第214話 最近どう?

「ねえショート、マドカ見なかった?」


「またどこか行ったのか」


 午前の仕事を終えて戻ってくると、カトリナがマドカを探していた。

 もうすぐ昼食なのだが。


「マドカ、歩けるようになってからすぐにどこか行っちゃうんだよね。行動力が有り余ってるところとか、誰かさんに似てるみたい」


「俺だな」


「そうそう」


 二人でははは、と笑う。


「じゃあ俺が探してこよう。マドカは魔力が高いから、すぐに見つけられるんだ」


「お願い! 配膳して待ってるね!」


 カトリナは昼食準備に戻っていった。

 奥様方は食事時が一番忙しいのだ。


「さて、マドカはどこにいるかな……と。いた」


 魔力感知の魔法を使うと、すぐにマドカの反応があった。

 肥溜めの方にいる。


「なんだって肥溜めに行ったんだ」


 あっちには二ーゲルがいるので、安心だろう。

 マドカが落っこちている心配もない。


 到着してみると、ニーゲルが作業をしていて、隣にマドカを抱っこしたポチーナがいた。


「くちゃくちゃ、ねー」


「肥溜め、ちゃんと発酵してるから臭くないっす」


「うー?」


「くさいくさいじゃないですよー、です」


「くちゃくちゃ、ない?」


「そうです」


 ポチーナがにっこり笑った。

 マドカが「おー」と感心する。

 また一つ何か学んだようだ。


 ああやって見ていると親子みたいだな。

 いや待て待て、マドカは俺の娘だぞ。


「おーい、飯だぞ。昼飯だ」


「うっす!」


「はいです!」


 ニーゲルが振り返り、ポチーナがマドカを抱っこしたままこっちにやって来た。


「マドカちゃん、お父さんです!」


「おとたーん!」


「うひょー、マドカー!」


 うちの娘を受け取る。


「くちゃくちゃ?」


「畑仕事してきたから汗臭いな」


「くちゃーい」


「お父さん傷つくからそういうのよくないぞー」


 マドカはすっかり面白がって、くちゃいくちゃい言い出した。

 こりゃあいかん!

 お父さんとくちゃいを紐付けされたら大変なことになるぞ!!


「マドカはあれだ! 美味しいのを食べに行かないとな……!」


「おーしーの!?」


 ハッとするマドカ。

 一瞬で思考が、昼食に切り替わった。

 よしよしよしっ!


「おーしーの! まお、おーしーの!」


「よし行くぞー!」


 マドカを抱えてダッシュである。

 後からポチーナも走ってきた。


「ニーゲルさんのご飯も持っていかないといけないのです」


「おお、そうだったな。ニーゲルは飯時くらいこっちに来てもいいのにな」


「ニーゲルさん、自分が行くと手を洗ったり体を洗ったりして、それでも臭いが取れないかも知れないからって言ってたです。あとすぐにまた仕事にもどるからって」


「真面目なやつだな。よし、ニーゲルのぶんの肉は少し増やしてやろう」


「ありがとうですー!」


「なぜポチーナが礼を……? ハッ」


 俺は完全に察するのである。

 こいつら……アチチって関係になっているな?


 きょとんとするポチーナ。

 俺たちが昼飯を食う横で、ポチーナは昼食をお弁当箱に詰めて、二人分持ち帰るのであった。

 二人分だぞ二人分。


「あれは……ニーゲルとポチーナは本格的にくっつくな」


「だよねえ……。やっぱりマドカ、肥溜めにいたの? なんか、かき混ぜてるのが面白いらしくて、よくポチーナさんがお世話してくれてるんだよねえ」


「なるほど、俺たちにとっても恩人みたいなものだな。力になってやらねば」


「だねえ!」


 カトリナと二人で、世話を焼くぞと決めるのである。

 俺がいた元の世界では、こういうのは余計なお世話だったりするのだが……。


 案外、世の中の人間は消極的なのが大多数なのだ。

 何かのきっかけや、背中を押されないと一線を越えられない……なんてのは多い。


 俺にとって、カトリナとの関係の一線を越えさせたのは、勇者パーティ内でいつまでも手を出さないでいたら、ヒロイナがパワースに取られた経験だな。

 かつては苦い経験だったが、今となってはいい思い出である。

 お陰でカトリナと結婚して、マドカも生まれたのだ!


 飯が終わった後、後片付けを手伝い、夕食はミーとパメラが当番。

 俺はカトリナと二人で作戦会議に入るのである。


「さあどうする? どうやって二人の仲を急接近させる?」


「まずは二人がどこまで進んでるのか調べるのが先だよね」


「なるほど、さすがカトリナ」


「お?」


 マドカが俺たちの会議を不思議そうな顔をして見ている。


「マドカがいたな……! よし、預けよう」


「そうしよう!」


 ということで、マドカをアキムの家に預けるのである。


「まおー! あそぼ!」


「さーらー!」


 マドカとサーラが昼食ぶりの再会を喜びあい、手を繋いでアキム邸近辺を走り始めた。


「あぶないあぶない!」


 ルアブが慌てて後を追いかけている。

 これで安心だな。


 ちなみに最近は、カールくんはビンと一緒に自主訓練をしている。

 ビンが念動魔法で作り出す、実態を持った超能力みたいな怪物相手に模擬戦をやっているのだ。

 ルアブはビンの子分を自称していたが、この訓練にはついていけないので今はお留守番中。


 さて、俺たち夫婦は肥溜めに向かって行くのである。

 すると、ポチーナが肥溜めをかき混ぜているところだった。

 ニーゲルは休憩中。


「ようニーゲル」


「ショートさん、カトリナさん! 二人でどうしたっすか」


「いやな、へへへ」


 どう切り出したものか俺が迷っていると、カトリナがズバッと切り出した。


「ニーゲルさんね、ポチーナさんとどこまで進んでるの? エッチした?」


 男らしいっ!!

 俺にはとても聞けねえ!!


 だが、これを聞いてニーゲルは首を傾げた。


「エッ……チ……?」


「……まさか、ニーゲル」


「なんすかそれ」


 知らんのかニーゲル!!

 俺とカトリナは、衝撃にうち震えるのであった。


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