第218話 メンタルとタイムの部屋

「わっ! なんかふしぎなところにでた!」


「ここは言うなれば俺のアイテムボクースの中だ。時間が止まっているし、他の世界とは離れているから、存分に力を振るえるぞ! そう……名付けるとしたら、メンタルとタイムの部屋……」


「わーい!」


 床は真っ白、空は真っ青な二色の空間を、ビンがトテトテと走り出す。


「ちょーと! なにしてもいいの?」


「いいぞー。勇者村では出せない全力を発揮するんだ」


「あい! むおー!」


 ビンが吠えると、ふわり宙に浮かび上がった。

 あれは俺の魔法、フワリやバビュンではない。

 念動魔法によって自らを持ち上げているのだ。


「ちょー!」


 ビンの周囲に、念動力が集まる。

 そいつが密度を増して実体化。

 ビンの横に、人の形をした何者かが出現した。


 これがビンが本気で作った、実体を持った念動力かあ。


「よーしビン、力試しだ。行くぞ! 召喚魔法デテコイヤ(俺命名)!」


 俺が手をかざした先に、魔法陣が出現する。

 これは世界中の魔法陣を見て回り、俺流にブレンドして強化したやつな。


 そこからバリバリと魔力の光を放ちながら、召喚されるのは巨大な岩山だ。


「こいつに向かってかましてやれ」


「あい! いけー!!」


ショウ!』


 一声叫んだ念動力は、その実体をますます明確にしながら岩山に突き進む。

 赤と青が絡み合った、流線型のボディスーツを着込み、金色をした仮面を被った姿だ。

 仮面は目と口だけが空いており、そこから白銀の輝きを放っている。


 ペルソ……いや、スタン……。

 なんだろうな!

 俺は魔法をこういう形で運用するという発想はなかった。


「仮にこいつを、実体念動超人アーキマンと名付けよう」


「アーキマン!! かっこいい!」


 カールくんが興奮する。

 アーキマンは拳を振り上げると、ただの一撃で岩山に大穴を穿つ。

 穴が生まれてから衝撃波が発生したので、拳は音よりも速いな。


『翔!』


 さらにキック!

 岩山の上半分が切断される。

 パンチで打撃、キックが斬撃か。


 あとは、高速の飛行能力を持っているらしいな。


「もどってー!」


『翔!』


 アーキマンがビンの傍らまで一瞬で移動した。

 こりゃあ、瞬間移動だ。

 戻る時は距離も時間も関係なく、瞬時にそこに現れるんだな。


 隙のない能力だぞ。


「ビン、凄いなあ。こんなの作り上げて」


「うん! ぼくね、まだちびだからね、おっきいおとながね、いるといいなってね」


 なるほど。

 まだ赤ちゃんだったビンだからこそ、大人の背丈と運動能力を求めてアーキマンを編み出したわけだ。

 逆に、俺は一人で何でもできるために、アーキマン的なものを必要としない。


 必要は発明の母だな。


「ぼ……ぼくもあんなすごいこと、できるんでしょうか」


 自信なさげなカールくん。


「カールくん、言うなれば、ビンは天才だ。あ、うちのマドカもな。で、天才と言う奴らは呼吸するように努力をし続ける。才能があるところに、才能を伸ばす努力を惜しまないんだ。だったら凡人はどうする? 簡単だ。ルールの裏側を突いて、超効率的に成長すればいい」


 俺の説明に、カールくんが目を白黒させた。


「だが、最初に裏技を教えたら君の成長は歪んでしまう。まずはコツコツ基礎を固めて行こうか。デッドエンドインフェルノの練習を始めるぞ。それが終わったらワールドエンドコキュートスだ」


「はい!」


 一生懸命に、炎と氷の魔法を練習するカールくん。

 まだちょろちょろとしか火がでないし、氷もポロポロっと小さいのが出るばかり。

 それでも、きちんと属性魔法を使い分けているのは大事だ。


 細かい魔法のコントロールを意識してやることが重要だからな。

 俺は勇者村を作る以前は、精密な魔法の制御が苦手だった。


 というか、スケールの大きい敵と戦い続けていて、威力のでかい魔法ばかり使うようになっていたのだ。

 勇者村で暮らすようになってから、魔法の超精密制御を身に着けた。


 おかげで、こうして楽しくスローライフが送れている……。


 カールくんには、まずこの精密な魔法制御を学んでもらおう。

 そこから威力をだんだんアップしていく。


 たっぷり訓練をし、途中からビンのアーキマンを使ってカールくんと模擬戦をしたりした。

 実際に戦うとなると、練習と全く勝手が違うようで、カールくんは戸惑っていたようである。

 ビンも、いかに手加減するかに苦心していた。


 ともに成長しているな!

 俺は満足である。


 ビンとカールくんのお腹がぐうと鳴ったところで終わりとなった。

 二人を連れて外に出てくる。


 まだ、時間は昼をちょっと過ぎたばかり。

 おやつの時間もちょっと遠い。


「おなかすいたー!」


「おなかがすきました!」


 二人が元気に台所に走っていくと、洗い物をしていたカトリナが「もう!?」と驚いたのである。

 メンタルとタイムの部屋は、食事のタイミングがずれるからダメだな!

 基本的に封印しとこう。


 ビンとカールくんと俺が並んで、ガツガツとシチューの残りを食うのである。

 空腹になった理由をせつめいしたところ、カトリナとミーが食いついてきた。


「へえ、それってさ、時間関係なくその中で自由にやれるんでしょ?」


「ねえ。だったらそこでお野菜とか育てられたら、いい感じじゃない?」


 なるほど!

 奥様方のたくましい思考に、俺は目を見張るばかりだ。

 確かに、あの中で野菜を育てられたら、どんな季節でも新鮮な野菜を食える。


 漬物にしなくていいもんな!

 アイテムボクースの中の、メンタルとタイムの部屋。

 色々使い道がありそうだ。


 ちなみに。

 地面が石畳だったり、土壌に細菌がいなかったり、太陽がなかったりで、野菜を育てるには向いていなかった事だけはすぐに判明するのだった。



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