第219話 おからの研究
次の大豆を育てるための分を取り分けた後。
勇者村は一大豆腐ブームが訪れていた。
絹ごしはクロロック用だったりするので、作るのは木綿豆腐だ。
これはセントラル帝国にレシピがあるのと、クロロックもある程度作り方に詳しい。
帝国のレシピをもらってきて、クロロックも加えて、みんなでワイワイと作ることになった。
大豆の増産なら、この間話題になったメンタルとタイムの部屋でできるのでは? と思い、俺は人工太陽を生み出す魔法を開発したり、勇者村の土壌をある程度持ち込んだりして研究も重ねている。
いつか山程大豆が穫れるようになるといいな。
そして、豆腐を作るとなると、大量の豆乳が生まれる。
豆乳を絞った跡の大豆かすが残るな。
いわゆる、おからである。
これは、ヤギたちもホロロッホー鳥たちも喜んでパクパク食っているのだが、俺はこいつが飯に乗せても大変美味しく食べられることを知っている。
「おからもおかずとして研究すべきではないか」
そんな事を言うと、クロロックが驚いてクロクローと喉を鳴らした。
「古来より、ワールディアでは大豆の絞りかすは家畜の餌でしたが」
「ワールディアはおからを食ってないのか!! 地球だと、おからは食物として地位を築いているのだ」
「なんと!!」
またクロクローと喉を鳴らした。
「食に貪欲なのですね、地球の方々は。そもそもワールディアでは、豆腐は高級料理なのです。それを食する者たちは絞りかすを食物とは見ません。もしかすると、使用人たちの間では食べられている可能性はありますが」
「なるほどなあ、文化の違いか。というか地球では、昔はおからも食べないといけないくらい食料が少なかったのだ。俺はそういう知識があるので、勇者村を飢えさせないために食糧増産を常に考えてる」
「素晴らしい心がけです」
クロロックが手を叩くと、カエルの手なのでピチャピチャ音がした。
これを見ていたマドカとサーラが面白がって、手をパチパチ叩いてみる。
「ぴちゃぴちゃないねー」
「ないねー」
君たちには吸盤も水かきもないからな。
二人は大変可愛いが、相手をしていると話が進まない。
断腸の思いでスーリヤを呼び、二人を持っていってもらった。
運ばれていく赤ちゃん二人が、キャーッとかはしゃいで喜んでいる。
何をしてても楽しい年頃だ。
「それでおからだが、味付けについては顧問をあっちから呼ぼう」
「ショートさんのお母様ですね。彼女は有能です」
「スーパーでパートしながら、お惣菜作ったりしてるからな。レパートリーはかなり多い」
スーパーのお惣菜コーナー勤務。
これは異世界ではかなりのチートスキルである。
ありあわせのもので、創作お惣菜を作ってしまうからな……!
ということで、うちの母にお越しいただいた。
「お豆腐作ってるの!? いいなあ。私も作りたい」
「後でうちの奥様軍団に混ぜるから! おからを研究したいんだ」
「ああ、そうね。お豆腐作るとおからが出るからねえ。それに火を通して、味をつけるの。それだけ」
簡単である。
母がさっそく料理を始めたので、村の奥様たちがわーっと集まってきた。
彼女たちみんな、母の弟子だ。
スーパーのお惣菜コーナーのテクニックが、勇者村に受け継がれていく……!
「ショート。もしかしてこの村、お醤油とかお味噌とか作れる感じになって来てない……?」
「言われてみれば!」
母の言葉にハッとする俺。
大豆の育成が軌道に乗り始めている今、大豆から作られる調味料も手が届くところにあるということだ。
今のところは、海の王国から仕入れている魚醤なんかを使っているからな。
塩は岩塩と、やっぱり海の王国から買っている塩だ。
自前で調味料を用意できれば……。
岩塩をもっと多めに穫れる場所があれば……。
むむむむ、と唸る俺である。
ちなみに今回のおからについては、クロロックはノータッチで行くことになった。
水分を吸われてしまうかららしい。
よし、今のうちに、今後の大豆活用計画を立ててしまおう。
アドバイザーとして、調理の魔本を呼ぶ。
『お呼びですかな』
「大豆料理をな」
『良いでしょう。ワールディア古今東西の大豆料理を提示しましょう。しかし、ショート様のお母上の調理技法、なかなか興味深い……。カタローグに向こうを見てもらっていてもいいですかな』
「どうぞどうぞ。スーパーのお惣菜技法が魔本にまで記録されるのか」
お料理は世界の壁を越えて広がっていくんだな。
感慨深いものがある。
その後、ワールディアに存在する大豆料理のレパートリーや、塩分控えめで味付けをした煮物などを教えてもらった。
割と大豆をそのままの形で食う料理が多いな。
『肉が貴重な地域も多いため、手軽な栄養摂取の手段としてあちこちで重宝されておりますな。ですが、この勇者村ほど料理のレパートリーは多くはないのですよ。ごらんくだされ』
「あっ! 一つの地域の料理レパートリーって、普通は4つとか5つしかないのか!」
『然様。みんな同じものを食って暮らすのが普通です。ですが勇者村は毎日献立が違いますな。これは驚異的なことです。言うなれば、セントラル帝国の皇帝のような食生活を、開拓村の住人が毎日やっているのです』
そう聞くととんでもない話だな。
『ちなみに食物の鮮度はこちらの方が上ですので、健康面と味の面では勇者村が勝っておりますな』
「皇帝の食生活を越えてしまったか……」
どうやらこの村は、世界で最も豊かな食を謳歌している場所らしい。
これで葉物野菜まで増えてしまったらどうなるんだ……。
あ、そうだ!
葉物野菜の苗を仕入れてこなくちゃな!
やる事はまだまだ、幾らでもあるのだ。
俺が次なる仕事を意識していたら、おからが完成したらしい。
おからに合わせるための米炊きも始まった。
おいおい、仕事どころじゃなくなるじゃないか……!!
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