スローライフ三年目

第201話 熱帯雨林を調査せよ

 また一年が過ぎて、マドカが一歳になった。

 この世界の年令は大雑把なので、年が巡るたびにみんな一つ歳を取る。


 なので、なんと産まれて間もないバインちゃんも一歳と言う扱いなのだ。

 いかがなものか。


「ほわほわ、ほぎゃあぁぁぁん」


 今日もバインが元気に泣いている。

 何と言うか、パワフルなんだよな。

 泣き声がでかい。


 そしてパメラがおっぱいをあげると、静かになる。

 とっても赤ちゃんらしい赤ちゃんだ。


 大人しくて利発だったビンや、かなり独特であるマドカとは大きく違う。

 赤ちゃんによって、みんな個性があるのだなあ。


「おかたん! まおも!」


「はいはい、マドカも抱っこねー。よいしょー」


 カトリナがマドカにせがまれて抱っこしている。


「マドカもかなりでかくなってきたな」


「でっか!」


 誇らしげなマドカ。

 うちの子は、でかいと言われると喜ぶ。


 もう、サーラと頭半分くらい身長差があるもんな。

 それでも、サーラはちゃんとお姉さんしているのだ。


 今年は赤ちゃんたちは、どんな成長をして、どんな人間関係を作っていくのだろうなあ。

 楽しみだ。

 勇者村を作って、自分のことばかりだった頃よりも、楽しみなことが増えている。


 毎日が盛り沢山だから、時間の経過が早いような、遅いような……。


 俺が唸っていると、クロロックが迎えに来た。


「では行きましょう、ショートさん」


「おう。熱帯雨林の調査だよな」


「ええ。トリマルも準備万端で待っています」


 今回は、今後開拓していく予定の熱帯雨林を調査に行くのである。

 メンバーは、俺とクロロックとトリマル。

 いつだったか、熱帯雨林近くの森まで繰り出したメンツである。


 ジャバウォックが出現する辺りからが熱帯雨林になる。

 あそこは一年中雨季みたいなものか。

 一応、乾季の季節には雨が少なくなるようだが、よくは知らない。


 大体いつも、ジャバウォックを狩ったらアイテムボクースに詰め込んで帰ってくるもんなあ。

 あそこよりも奥か。


「実際には、ジャバウォックと戦ってたあの辺りまでの開拓だろ?」


「そうなります。その奥まではまだ現実的ではないですから」


「だよな。だが、見に行くのはその奥までなんだよな?」


「ええ。開拓する場所の先に何があるのかを知っておいた方が良いでしょう。全くの未知がすぐ近くにあるというのは、あまり面白いものではありませんよ」


 なるほど、言えている。

 ジャバウォックよりもどでかいモンスターが闊歩している横で、のんびり畑作業などやっていられないからな。

 うちの村、過半数は普通の人たちだぞ。


 残る一部が世界の頂点だが。


 ビンが三歳になったら、こっちに連れてきてもいいな。

 どうやら念動魔法しか使えないという特殊体質のようだが、そのコントロールの精緻さと底が見えない圧倒的出力があるからな。

 その頃にはタイマンで魔将を圧倒できるだけの実力になっているだろう。


 マドカはこう、なんか熱帯雨林ごと殲滅しそうだからな。


 トリマルが、ホロホロ言いながらのんびりと歩いている。

 ホロロッホー鳥にして、グレータードラゴンの強さに手が届こうかという、村で俺の次に強い鳥である。


 ほら、横合いから出てきた。

 なんか意味のわからないモンスター。


『じゃぁぁぁぁるぅぅぅぅごぉぉぉぉうぅぅぅ!!』


「ホロホロ?」


 背中から触手を生やした巨大な山猫、という外見だな。

 ジャガーみたいなのかな?


「ああ、これは未知の生物ですね。ブレインさんがいれば大喜びだと思います」


「そうだろうなあ。魔本も喜びそうだ。だが、魔本持ってくると湿気っちゃうからなあ」


「悩ましいところですね」


 クロロックとともにのんきな話をしている横で、トリマルVS謎のモンスターの戦いが始まっている。

 襲いかかる触手の乱打!

 これを飛び上がりながら足一本で全て捌き切るトリマル。


「ホロ!」


 おっ、触手をまとめて蹴りで吹き飛ばした。


「ホロロ!」


 懐に入り込み、蹴り一発でモンスターを上空へ勝ちあげる。


『ジャアーッ!?』


 追いかけるように跳躍したトリマルが、空中を駆け上がりながら連続キックを浴びせていく。

 ああ、これはオーバーキルですわ。


 蹴りながら、モンスターの頭上まで到達したトリマルが、「ホローッ!」強烈な踵落とし!


『ウグワーッ!?』


 モンスターが落下していった。

 地面に激突して粉砕される。


「ふむふむ!」


 クロロックが躊躇なく、ばらばらになったモンスターに駆け寄った。


「おーい、無防備に近づくといかがなものか」


「大丈夫です。ほら、飛び出した目玉の瞳孔が開ききっていますから」


「ほんとだ。凄い観察力だなあ」


「はっはっは。カエルは目が大きい分だけショートさんよりもよく見えるのですよ」


 クロクローと喉を鳴らしているので、これはカエルジョークだな?

 今はもう、クロロックの感情表現が全て分かるぞ。

 彼との付き合いも二年が経ったからな! 


「あー、これは……。ちょっとこのままでは利用できませんね。肉質が酸性です。これを中和しないと……石灰があればいけるでしょうか」


「肥料になりそう?」


「やればできるというところでしょうが、あまりお勧めはできませんね。トリマルさん、どうでした、この動物……テンタクルジャガーと名付けましょう。これの強さは


「ホロー」


 トリマルが翼を広げて、ホロホロと解説してくれる。

 言わんとする事は分かった。


「クロロック、こいつ、ジャバウォックよりはずっと強いらしい。前にこっちに来た、トラッピア特戦隊いただろ? あいつらより強いだろうって」


 俺がトリマルのホロホロを正確に翻訳したので、クロロックの目がまん丸く開いた。

 これはカエルの人の珍しい、びっくり顔である。

 すぐに気を取り直して、いつもの目のサイズになる。


「ああ、それでは安定供給が難しいですね。それだけ強いということは、熱帯雨林の食物連鎖の頂点に近い可能性があります。これを多く狩ってしまっては、この地域の生態系が崩れてしまいますから。ここにはあまり踏み入らず、彼らにショートさんたちが危険な存在だと教え込む方がいいかも知れません」


「なるほど、そこまで考えているのか! じゃあ、どうしよう。しばらくトリマルに巡回してもらうか?」


「ホロ!」


 トリマルが快諾した。

 ここまではすぐ走ってこれるから、たまに森の中を走り回って、テンタクルジャガーを蹴って回るそうだ。


「殺さないようにな」


「ホロ」


 死なない加減が分かったそうだ。

 頼れる鳥だ。


 さて、今回の探索はここまでにしようか。

 そう思った矢先だった。

 俺は妙なものを見つけた。


「おい、あれ。目印じゃないか」


 少し向こうにある木の幹に、真っ赤な色の塗料がベッタリと塗られていたのだ。

 いや、それだけならばそういう生物がいたと言えるのだろうが。


「マルが描いてある。明らかに目印だ。この熱帯雨林、人が住んでるぞ」


 この世界の人間は、人間、と称する。

 他の人種全てを含めた場合のみ、人と呼ぶのだ。


 ということで……。

 怪しい熱帯雨林の奥地に、謎の人の痕跡を見た!


 勇者村探検隊の探索が続くのである!


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