第202話 密林の奥地に謎のフォレストマンを見た!
樹木に塗られた赤い塗料は、指ですくってペロッと舐めてみると、酸っぱい味がする。
お腹が痛くなる予感がしたので、解毒魔法を掛けておいた。
もう、腹痛でウグワーなどせんのだ!
「いきなり舐めるのは危険ですよショートさん」
「ホロホロ」
「それ以前の問題だったか……!!」
クロロックとトリマルにたしなめられてしまった。
刑事がドラマとかでやってた、ペロッと舐めて、この味は青酸カリ!みたいなのをやってみたかったんだが。
今度は口に入れた瞬間に解析できる魔法を開発せねばな。
俺が反省を旨に、塗料を調べていたところである。
ちょっと離れて、塗料が形作る紋様を眺めていたクロロックが、ぺちゃんと手を叩いた。
「これは何かの印ですね。恐らくは……トリマルが倒したテンタクルジャガーが現れるから気をつけろ、という印ではないでしょうか」
「なんでそう思うんだ?」
「赤い色とは、昔から警戒色なのです。よく目に止まり見たものの気持をざわつかせます。我々もそうなのですが、攻撃的な気持ちになるので繁殖のときには使いません。メスを取り合う時に赤い衣を身にまとい、雄々しく鳴き合って決着をつけます」
「またカエル人の新たな生態が明らかになったな……! じゃあ、これは俺たちに向けた警告なんだろうか?」
「同族に向けたものかも知れませんね。ブレインさんが見れば、これがどういう意味なのか分かるでしょうけれど」
村の賢者を二人も連れ出すわけにはいかない。
なので、今回ブレインは置いてきたのである。
この先の戦いについてこれそうもないから置いてきたわけではない。
「では、この奥地まで行ってみよう。勇者村探検隊、出発だ!」
「探検隊ですか。いいですね。こう、内から湧き上がってくるものがあります」
「ホロホロ!」
俺を先頭に、探検隊は熱帯雨林の奥へと突き進む……と思ったら、トトトトトっとトリマルが走ってきて前に出た。
「なにぃ、トリマルが先頭を行くのか」
「ホロホロ」
「彼は視線が低いですし、鳥の目から発見できるものも多いでしょう。全ての生き物の中で、最も優れた目を持っているのですよ」
「なんと!!」
トリマルはうんうんと頷くと、首を落として低く低く構えながら、じりじり歩いていく。
「ホロ!」
「なに、足跡だって!」
俺が見ても全くわからない。
つまり、完璧に隠蔽されているわけだ。
足跡を追って襲ってくる猛獣とかいるんだろうな。
こういうのは魔法すら使われてないから、俺には感知のしようがない。
専用の魔法を作ればいいんだろうが、俺の敵はもっとスケールがでかいやつらばかりだったからな。
だが、これだけ隠したとしても、トリマルの目には一目瞭然らしい。
「ホロホロ」
「ほう、ここだけ草の流れが変わっているのか。それがちょうど人の足の大きさになっている? サイズは俺くらい……凄いなトリマル。探偵のようだ」
「ホロー」
トリマルが照れている。
だが、仕事はきっちりとやる鳥である。
一切の迷いなく、ぐんぐん突き進んでいく。
俺たちはそれを追うだけだが、小走りほどの速度になるから、結構な勢いだ。
そしてどうやらこれは、彼らに見られていたらしい。
突然、頭上から矢が降り注いだ。
「おっ!」
俺がそれを空中で掴み取る。
一本、二本、三本。
四本目からは、左手の指先で捕らえてはへし折りを繰り返す。
「!?!?!?!?」
矢を撃ち尽くしたらしき頭上の誰かは、驚愕の声をあげる。
いたな、現地の人。
一応、俺たちに当てないように第一射は放たれていたが、俺が掴み取ったので動揺して当てる方向になったようだ。
「現地の人だな!! 俺たちは敵ではない! 熱帯雨林がどんなところかなーと調べに来た者だ!」
かなり曖昧な言い回しだが、それ以上に言いようがない。
樹上に潜む何者かは、しばらく無言だった。
だが、俺は既にそこに人がいると認識したからな。
追尾魔法ニガサン(俺命名)が発動しているぞ。
これで、ワールディアの裏側まで逃げても俺は追いかけることができる。
絶対に逃げられんぞ。
この魔法は一度に一万人まで捕捉でき、俺は分身をごく弱いものになるが、千体まで作れる。
せいぜいグレータードラゴン程度の強さだが、それでも対抗できる国家はおるまい。
間違っても、俺と戦おうなどという気は起こすなよ?
一応、勇者オーラ的なものを指向性を持たせて発しておく。
「ぎょえーっ」
そうしたら、オーラに打たれてぽてっと落ちてきた。
おお、いかんいかん、やりすぎたか。
「ウグワーッ」
「落ち着け、俺は敵ではない。そもそも敵にならん」
後半には別のニュアンスが含まれている。
落下してきたのは、半裸の男である。
体に様々な塗料が塗られ、紋様のようになっている。
おやっ!?
手足が透けて、下にある草が見えているぞ。
「ショートさん、これは透明なのではありません。彼は肉体を周囲の風景と同じような色に擬態できるのです。言うなれば……森の人、フォレストマンという種族でしょうか」
「フォレストマン!!」
まさかここに来て、新しい人種と出会うとは。
俺たちの村の奥に、こんな人々が住んでいたのだなあ。
「あ、あ、あがばるぐ! ながらば! ぐならぶ!」
おっと、言語体系が全然違う。
俺は彼の額に指を向けた。
「ニュアンス理解魔法、ナントナク(俺命名)」
これは、相手の言語のニュアンスがなんとなく分かりあえて、意思疎通が可能になる魔法だ。
こういう言葉が通じない人とだと、ちょっとしたニュアンスの食い違いで戦争になったりするからな。
様々な創作物で俺は学んだのだ。
ということで、これで全く問題なく会話できる。
「俺は敵ではない……」
「敵ではない……? 本当か。!? お前の言葉が分かる」
「俺が分かるようにした」
「ふ、不思議な力!! お前は何者だ!」
「俺か? 俺は勇者村の村長、そしてスローライフの伝道者ショートだ」
彼に向かって、俺はアルカイックスマイルを浮かべるのだった。
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