第208話 スローライフを失った島
ロケット使いのレンジにロケットを作ってもらった。
これ、魔力を物質化させてロケット状にする技術なのな。
どうやら彼はそれに特化しているらしい。
面白いので、俺も真似してみた。
小さいロケットができた。
人が乗れるサイズになるのはしばらく練習が必要そうだな。
魔力物質化の魔法。
ムカラユウと名付けておこう。
ロケットに乗り、勇者村上空を外れたところから俺が魔力を注ぎ込み超加速。
あっという間にウエストランド大陸跡までやって来た。
「では走査する」
ストークが、レーダーの能力を使う。
対象を絞り込むことで、広範囲を走査して探り出すことができるそうで、非常に有用な能力だ。
こいつらと一緒にマドレノースと戦っていたら、さぞや楽であったことだろう!
だがなんというか、彼らはゲームクリア後に仲間になるボーナスキャラみたいなものだな。
「よし、レーダーにも俺が魔力を足してやろう……そぉれ」
「な、なんだと!? 僕のレーダーがよく分からない効果で精度を増した……!! 分かる、分かるぞ! 魔王はあの島にいる!」
「なあオービター。このおっさんヤバくねえか? さっきも俺のロケットに直接魔力流し込んで速度上げてきたんだけど。なんで人の能力に介入できんだ?」
「ショートはそういう奴だからな」
そういう奴で片付けておいてもらってよろしい。
ウエストランド大陸から外れた所にある島に、俺たちは降り立つ。
元々は、現地の人々が素朴な文明を築いていたのであろう島だ。
だが、ウエストランド大陸から流れてくる、物質文明の汚染によって、彼らもどこかで見たことがあるような町に、どこかで見たことがあるような服装をして、どこでも見られるような暮らしをしていた。
物質文明化によって心身ともに豊かになるならいいんだが、こういうところ、精神的には豊かさが減っていったりするんだよな。
ほら、なんか死にそうな顔して乗合馬車に乗って仕事に行く人たちとかいる。
スローライフ生活だった島民が、物質文明の力でファストライフに突入し、社会が複雑化して、それを維持するための労働がバラバラのパーツ化してしまっているから、何のために働いているのかが分からなくなったりする。
これはこれで、物質的には豊かなので自然死することがかなり減っていくのだが、社会的な死とか自死みたいなのが増えるんだよな。
あくせくと働く町の光景を眺めながら、俺はうんうんと頷く。
こういう物質文明と、魔王はとても相性がいい。
魔王はこういう世界に入り込み、システムを乗っ取って自らの力に変えてしまうのだ。
反面、スローライフな世界と魔王は恐らく相性が悪い。
ある意味では、物質的に発展した人類を滅ぼす因子こそが魔王、という考え方もできるのかもな。
「おいショート、さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ」
オービターに呼ばれて我に返った。
「いかんいかん、自分の世界に入り込んでいた。じゃあ島民に紛れ込んで魔王を探すとするか」
俺と魔王狩り五人は、当たり前みたいな顔をして町に繰り出した。
ぶっちゃけ、俺は野良着だし、魔王狩りの五人はカトリナからもらった貫頭衣みたいな服を着ているしで、大変目立つ。
島民がしっかりした服を着ているだけに。
だがそんなことは気にしない。
あたかも、『最初からこの島で暮らしていた人間でございます』という顔をして食堂に行き、「Aランチ六人前」などと頼んで当然のように飯を食う。
注目を浴びても気にしない。
あまりにも堂々としていると、明らかに異分子でも気にしている自分の方がおかしいのかな? と思うようになってしまうものだ。
これが正常性バイアスである。
「いやいやいや! おかしいだろ! 明らかにあんたたちは島民じゃない!」
おっと、自分の頭で考えられるやつが島にもいたようだな!
対面の席でランチを食っていた男が、ツッコミを入れてきたのだ。
「大体、島はそこまで大きくないから、島民全員が顔見知りみたいなものなんだ。なのに当たり前みたいな顔してよそ者が堂々と現れてランチを食ってる……!」
「察しのいい島民は好きじゃないねえ」
俺がニヤリと笑った。
青ざめる島民。
既に俺たちはランチを食べ終わっている。
普通の量の定食ならすぐに片付けてしまうのだ。
俺たちの食べっぷりは常に飢えているかのようなのだぞ。
「お……俺をどうするつもりだ!」
「正常化バイアスに囚われない君の意見を、是非聴きたいのだよ……! グフフフフ」
俺は島民の肩に腕を回して連行した。
「オービター、こいつ悪人みたいなこと言ってるぞ!」
「いや、レンジ、ショートはこういうやつなんだ」
魔王狩りの間で、俺のキャラクターについて何やら話し合いがされているな。
存分に話し合うといい。
人間は様々な側面を持つので、一見して諸悪の権化みたいな一面を持ちながら、実は勇者だとか村長だったとかそういうことはよくある。
「お、俺をどうするつもりだきさまらー」
「こうするのだよ! うりゃあ! 思考読解魔法ヨミトール(俺命名)!!」
「ウグワーッ!! お、俺の頭に指がめり込んでーっ!!」
彼の頭の中に、魔王の痕跡が無いかどうかを探るぞ。
無いな。
俺は指をすぽっと引き抜いた。
「ウグワーッ!! ……あれ? 痛くない」
「うむ。アストラルな感じで俺の指先をお前の霊的なところにズボッと突っ込んだので、肉体的には何のダメージもない」
「肉体的には……?」
「霊的には俺がちょっと指をひねるとお前の魂が消滅するところだった」
「ウグワーッ!?」
「落ち着け落ち着け。俺は善良な村長なんだ。そんなことはしない……」
微笑みながら彼の肩を叩く。
「ちょっと話を聞かせてほしいだけなんだ。俺たちには世界を救うための偉大な目的があってなあ」
「ひいっ、し、信用できない!」
さあ、彼からオハナシを聞くとしよう!
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