第220話 おからでご飯

 米の炊きあがる匂いがして来た!

 テンションが上がる瞬間である。

 米どころ出身なので、やはり俺は米が好きなのだろう。


 鍋で炊く勇者村の米は、ふっくらほこほこ。

 おこげもあって、とても美味い。


 この土地そのものが神気を帯びていて、それを存分に吸収して米が育ったから、地球のものよりも品種改良されていないはずなのに素晴らしい食味を誇るのだ。


 食堂に、ずらり並んだ大食らいたち。

 ブルスト、パメラ、フック、アムト、ルアブ、そしてビンとマドカ。

 この面々がめちゃくちゃ食う。


 ブルストは三十越えてるのに、ガツガツ大量に食えるのはすげえなあと思うばかりである。

 パメラも、おからで食うご飯に興味津々で、そのために赤ちゃんたるバインをスーリヤに預かってもらっている。


「悪いね、スーリヤ」


「いいのよ。うちはサーラの食が細いから、ゆっくり付き合って食べるし。バインちゃんはさっきおっぱいを飲んでお腹いっぱいなんでしょう。ほら、眠そう」


 バインがほわほわほわ、と欠伸をした。

 三人の子どもを育てているスーリヤ、赤ちゃんを眠らせる技術も凄い。


 バインを撫でながら、優しい声で歌っている。

 ついにバインは、すやすやと寝息を立てて眠ってしまった。

 こうなると物凄い音がしても起きない。


 ただし、マドカがぺちっとバインの顔を叩いたりすると起きる。

 あれはどうやら、マドカの魔力に反応しているんだな。

 物理的な理由ばかりではなかった。


 ともあれ、バインが寝たならば、安心して大騒ぎしながら飯を食えるのである。


 俺の前に、どんぶりにずどんと盛られた米が運ばれてきた。

 そして、豆腐を作る際に生まれた大豆かす全てがおからに生まれ変わった。


 甘じょっぱく味付けされたこいつを、米の上に乗せて……。

 炊きたてご飯とともに口に掻き込むのだ!!


「うおおおおお!!」


 衝撃と感動で、俺の全身から魔力のオーラが吹き上がる。

 黄金のそれが天を貫き、星の外まで届いた。

 後で聞いた話だが、セントラル帝国からもこの立ち上がるオーラは観測され、黄金の柱と呼ばれたそうだ。


 まさかその原因が、おからで食べるご飯だとは思うまい。

 おから飯は、村の大食らいたちにも評判だった。


「美味いな!? 大豆かすがこんな美味いものに化けるとはなあ」


「ご飯がどんどんいけちまうね!」


「こりゃパワーがつきそうだ!」


「うめえー!」


「おかわりー!」


「おいし!」


「ごはんごはん!!」


 大豆の栄養分のかなりの部分がおからにも残っており、さらには勇者村の米は玄米混じりなのでこっちも栄養たっぷりだ。

 このおからご飯、完全栄養食なのではないか……!?

 俺は目を見開きながら三杯目を食った。美味い。


 こう、米というのは魔物で、美味しいおかずがあるだけでガンガン進んでしまうのな。

 幾らでもいける。


 だが、何にでも終わりというものはあるものだ。

 その終わりは唐突にやって来た。


「ご飯終わりだよー」


 カトリナが空っぽになった鍋をガンガン叩く。

 しまった!!

 大食漢軍団で今日の分の米を食い尽くしてしまった!!


 いかんな。

 飯をたくさん食べさせるおからの魔力だ。

 恐るべし……。


 しかしまあ、この世界の人々は、日本人ほど主食にこだわらないのだ。

 残る人々は、パンにおからを乗せたり、肉につけたりして食べ始めたではないか。


 肉とおから……?

 動物性と植物性のタンパク質が相乗効果で最強に見える。


 母親はニコニコしながらこの光景を見ていた。

 そしてハッとする。


「いけない。お父さんのご飯作っとくの忘れてたわ」


「あの人自炊できるから問題ないだろ?」


 俺の問いに彼女は頷く。


「そうだけどねー。一応今日は私の当番だったから」


「なるほど。だが、あの人はバイタリティがあるから、母がいないと分かったらどこに行ったか当たりをつけて……」


「おーい!」


 ほら、来た。

 家の灯りがついていないことに気づき、母がどこにいるかを察したのだろう。

 異世界の壁を乗り越えてやって来たぞ。


「やっぱりこっちにいたかあ。あ、何食べてるの? おから!? ついに異世界もおからが広まったかあ。え、ご飯もうおしまい? じゃあパンで食おうかな」


 当たり前みたいな顔して、異世界人の中に混じってパンを受け取り、おからと肉を乗せてパクパク食べ始める父親。


「ほら」


「お父さんが食べてるの見たら私もお腹へってきたなあ。よし、ご相伴に与かっちゃおう!」


 ということで、うちの両親が異世界の人々と集まって食卓を囲むという不思議な光景が展開された。


「あらー、マドカちゃん、もう自分でスプーン使って御飯食べるのね!」


「偉いなあ偉いなあ」


「えあい?」


 褒められていることだけは理解したマドカが、ニコニコした。

 この子はあれだな。

 飯を食う関係の技能に関してのみ習得が早い。


 握ったスプーンを雄々しくお米にねじ込み、たっぷり乗せられたおからと混ぜてむしゃむしゃ食う。

 お米はたまにこぼれてしまうが、よだれかけにくっつくので問題ない。


 むっしゃむっしゃと米を食い、ついには食べきって満足気にけぷっとした。


「まおか、おなかいっぱいだねー」


「えへへ!」


 彼自身も満腹になったビンが、マドカのお腹をぽんぽんする。

 腹一杯でまんまるくなってるな。


「ビンも腹いっぱい食ったか?」


「うん! いっぱーい!」


 子どもが腹いっぱい食べられるのはとてもいいことだ。

 とりあえず本日得た教訓は、米は今の二倍は必要だってことだな。


 子どもたちがめちゃくちゃ食う。

 そしてブルストとパメラが大人気ないくらい食う。


 幸い、米だけはたっぷりある。

 問題は鍋の許容量だ……。


 米が進むおかずが生まれる度に、お米の必要量は増えていく。

 即ち、一度に大量の米を作れる鍋と、それを可能にする火力が必要だということだ。


 台所大改装が必要だな!!


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