第217話 元勇者の弟子
存分にマドカをぷにぷにして俺は回復した。
あまりほっぺたを触るとマドカが怒るので、途中から食物で懐柔するのである。
するとすぐに機嫌を直す。
「ショート、あんまり間食させないで! マドカがぷくぷくになっちゃう」
「我が子はぷくぷくしてても可愛いが、確かにそれはあまりよろしくないな」
カトリナに注意されて反省する。
もう少し大きくなれば、バタバタ走り回るようになるだろうから、そうしたらいくら食べさせても足りないくらいになるであろう。
アキムの家なんか、アムトとルアブがめちゃくちゃ食うからな。
男の子だと食事量も半端ではない。
まだ十代のフックもすげえ食うしな。
あ、フックは年が明けると二十歳か!
ミーも同い年だから、二十歳祝をしてやらんとな。
「ほら、お仕事お仕事。こっちはお昼ごはん用意して待ってるからね!」
「へいへい」
というわけで、奥さんに追い出されてしまった。
勇者村では、午前中は農作業の時間なのだ。
これには、大きくなった子どもたちも参加することになる。
主に草むしりや、小石を拾う作業だ。
カールくんとルアブが担当になる。
うちの村だと、強大な力を持った子どもがちょこちょこいるので、彼らの魔法を使えば楽になる。
だが、それは禁止していた。
その子どもがもしも村を出ていったら、楽をしていた分はどうなる?
楽をしすぎることで、作業する能力を失う可能性があるのだ。
ということで。
午前中は地道な作業に勤しむ。
アキムの家のアムトなんかは、もりもりと背が伸びている。
ここに来たばかりのころは、リタとピアと背丈が変わらなかった。
だが、今は隣で畑仕事をするリタよりも、一回り大きい。
男の子は大きくなるものだ。
うんうん、と頷く。
そして隣で、わっせわっせと土を耕しているピアがいるのだが、うん、アムトと体格があんまり変わらないな!
もりもり食って、めちゃくちゃ動く娘なので、その分が体に回って大きくなっているのだ。
女の子も大きくなるな!
最終的にはアムトの方が背が高くはなるだろうが。
本日の昼飯当番はカトリナとミーなので、二人の姿はない。
スーリヤが畑の水やりをして、パメラが肥料をまとめて運んできたり。
みんなもりもりと仕事をしている。
よしよし。
「ショートさんはよく働くなあ」
フックが感心している。
俺は彼らの様子を観察しながら、体の方はせっせと畑仕事をしていたのである。
元勇者ともなれば、頭と体を全く別々に働かせて作業することができるのだ。
別に頭と体を切り離すわけではないぞ。
「こうして俺たちが働いた分、乾季の終わりには収穫が増えるからな!」
麦畑、田んぼ、綿花畑に芋畑、大豆畑。
それが今の勇者村の農産物だ。
個人的にはここに、葉物野菜を増やしたい。
ビタミン系は麦や米を玄米状態で食べて補給できる。
しかし、シャキシャキした歯ごたえの野菜があると飯がさらに楽しくなるな。
……とか考えて仕事をしていたら、昼飯の時間になってしまった。
「今日の仕事は終わりだ! 飯だー!」
俺の宣言に、作業をしていた村人全員が立ち上がり歓声をあげた。
昼からは日差しが強くなるからな!
仕事をしすぎてはいけない。
その気があれば、夕方にちょっと仕事をしてもいい。
勇者村の仕事は一日四時間なのだ!
「ショートさん! ごごのしゅぎょうなんですけど!」
「むむっ、カールくん、今日も俺の指導を受けたいのだな!」
「はい! さいきん、ショートさんがいそがしくってあんまりおそわってなかったので……」
「あー、そっかー」
直弟子として彼を見初めはしたものの、俺は多忙である。
彼に最低限の基礎だけ教えて、他の仕事に飛び回っていたのだ。
カールくんは自主練習でもりもりと実力をつけてはいたが、それはあくまで俺がやっていたことを見て真似していただけだ。
よし、コツを教えるとしよう。
飯を食いながら、午後の予定について話をする。
「まあ、カールは午後も頑張るの? 無理をしないでね」
シャルロッテが優しい声を掛けてくれる。
いいお母さんである。
貴族の令嬢然としていた彼女も、すっかり農作業に慣れて日焼けしてきた。
それに体格も明らかに良くなった。
よく働き、よく食べ、よく寝ているからである。
彼女としては、カールくんが勇者村で楽しく暮らしていることが何よりの喜びらしい。
ちなみに、息子さんがどこまで凄いことになっているかはよく知らないようだ。
「カールくんのことは任せてくれ。彼はすぐに、この村を飛び出して世界で活躍するすごい男になるぞ」
「まあまあ! でも……すぐに大人になっていなくなってしまうのは、わたくし寂しいわ……」
「ぼくはずっとははうえのちかくにいますから!」
「それはそれで、よくないとわたくし思うのよね……。その中間くらいで……」
「多分、カールくんが一人前になるには十年くらいかかるので」
「ああ、そのくらいならちょうどいいですね!」
シャルロッテがポン、と手を叩いた。
そんな彼女を、カトリナが胡乱な目で見つめている。
あれは……。
世話する相手を見つけた世話焼きおばちゃんの目だ……!!
よし、シャルロッテはカトリナに任せよう。
そして午後からの訓練。
「今日もデッドエンドインフェルノの訓練だ。カールくんの魔力だと大した威力にはならんから、ちょっと異世界に行ってやろうか」
「ちょーとー!」
「おっ、ビンも来るか! じゃあ三人で訓練するかあ」
「ビンもくるの!?」
「カールくん、ビンはこう見えて、勇者村で三番目に強いんだぞ。一番は俺で二番はトリマルだ。ビンは二歳だが、この星最強の二歳児なのだ」
「そ、そんなに!?」
「えっへん!」
ビンが胸を張る。
この幼児、俺が世界で唯一、マドカをお嫁さんにやってもいいかなーと思える男なのだ。
彼の力を借りて、今日はカールくんを大いにレベルアップさせるとしよう!
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