいぜい100レベルくらいしか求めてこないから良心的とは言えよう。


 ちなみに、この世界の最初のレベルキャップが99である。

 レベルキャップを越えて、人間の限界を超越して神のステージに踏み込まない限り使えない鍋。


 そんなもんが使い物になるかーっ!!

 ということで、ブルストが仕上げるわけだ。


 腕が良すぎるというのも考えものである。


「よし、できたぞ! この機会に鍋は全部打ち直した!」


 ブルストがほくほくしながら、新品の鍋を三つ持ってきた。

 かまどの数はも三つ。

 ちょうどである。


 夕食後の作業だったので、もうみんな寝る時間となっていた。

 鍋の活躍は明日の朝。


 すっかり村が寝静まっていて、ブルストが残念そうな顔をした。


「まあまあ。明日の朝にみんなびっくりするだろうさ」


 俺はそう言って、彼の肩を叩いたのである。

 そして翌朝。


「うわーっ! お鍋が大きくなって、ピカピカになって、しかも一つ増えてるー!!」


 カトリナの叫びが響き渡った。


「昨夜ブルストがやってくれたのだ。鍛冶神が作ったのを夜なべしてしっかり仕上げてだな」


 俺はそれをずーっと見ていたわけだ。

 睡眠時間に関しては、俺はもう関係なくなってきているので問題ない。

 ブルストは今も、ぐうぐうと夢の中だ。


 朝飯ができたら起こしてやるとしよう。


「んばうば」


 バインが声を上げて、手をわたわたさせた。

 今日はパメラとスーリヤ、そしてポチーナが食事当番となる。


 バインはカトリナ預かりなのだ。


「おー、どうしたのバインちゃん。さっきパメラのおっぱいは飲んだでしょ」


「うあー」


 バインが何か訴えかけてきているな。

 生まれて三ヶ月くらい経っているから、そろそろ感情表現みたいなもの出てくる。


 たびたびマドカに、顔をぺちゃっと触られたりしているが、泣かなくなってきた。

 マドカもどうしてバインの顔をぺちゃっとするのが好きなんだろうなあ。


「ばいんー」


 マドカがやってきた!

 彼女なりに、このちっちゃい叔父に親愛の情を持っているのではないかと睨んでいるのだが。


「んっ!」


「おっと!」


 マドカがバインの顔をぺちゃっと触ろうとしたので、カトリナがスッと回避した。


「おかたん! ぶー!!」


 マドカが抗議の声をあげる。

 あれか。

 バインの顔をぺちゃっと触るのは、マドカにとって必要なイニシエーションか何かなのか。


「マドカ、バインの顔にぺちゃしたらびっくりするでしょー」


「ぺちゃ! ぺちゃ!」


「いかんな、まだマドカには難しい……! 一歳ちょっとだから、意思が通じるようで通じない時がちょいちょいあるな」


 子育て、難しいね……!


 そうこうしているうちに、米が炊きあがった。

 なるほど、鍋三つで米を炊くと、かなりの量になる。


 これを育ち盛りの子どもに合わせて、量の調節をしていく必要が出ているな。

 大食らい連中は基本的に食べる量はあまり変わらないだろう。


 ということで、お代わりし放題のような状況で朝食が始まった。


 アムトもピアもルアブも、よく食べる。

 最近はカールくんもよく食べるようになって来た。

 毎日の訓練でお腹が空くのだろうな。


 ご飯をスプーンでぱくぱく食べているカールくんを、シャルロッテが嬉しそうに見つめている。

 彼女は食細いからなー。

 息子がぱくぱく食べて健康的に育っていっているのが、何よりの喜びなのだろうな。


「おいし!」


「おーし!」


 ビンとマドカが、美味しい美味しいいいながら飯を食う。

 赤ちゃん軍団なので、食べる量はたかが知れているのだが、既に二人とも将来的に物凄い大食らいになるであろう片鱗を見せている。


 この姿に刺激されたのか、向かいで食べていたサーラが、今日はなんと赤ちゃん用お茶碗いっぱいぶんのご飯を食べきったのである。


「まあまあ。サーラ、お腹いっぱい?」


「うん! まお、いーっぱいたべる。サーラもね、いっぱい!」


 マドカの真似をしてちゃんと食べるよう頑張っているのか。

 とても偉い。

 うちの子が役立っているようで何よりである。


 マドカはと言うと、おーし、おーし、とか言いながら一心不乱に食べている。

 なんと赤ちゃん用お茶碗で四杯お代わりして、おかずも全部に手を付けて、ついにお腹がパンパンになったらしい。

 けぷっと言って満足げな顔をしていた。


「おー、マドカ食べたねー。お腹ぽんぽんだー」


「ぽんぽん!」


 ちっちゃいうちは、食べたもの全てが成長エネルギーになるからな!

 どんどんでかくなれよ、マドカ。


 一方、ビンは量を食べるだけでなく、いろいろなおかずとご飯の組み合わせを試しているようだ。

 しょっぱい干し魚とご飯。

 おからとご飯。

 干し肉とご飯。

 スープとご飯。


 二歳児なのに、なんと知的な食の探求を……。

 末恐ろしいな。


「ほらー! ショートもボーッとしてないでご飯食べるー!」


「おお、いかんいかん。子どもたちが飯を食うのを見てたら無限に時間が過ぎていくな……!!」


 カトリナに言われてハッとする俺。

 慌てて飯を食べ始めるのだった。


 それから。


「いやあ! 幾ら食ってもいいのは助かるな! セーブしなくていい!」


「本当だねえ。慣れてくるとお米ってのも美味いからね! 幾らでも入るよ!」


 そこの大食らい夫婦は加減しろ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る