第204話 フォレストマン・フロム・勇者村
そういうわけで、フォレストマンたちの信頼を勝ち取った俺。
信頼じゃなくて信仰な気もするが、気にしてはいけない。
付き合いが長くなれば、俺がそこまで特別な存在ではなく、どこにでもいるような男であると気付くだろう多分。
最初に出会ったフォレストマンは、マレマという名前だった。
彼を使者として、フォレストマンの集落と勇者村は交流することが決定した。
マレマを連れて熱帯雨林を抜け、勇者村を目指す。
「おお……ここ、空の火が強い。外出るの危ない」
マレマが何やら、日差しが降り注ぐ外を警戒している。
どうやら彼らの肌は、直射日光に弱いらしい。
「なるほど。だとすると勇者村は基本的に直射日光を楽しむ作りをしているので、危ないな……。よし、ちょっと待ってろ」
俺はクロロックとトリマルに残ってもらい、一旦勇者村に帰還する。
そしてブルストと話をするのだ。
「森の奥地で、現地に住んでいるフォレストマンと遭遇して友好関係を結んだんだが」
「また知らないやつと仲良しになったのか! ショートはすげえなあ」
感心されてしまった。
確かに、俺は割と、遭遇する相手と次々友達になっている気はする。
「うむ、あいつらの毒を治してやったら仲良くなってな。それで、こっちに物々交換の交流をしにやって来る話になったんだ」
「ほうほう。いいじゃねえか。森の奥で穫れるものってなんなんだろうなあ。楽しみだ」
「ところがあいつらは陽の光に弱い」
「なんだと。それじゃあ、勇者村に来れないじゃねえか」
「そうなんだ。だから彼らが安心して過ごせる交流のための建物が欲しいんだ」
「なるほどなあ……。よしきた。ブレインと師匠を集めて作っちまうから、三日くらい待て」
そういうことになった。
マレマは一度集落に帰ってもらい、勇者村側では、フォレストマンを迎え入れるための施設建築が始まる。
これは基本的に、半分が森の中に、半分が勇者村に突き出た作りの家である。
ジャバウォックが入ってこれないように、入り口の周辺は尖らせた木の杭で覆ってある。
ジャバウォックが突撃してきたら刺さる。
ブレインがデザインした、要塞風ログハウスである。
これを、鍛冶神が猛烈な速度で組み立て、ブルストが建材をもりもり加工する。
パワースがそれぞれの仕事を手伝い、圧倒的な速度で交流の館は完成していった。
そしてブルストが宣言した三日後。
交流の館は正式オープンである。
大きさは、俺たちの家よりも大きい。
ブルストが一人で作るよりも、勇者村大工オールスターズが作った方がスピーディで大きくなるのは当然だ。
うーむ! 壮観。
「おっきーねー!」
ビンが館を見上げて、大喜びである。
マドカなど、ぽかーんと口を開けて、見上げきれないほど大きな館の屋根を見ている。
あんまり見上げすぎて、ぽてっと尻もちをついた。
「おとたん!」
「そうだなあ。日本の俺の家のよりでかいよなあ」
「でっか!」
「ショート! 最初に変な言葉教えたそれで覚えちゃうでしょ!」
カトリナに叱られてしまった!
そうだな、でっかい、よりは大きい、と最初は教えねばな……!
「おっきー!」
サーラがマドカの横に並んで、的確な表現を教えてくれる。
マドカがきょとんとして、目をくりくり動かした。
「おっきい?」
「そ! おっきー!」
「おっきー!」
よし!!
サーラ、いつもいつもありがとうな。
マドカのお姉さんとして、今後もうちの子を導いてくれると嬉しい。
今度、何か美味しい物でも作ってあげなきゃな。
サーラとマドカが手をつないで、キャーッと歓声を上げながら館の中に入っていった。
先に中で待っていたフォレストマンたちから、おお、とか、うおー、とか驚く声が聞こえる。
いかんいかん。
赤ちゃん軍団が先に乗り込んでどうするのだ。
続いて、俺たち大人チームが館の中に。
フォレストマンたちが安心した顔になった。
「驚いた。森の外の人、すごく小さいと思った」
「あれは赤ちゃんだ。お前らの子どもと同じ」
「小さい子ども、卵の中で育つ。ちょっと大きくなる、出てくる」
マレマの説明で、俺はほおーっと感心した。
どうやらフォレストマンは卵生らしい。
詳しい話を聞いてみると、ダチョウみたいに大きめの卵を一個産んで、それを温めて育てるそうだ。
確かに言われてみれば、マレマの腹にはへそがないな。
卵も、トカゲの卵みたいな柔らかいやつかもしれない。
こうして、フォレストマンとの交流が始まった。
最初は、物品の交換会だ。
お互いの実利が絡めば、相手への偏見など抱いている暇はなくなる。
持ち寄った商品を、勇者村一同もフォレストマンもしげしげと眺めて、仲間たちで話し合う。
これはどんなものか?
どう使うのか?
質問が飛び交った。
うちからは、煮炊きするための鍋や食器。
フォレストマンも火を使うそうなので、使い方についてレクチャーする。
彼らは土を捏ねて作ったツボを火に掛け、煮物を作って食べるようだ。
「鍋があると火の通りが良くなるので、料理の速度が上がる」
「おおーっ」
俺の説明を聞いて、フォレストマンたちがどよめいた。
ここでカトリナが登場し、館の中に設けられた台所で実際に鍋を扱う。
豪腕が鍋を軽々と振るうぞ。
フォレストマンの奥様たちが集まってきて、カトリナと情報交換をしている。
どこも一緒だな!
ついで、フォレストマンからは、森の珍しい食べ物が提示された。
ヌルっとしたゼリー状のもので包まれた山菜……。
あれっ!? これ、でっかいじゅん菜じゃねえか!!
じゅん菜というのは、プルプルしたゼリー状の膜で包まれた山菜な。
俺の実家ではよく食っていた。
食感やのどごしが楽しいんだよな。
そしてのどごしと言えばクロロックだ。
カエルの人は、じゅん菜を見てゴクリと喉を鳴らしている。
「よし、それ全部買おう。鍋と引き換えでいいか」
「いい」
マレマと俺は、がっちりと固い握手を交わした。
なんと、フォレストマン同士が信頼を確かめ合う動作も握手だったのだ。
武器を持つ手と手を合わせることで、お互いに武器を向けることはない、という意味なんだそうだ。
利き手が違う場合、両手で交差して握手するらしい。
よし、いっちょやっとくか。
俺とマレマが交差握手をした。
ここで、勇者村とフォレストマンたちから、わーっと歓声が起こる。
こうして、村に新たな交流が生まれたのであった。
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