第221話 台所を増築せよ!
ここに、俺とブルストと鍛冶神とパワースが集まっている。
話し合いのためにこの面子を集めたのだ。
その内容とは……。
「そろそろ台所のキャパシティが足りなくなっている」
「確かにな。子どもたちも大きくなってきて、あれじゃ一度に作れる量に限界があるもんな」
ブルストが頷く。
鍛冶神は食事の必要がないので、横で聞いているだけだ。
「普通はこの人数ならば、あれで足りるだろ。勇者村に大食らいが多すぎるんだよ」
パワースの意見ももっともだ。
比較的常人レベル(大学生の体育会系程度)の食欲であるパワースは、勇者村の大食らいたちは食べ過ぎるほど食べていると言う。
「あっちの世界では、フードファイターというのがいて、それがブルストやパメラと同じくらい食べるぞ」
「パワース、お前が俺の家にちょこちょこ行っているのは知っているが、あっちでテレビや動画を見てたのか……」
「ミノリとポップコーンを食いながら動画を見ている」
「くそっ、母親公認になったから悪びれなくなったな!」
もうあれだ。
パワースは俺の義弟確定だ。
俺の力ではどうにもならん……! 俺は無力だ……!
「なんで俺を見てそんな顔してんだよショート」
「なんでもないぞ」
「なんでもない顔じゃねえだろ……。魔王戦でも見たことねえ顔しやがって」
だまらっしゃい。
魔王戦はあれだろ?
やれる限りの事をやったら勝負できる次元になったから、全力でぶつかり合って俺が競り勝ったわけじゃねえか。
無力ではなかった……。
「ショート、本題に戻るけどよ」
ブルストがさらっと流してきた。
こいつ、俺が何について悩んだのかを一瞬で看破したな!?
「やっぱりブルストには敵わないな」
「ま、俺の方が長く生きてるからな」
ブルストがニヤッと笑った。
「いつかは嫁に行くもんだ。兄妹仲がいいのは結構だが、祝福してやれよ」
「本当に俺の表情から全部読み取りやがったな!?」
俺は再びブルストに敬意を抱くのである。
さてさて、台所を拡張する計画に戻る。
サイズアップか?
それとも、かまどを増やすのか?
『いかなる事になろうとも、我はそれに適した鍋を打ってやろう。そして我は神だ。故に待つことには慣れている……。存分に話し合うがいい』
鍛冶神が腕組みしながら、まったりしている。
この世界に唯一残った古代神なのだが、当たり前みたいな顔して勇者村に住み着いている。
古代神というのは、ユイーツ神を構成していた最も古く、強い神々な。
今ユイーツ神をやっている豊穣神は、新たな神に数えられる。
素晴らしい功績を成した人間や、あるいは自然現象に人々が信仰を捧げて神格を有したものたちが、成った存在が新たな神。
「んじゃあ、俺は台所のサイズアップを提案するんだけど」
「待て待てショート。でかすぎる台所なぞ、俺やパメラやカトリナでなければ使えたもんじゃないぞ。この村はもう、巨人族よりも人間の方が多いんだ。人間が扱えるサイズがいいだろう」
「ってことは、かまどを増やす方がいいか。手間じゃない?」
今は二人がかりで料理を用意してもらっているが、かまどが増えるだけだと、仕事効率がどうなんだろう。
「調理担当が、カトリナとミー、スーリヤとパメラだろ? シャルロッテがやれるならメンバーに加えて、あとはメイドがいただろう」
パワースの提案にハッとする。
「ああ、ポチーナか! 確かに、これで三人と三人だ。頭数が1.5倍になるからかまどを増やしても効率アップ足り得るな!」
ここで、新規参加の貴族一家組が重要度を増してくる。
シャルロッテはお料理の腕前ではまだまだだが、一生懸命手伝いに回っているそうだ。
すぐに主戦力になれるだろう。
こうして、台所増築計画がスタートした。
食事の準備を止めるわけにはいかないので、それと並行しながらかまどを増やすことになる。
屋根や壁も継ぎ足して、ついでに補強して……。
『思った以上に複雑な作業になったな。我は道理の上で行われる作る作業には強いが、道理を外れた増築は司っていない』
つまり、鍛冶神はアドリブにちょっと弱い。
そんなわけで、勇者村男衆が午後になり、総出で取り掛かった。
レンガは乾季の熱ですぐに乾く。
ほどほど乾燥してるしな。
本来ならば、炎が燃え上がると消えなくなってしまうくらい、周辺が乾燥するこの季節。
あちこちに水路を作ったので、いい感じで水が蒸発して湿気を届けてくれる。
作業の合間で、水路で遊ぶ子どもたちをみて癒やされる。
アムトとルアブとカールくんが並んで、即席の釣り竿のようなものを使っている。
糸が水面に垂らされているが、まだ誰も釣っていないな。
フフフ、ボウズになるがいい。
「うわーっ、あっづー!! もう、あたし司祭なんだけど!? なんでトンカチもって屋根作ってるの!?」
あっ!
勇者村男子チームにヒロイナが混じってるじゃねえか!
まあ、あいつは料理だけが致命的にできないからな……。
役割としてはむくつけき男どもと同じなのだ。
「ヒロイナさん、頑張りましょう! ここは身軽な僕たちしかできない仕事なんですから!」
「分かってるわよ! やるわよ! やりゃいいんでしょ!」
フォスとヒロイナ、仲がいいなあ。
お陰でヒロイナも精神的に安定しているので大変良い。
かくして、日暮れ前には勇者村の台所は二倍のスケールへと拡張されるのである……!
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