第207話 ウエストランド大陸の事情

 翌朝。

 子どもたちのお泊り会も終わり、教会からわーっと子どもたちが出てくる。

 これを迎え入れる親一同なのである。


 お泊り会のお話を子どもたちから聞きながら、朝飯となる。

 我が家のマドカは、あんまり語彙も多くないから、いかにご飯が美味しかったとか、ご飯がたくさん出たかとか、ビンとサーラと遊んだとか、お兄さんお姉さんに遊んでもらったとかそういう話だな。

 いやいや、案外盛りだくさんじゃないか。


 ニコニコしながらマドカがぺちゃくちゃ喋るのを聞いている。


「なーに、なーに? お父さんとばっかり喋らないで、お母さんにも教えてほしいなー」


 隣にカトリナもやってきて、マドカを挟んでお話を聞くのである。

 うーむ!

 なんたる充実した時間。


 どこの家も似たような感じだ。

 リタとピアがちょっと羨ましそうな顔をしているな。

 そういえば二人とも戦災孤児だった。


「あんたらはお泊り会の話しないの? あたしに教えなさいよ」


 ここでヒロイナが出た!

 二人の顔がぱっと明るくなる。


「ええとですね、司祭様!」


「お料理がね、新しいのに挑戦したんだけど」


 ふんふん、と頷きながらヒロイナが聞きに回っている。

 ああ言うふうに気遣いのパワーが増したんだなあ。

 環境は人を変える。


 ちなみにこの食卓で、不思議そうな顔で飯を食っているのが魔王狩りの面々だ。


「どうしたどうした。朝飯が気に入らないか」


「いや、そうじゃないんだけどね」


 魔女のエレジアが苦笑した。


「今まで殺伐としたところでずーっと戦ってたでしょ。いきなり、ものすごく平和な所に来ると違和感と言うか、驚くと言うか……」


「なるほどなあ」


 その気持ちはとてもよく分かる。

 魔王大戦の最前線を戦い続けた俺が、カトリナとブルストと出会ってからスローライフを始めても、しばらくは殺伐とした環境での生き方が抜けなかったからな。


「慣れだ。それにお前ら、いつまでもここにいるわけじゃないだろ。アセロリオンを倒したら別の星に行くんじゃないのか?」


「それはそうね。じゃあ、あんまり気にする必要もないか」


「そういうことだ。見ろ、オービターは難しい顔をしているが、あれは平和な空気に戸惑っているのではなく、朝飯のシチューに入っている肉が何の肉なのかを必死に考えながら味わっている顔だぞ」


「えっ! なんで分かったんだ!!」


 肉を飲み込んだオービターが驚愕した。

 分からいでか。

 お前はちょっと俺に近いところがあるからな。


 ちなみにあいつが食ってたのは、イノシシのタンだ。

 歯ごたえがなかなか凄くて食べごたえがあるんだよな。


 勇者村のシチューでは当たりとされる部位だ。

 それを教えてやると、オービターは物凄い勢いでシチューをがっつき始めた。


「ところで、ウエストランド大陸はどうなんだ? もう終わりか、あそこ?」


「人間はほぼいなくなったんじゃないかな。お陰で、アセロリオンの力があれ以上強くならなくなったもの。ショートが来た時にアセロリオンがどかんと大きくなったでしょう? 持ってる全力で進化した……みたいな感じ? 向こうも切羽詰まっていると思う」


「お前らはあれだな。その土地を巻き込んで犠牲を厭わずに敵を追い詰めるのな」


「だってアセロリオンが逃げ回るんだもの。あんなに狡猾な魔王初めて!」


 エレジアの言葉には、俺も同意する。

 こうまで長い間、無事に存在し続けているのだ。


 以前ワールディアに侵入しようとした魔王など、俺に速攻で片付けられて、復活しても瞬殺だったからな。

 自己主張をせず、着々と力を蓄えるという魔王アセロリオンは賢い。


 ただ、手段を選ばずに魔王を追い詰める魔王狩りの面々によって彼女の方針は台無しになったようだが。


「近くの人間が住んでいる所に移動するんじゃないかな。で、また力を発揮すると思うからそこを叩く」


「魔王狩りの戦法だと、ワールディアが死の星になるんじゃねえか」


 ここ俺はハッと気付いた。

 こいつらは魔王を狩ることが全ての目的で、手段はどうでもいいのだ。

 なので、平気でその地域を壊滅させたりする。


 こりゃあいかん。

 のんびりしてる場合ではないぞ。

 いや、のんびりしてたからウエストランド大陸が壊滅したのだが。


 この中央の大陸は俺の知り合いが多いので守りきらねばな。


「よし、では重い腰を上げて、俺はアセロリオンを本格的に退治することにするか」


 俺はそう決意するのだった。

 安心安全なスローライフのためだからな。


 そうと決まれば話は早い。

 元勇者パーティの面々は、既に自分の生活を作り上げているから連れて行くのは忍びない。

 

 魔王狩りの連中だけを伴って行くとしよう。

 飯が終わった後、魔王狩り五人を集めて会議をした。


 こいつら、見回すと本当に若いなあ。

 全員カトリナより年下なんじゃないか。

 ああ、エレジアとラプサという二人の魔女は、多分カトリナより一個下くらいか。


 だが宇宙を渡っているくらいだし、もう年齢とかそういう概念を飛び越えた存在になっている可能性が高い。

 レベルも幾つかの限界を突破していて、人間の領域外になっているしな。


「えー、では会議を始める。まだアセロリオンはウエストランド大陸にいると思うか?」


「いねえだろ、人間いねえし」


 ロケット使いのレンジが身も蓋もないことを言った。

 言われてみれば確かに。


「じゃあ近くの島かな」


「僕のレーダーで探ることが可能だ」


 レーダー使いのストークがそんなことを言う。

 おいおい、それじゃあ現場に行ってストークにレーダー使わせるのが一番いいんじゃん。


 では、現場でサクサク狩りをしようということになった。


「カトリナ、そういうわけで魔王を退治してくる……」


「いってらっしゃーい」


「おとたん! いしぇらしゃ!」


「うおー!! マドカ! 難しい言葉も覚えてきたなあ!」


 我が娘の頭をなでなで、ほっぺをむにむにした。

 マドカが「やー」と嫌がる。


 エネルギー充填完了である。

 俺は魔王狩りを引き連れて、アセロリオンを炙り出すために飛び立つのだった。


 周囲に被害が出ないよう、そーっと、そーっとな。


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