第211話 大豆収穫の話
魔王がいなくなり、平和になったワールディア。
ついでに、色々引っ掻き回してくる国家も消えてしまったので、色々な意味でスッキリしてしまった。
大陸が減ったので、その辺は後でどうにかせねばな。
ユイーツ神と相談していたら、神的にはこういうのはよくある話なのだそうだ。
『世界は常に動き続けていますからね。今ある大陸もそのままの姿ではいられません。安心して下さい。あそこで大きな動きがあったお陰で、海底火山が活発化しています。近々噴火して、小さな火山島が幾つもできあがる予定ですよ』
「ほー、うまく出来てるなあ……!」
世界の仕組みというものに感心する俺である。
超越的な力を手にしても、俺のタイムスケールでは測れないものがある。
人間の数が3割位減ろうと、ワールディア的にはそこまで問題ではないのだ。
『何より、あの土地は信仰が滅びつつある土地でしたからね。実は無くなっても我々神としては問題がないのです』
「ははあ……。神の加護がない土地だったので、誰も助からなかった……?」
『そうです』
断言してきたよこの神様。
地球ならともかく、神が実存して目に見える形で加護を与えてくるワールディア。
神様をスルーしていると、後々とんでもなことになるのだな。
「うちも気をつけなきゃな」
『勇者村はショートさんと鍛冶神様がいらっしゃるから関係ありません』
そうだった。
神様本人が住んでたんだった。
その鍛冶神だが、今日はクロロックと大豆畑で作業をしている。
彼の本来の権能に畑仕事はないので、手作業で大豆の手入れをしているのである。
よし、手伝いに行くか。
ユイーツ神との打ち合わせもおわったところで、大豆畑にやってきた俺。
『おお、ショート。いよいよ大豆の収穫だぞ』
「なんだって!? もうそんなところまで」
「環境が良かったのですね。素晴らしいできですよ。ただ、数そのものは少ないですから、半分は種にするために取っておかなくてはですが」
クロロックが目をぐりぐり動かしながら言う。
ああやって目を動かしてる時、カエルの人の頭の中では目まぐるしく考えが働いているのだ。
どれだけを栽培に回すかとか、少ない大豆でまずは何を作ってみるかとか。
「クロロック、どうだろう」
「はい」
「豆腐を作ってみては?」
「豆腐!!」
クロロックの目が見開かれた。
「ショートさんの故郷でごちそうになった、あの真っ白でふわりと崩れてしまう宝石のような食べ物を、大豆で!」
「絹ごし食ってきてたのか……。こっちの世界にも豆腐はあるんだろ?」
「セントラル帝国にはありますが、もっと穴が多く、黄色いものですね」
「多分あれが本来の豆腐だな。絹ごしは濃い豆乳を型に入れて、そのまま作ってく感じらしい。栄養は穴の多い豆腐……木綿豆腐のほうが重量比で多いぞ」
俺、アカシックレコードに直接接触してその情報を話しているのだ。
なるほど、勉強になる。
クロロックも、喉をクロクロ言わせて感心していた。
「なるほど。栄養価に関しては、勇者村は万全の状態です。ならばここはのどごしを重視して嗜好品を作るべきでしょう」
カエルの人の腹は決まったようだった。
「絹ごし豆腐を作ります」
「本気の目だな……! 俺も協力するぞ!」
「よろしくお願いします!」
俺とクロロックは固い握手を交わすのだった。
まずは大豆を収穫。
珍しい作物なので、村の仲間が集ってきて、みんなで収穫を始める。
お陰であっという間に終わってしまった。
「俺たちも後で育てることになりそうだし、慣れといた方がいいかなって」
フック、よく分かっている。
大豆を育てられるようになると、二毛作の選択肢が増えるからな。
豆腐の基本的な作り方についてはクロロックが詳しいので、俺は必要な材料を入手しに飛び立つことにした。
そう、にがりをゲットしないとね!
海の王国までひとっ飛びだ。
ここでは海水を乾燥させて塩を作っているので、にがりもたっぷり取れるだろうと睨んだのだ。
「ああ、あの塩を取る時に出る苦い汁か!」
ザザーン王がポンと手を打つ。
捨ててしまうことも多いのだが、料理に使ったりする者もいるという。
凝固剤みたいな使い方をしているのだな。
これをちょっと分けてもらった。
そしてまた、勇者村へと取って返す。
にがりの聞き込みをしたり、集めたりしているうちに、結構な時間が経過したな。
その頃には、大豆をぐつぐつ煮て豆乳にしていく作業が進行していた。
「もう完全に原型がないのだが」
「水に浸してからすり潰して、水を加えて煮ますからね。完全に液体になっていますよ」
どろりと濃厚な豆乳ができあがっている。
うーむ、豆腐のにおい……!!
大豆関係を食べる習慣が無かった、アキムやスーリヤは物珍しそうにこれを眺めている。
「私も実は食べたことなくて。大豆って、家畜の餌に使ったりしてたみたいだから」
とはカトリナの談。
彼女が住んでいた辺りでも、大豆を食べる習慣は無かったようである。
所変われば、食生活は変わる。
「じゃあ、豆腐は絶対食べたほうがいい。不思議な舌触りで食べたことない味がするぞ」
「ふぅん……! ショートがそう言う食べ物、大体みんな美味しいもんね。楽しみ!」
豆腐単体ではそこまで味がしないけどな……!
そんなわけで、豆乳を絶賛煮詰め中。
お豆腐作成作業は佳境に入っていくのだ!
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