第206話 食欲バンザイ
魔王狩りの五人を連れ帰ってきて、飯を振る舞った。
ツンツン頭でビームを出すのがオービター。
相方の魔女エレジアは魔法を使う。
ロケットを召喚できる能力を持つのがレンジ。ソフトモヒカン頭だ。
で、相方らしき気の弱そうな娘がラプサ。魔剣使いなんだと。
最後にクール系男子のストーク。レーダーと言う能力を使う。
この男ども、オービターに、レンジはチャレンジャーか? そしてストークがボストーク……。
宇宙関係だ……!
俺は小さい頃に宇宙飛行士になりたかった系男子なのである。
飯を振る舞われた魔王狩り一行は、物も言わずにガツガツと飯を食った。
この半年間、ろくなものを食っていなかったのであろう。
「もうねえ……。どんどん大陸が壊滅してくでしょ。ご飯食べられるところが減ってくのよ」
途中でエレジアが説明してくれた。
「それはつまり、魔王と君等が戦ったからだな」
「そうなんだけどねえ。喧嘩を売った手前、戦い続けないとね!」
ウエストランド大陸を巻き込み、魔王と魔王狩りの喧嘩は半年続いたようだ。
そして大陸のほとんどが壊滅した。
もうあそこは、立派な死の大陸だな!
そんな中でどうにか食べ物を見つけながら、戦いを繰り広げていたのは凄い。
しかしとうとう食べるものも無くなってきていたのだろう。
魔王狩りたち、食べる食べる。
「ショートー。作りおきのシチューなくなっちゃった!」
カトリナが空っぽになった鍋を見せる。
凄まじい食欲だな!
デザートの丘ヤシまで平らげて、彼らは満腹になったらしい。
そのまま地面に寝転がると、
「うひょー! ここあったけー」
「魔法を使わなくても、ここなら楽に野宿できるねー」
などと言い始めた。
大変な生活をしていたな。
「待て、五人とも。タダ飯を食わせたわけではないぞ」
「なんだとぉ」
俺に対して、ロケット使いのレンジという少年が突っかかってきた。
「いちいちうるせえんだよおっさん!!」
「おっさん!!」
俺は衝撃を受けた。
そうかあ。
俺も二十代半ばだからおっさんか。
まあ、マドカのお父さんでもあるからな!
おっさんになるだろう、うん!
「てめえをぶっ倒したら言うこと聞かなくてもいいよな! おらあ! フレアロケットーッ!!」
村の中でロケットを召喚し、俺にぶつけてくるレンジ。
俺はこれを片手で受け止めて、くしゃくしゃっと次元ごと圧縮し、宇宙空間に向けてぽいっと投擲した。
「えっ」
「世の中、上には上がいるぞ。これで一つ賢くなったな」
俺は駆け寄りざま、レンジに腹パン……は食べたばかりで可愛そうだな。
彼の二の腕をめくってからしっぺをした。
「ウグワーッ!?」
腫れた二の腕を抑えてのたうち回るレンジ。
「レンジが赤子の手をひねるようにやられた! 強い……!」
ストークが戦慄している。
またレーダーで俺の魔力の起こりを見たな。
きっと彼のレーダーは、辺り一面が俺の魔力で染まっていることであろう。
「赤ちゃんがいる村で、赤子の手を捻るという表現は痛そうだからやめるんだ」
「わ、わかった」
よし。
「君等に頼みたいのは、子どもたちの監督だ。子どもたちのお泊り会をやってるからな。外で見てるだけでもいい」
「なんだ、簡単じゃん」
オービターが拍子抜けしたようだ。
「私子ども苦手なんだよねー」
「私は……好き……」
エレジアとラプサも、特に異論はないようだ。
そうか、エレジアは子ども苦手系女子か。
だが仕事はしてもらうぞ。
五人を教会まで連れていき、監督役のお兄さんとお姉さんだよと紹介する。
「おとたん!!」
あっ!
マドカが俺に気付いて駆け寄ってきた!
足にむぎゅーっとしがみつく。
「まお、おとたんといく!」
「なにぃーっ! 今すぐ連れ帰って一緒にねんねしたい! だ、だが……! これは子ども同士のお泊りイベント……!」
「おとたん?」
「うううっ」
「ショートがぐらんぐらんに揺らいでるぜ。子どもには勝てねえんだな。つーかマドカでかくなったなあ」
オービターが歩み寄ってきて、マドカの前にしゃがみこんだ。
「う?」
見覚えのないお兄さんがやって来たので、マドカが首を傾げた。
そうだなー。
覚えてないよなー。
「この人はな、お父さんのお友達。今日のお泊りを見ててくれる人だ。お父さん、すぐそっちにいるからな。寂しくなったら呼ぶんだぞ」
「う?」
「まおー! おふとんいこ!」
おお!
救いの主サーラ!
マドカの手を引っ張って、教会の床に敷かれた布団に連れて行く。
「じゃあな、マドカ。朝ごはんで会おう!」
「ばいばーい!」
サーラと並んで笑顔で手を振るマドカ。
よし、誤魔化されてくれた!!
「じゃあ、そういうことで、一応見ててくれ。大丈夫だとは思うけど」
俺の言葉に、みんな「ほーい」とか「はぁい」とかやる気なさそうに答えた。
この年頃の少年少女はだいたいこんなもんだろう。
ところでレーダー使いのストークだけが、青ざめた顔で俺に話しかける。
「この村は何なんだ……!? なり損ないの魔王を上回る魔力反応が複数存在している……! この中には二つ……。あんたの娘と、あそこの小さい子だ」
「マドカとビンな」
「あとはあちらとあちらとあちら……」
「トリマルとアリたろうとガラドンか。そんなに強くなったのかあ」
後でストークに聞いた話だが、なり損ないの魔王というのは、魔王の星みたいなのから飛び立つことを許されなかった、二線級の魔王のことらしい。
炎とか雷とか獣とか、分かりやすいモチーフの魔王なんだと。
つまり、世界を襲ってくる魔王は、一線級しかいないということになる。
大変迷惑な話である。
「大丈夫。みんなまだまだ子どもだし、それでもしっかりと良心というものを持っているからな。君たちは子どもを守るんだ、というくらいの気持でいてくれればいいのだ」
俺は優しく伝えた。
これで大丈夫だろう。
最後にカールくんが駆け寄ってきたので、彼に今日の成果の報告などを受ける。
「なるほど、コルセンターが狭い範囲なら使えるようになったか! 優秀優秀」
「はい! これでいつでも、ははうえのことをまもりにいけます!」
「うむ、いいことだ。ところでカールくん。今日連れてきたお兄さんたちは、不思議な技を使える。寝るまで時間があるなら、色々話を聞くのもいいぞ」
「ふしぎなわざ!! わかりました!」
「おーし、不思議な技を教えちゃうぞ」
その気になったオービターが出てきて、カールくんと話を始めた。
子どもたちのお泊り会を彼らに任せ、俺は安心して大人たちの集まりに戻るのだった。
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