第198話 お米のお酒、出来ました!

「ついにできたぞ!!」


 ブルストが咆哮とともに飛び込んできた、昼飯時である。


「できたって、何がだ」


 マドカに飯を食わせ終わり、自分の分をもりもり食っていた俺。

 振り返ると、そこには興奮に鼻息を荒くしたブルストの姿があった。


「その興奮……ま、まさか……!」


「そうだ! 米の酒ができたぞ!!」


 ついに勇者村で、純米酒的な何かが誕生したのである。


「ブルスト! ちゃんと食事していきな! 親の背中見て子どもは育つんだからね!」


 すぐにも俺を連れて行こうとするので、パメラが怒った。

 ハッとするブルスト。


「おう、そうだったそうだった! じゃあいただくぜ!」


 本日の昼食は、初期の頃と比べると圧倒的に味に深みが出たシチュー。

 そして俺が焼いたパンである。

 パンをつけて食ってもよし、パンに乗せて食ってもよし。


 ブルストは時短のためか、パンを千切ってシチューと混ぜ、それをガツガツとかきこんだ。

 一瞬で昼飯を終えやがったぞ、この男。


「ふうー、ごちそうさん。んじゃ、行くぞショート! 俺が戻ったら、入れ替わりでオットーが飯を食いに来るから」


 パメラは呆れた顔でブルストを見送っているが、しかしちょっと笑っているので、怒ってはいないようだ。


「お父さん昔からああだからねえ。お母さんにも叱られてたんだよ。でもほら、そんなお父さんに育てられた私も、こうしてちゃーんと大きくなってるから」


「そうだねえ。カトリナがいるから、なんとなかるってのはわかっちまうねえ。あ、ところでさ、バインが……」


 カトリナとパメラで、お母さん同士のお喋りが始まった。

 バインがそろそろ目を開けてきていて、じーっと何かを見ては、ふぎゃあーと泣くとかそういう話だな。

 うんうん、赤ちゃんというものはすぐ泣くものなのだ。


「おとたん!! まおも!!」


「おっ!!」


 マドカが赤ちゃん椅子からえっちらおっちら降りて、ブルストとともに行こうとしていた俺の後ろをついてきた。


「行くか、マドカ!」


「あい!」


「マドカも来るのか! いやあー。おじいちゃんが頑張ったってとこを見せちまおうかな!」


 ブルストもふにゃっと表情が柔らかくなった。

 うちの両親ほどじゃないが、やはり孫には甘いな。


 俺とブルストで、マドカの歩くペースに合わせながら酒蔵に向かうのであった。


 オットーは俺たちがやって来るのを見て、手を振った。


「ブルストさん! おお、勇者様まで! それに……おやおや、可愛らしいお客さんですな」


「あい!」


 マドカが手を上げて挨拶した。

 オットーからすると、まさしくおじいちゃんと孫以上に年が離れているのである。

 彼がマドカを見ていてくれるので、その間にブルストから酒の話を聞いた。


「じっくりと酒を育てててな。酸っぱくなっちまったり、色が変になったりとか失敗もあったが……ついに、ついにだぜ」


「おう。楽しみだ。見せて見せて」


「ハハハ、待て待て。俺とパワースと師匠とオットーの努力の結晶だ。こいつが……米の酒だ!」


 巨大な樽にはフタがされており、ブルストがこいつを持ち上げると……。

 なんとも豊かな甘酒っぽい香りがする。


「おおーっ、濁り酒だな? どぶろくとかみたいだな」


「どぶろく? ショートの世界の酒か。ってことは、俺は世に出回ってる酒に近いのを作れたんだな!」


 よしよし、とがんばるぞいのポーズをするブルスト。

 2mくらいあるマッチョなおっさんがそのポーズをすると、ちょっと可愛く見えるから不思議だ。


「飲んでみるか? なんかな、丘ヤシの匂いがするんだ」


「ほんとか。どれ……」


 柄杓を借りて、ちょっと一口。

 おお、ちょっとの量だと、本当に甘い香りがする。


 そして味は、なんと言うんだろうな。

 俺は酒に詳しくはないが、かすかに甘味があって、割と自己主張してくる感じだ。

 なるほど、濁り酒だな。


「ちょっと癖はあるが、酒に弱いようなのでも飲みやすそうだな」


「おう。あとは水で割れば、もうちょっと甘くなるな。そうすれば癖も消えるはずだ」


「ほう……。では、この酒を丘ヤシの酒で割ったりしたらどうなる……?」


「なにっ! カクテルか……!?」


「勇者村の酒でカクテルができる……! なんか、こう、ブルストスペシャルみたいな酒になるな」


「いいな! 村に来た客人にはそいつを飲ませよう! まずはあれだな、ショート。お前さんの両親に飲ませたい」


「おおーっ! 父親は糖尿なんでちょっとならいける……」


 夢が広がっていくな。

 村だけでできるものがどんどん増えていく。

 完全自給自足が達成されつつあるのだ。


 酒は無くてもやっていけるものだが、こういう嗜好品はストレス解消とか、みんなで盛り上がる時とかにとても大きな役割を果たす。

 酒は重要なのだ。


「だが、まずはイメージを固めるためにもう一杯飲まねば分からんな……」


「おう、飲め飲め!」


 ブルストがニコニコで勧めてくる。

 どれどれ、また一口……。


「おとたん! まおも! おーしーの!」


「しまった!」


 マドカが興味を持ってしまった!

 お酒はマドカにはあまりにも早すぎるなあ。


「これは大人の飲み物なのだ……。マドカには、そうだなあ。丘ヤシのジュースを絞ってやろう……」


「おーしーの?」


「あまーいやつ」


「あーまい?」


 オットーに礼を言って、マドカを受け取る。


「ってことで、俺はこれで! また進捗あったら教えてくれ! 酒の完成おめでとう!」


「おう!! そのうちみんなで酒盛りしようぜ!」


 かくして、オットーを連れて食堂へ。

 お米の酒完成の話を聞いたパメラが、ごくりとつばを飲んだ。


「飲みたい……。でも、飲みすぎると母乳にお酒が出そうだねえ……」


「その時は私がバインちゃんにおっぱいあげるから」


 どーんと胸を叩いて、任せなさいと宣言するカトリナ。

 心強い。


「ありがたいよ! 持つべきものは義理の娘だね!!」


 カトリナとパメラの仲も、深まったような……?


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