第193話 現実世界へ訪問できる魔法

 俺がコツコツと作り続けていた魔法がある。

 それは、元の世界に戻っても、俺の魔力を遮断して魔力災害を引き起こさない魔法である。

 つまり、個人用結界魔法とでも言おうか。


 なかなかこいつの塩梅が難しくて、完全に密封していると、結界そのものが俺の魔力量に耐えられなくなって爆ぜる。

 ちょっと展開していると、割とヤバイ量の魔力が漏れる。


 魔力災害はどれくらいの魔力量で発生するのかなー、というのを確認してみたくもあるのだが……。


「おーい、ユイーツ神」


 神界に顔を出して呼ぶと、『はいはい』

 やって来た。

 仕事を放り出す口実を探してたな。


 神様不在もよろしくないので、鍛冶神を呼んで交代してもらう。

 鍛冶神は、『仕方ないやつだなこの豊穣神は』という顔をしていたが気持ちは分かる。


「あのさ、ユイーツ神。地球を訪問できる魔法が八割くらい完成したんだが」


『ホウ! それは革命ですね! あちらの世界、神格の防御が弱まっているので、ショートさんのそれを使えば人知れずたくさんの神格や魔族が向こうに渡って、一斉に結界を解くことで全世界を一度に魔力災害で魔界化できますね』


「怖いことを言うなあ」


『すみません、ストレスが……。あ、お茶どうも』


 カトリナがニコニコしながらお茶を出してくれる。

 とても気が利いている。

 本人も自分用のお茶を入れて、自分用のお菓子をパクパクしながら隣に腰掛けているので、多分ついでだったんだろう。


「ショートが元の世界に行けるお話? いいなあ。一緒にショートの故郷を回りたい!」


「そうだよなあー。カトリナとマドカを連れて、実家の周辺を散策したいなあ」


 もう四年以上帰っていないことになる。

 きっと、すっかり故郷は変わっているだろう。

 もともと、少子高齢化が加速してる県だからな。日本の最先端だぞ。


 色々な店や何かが閉まっているかも知れない……。

 つまり俺は、物悲しい気分になるための帰るのか。

 ま、それはそれだ。


『そうですね。ショートさんが魔法の実験をするなら、一時的に向こうの世界を結界で切り取って、そこだけで試してみてはどうでしょう』


「おっ、ナイスアイディア!」


 俺とユイーツ神で、グッとサムズアップし合う。

 カトリナは全く分からなかったようである。


「え? え? どういうこと?」


「つまりね、あっちの世界の、影響が少なそうなところを空と地面をまるごと区切って、そこに俺が降り立つの。で、狭い範囲なら影響が出ても俺がなんとかできるから。これで試すってわけね」


『ショートさんが素のまま遊びに行くと、一歩向こうに踏み出した瞬間に世界が文字通りひっくり返りますからね。地球がワールディア同様の、モンスターが跳梁跋扈する魔法の世界になります』


「ほへー。確かにあっちにモンスターがたくさん出たら、海水浴どころじゃないもんねえ。こっちの世界も、魔王大戦中はモンスターがすっごく多くて、遊ぶなんてできなかったもの」


 カトリナは幼少期のすべてを魔王大戦期に過ごしているので、野山で元気に遊ぶという経験がないのだ。

 なので、マドカたちを連れて丘に登ると、自分も駆け回ったりして遊んでいるらしい。


「じゃあ、ちょっとやってみるか」


「私も行く!」


 ということでカトリナもついてきた。

 ユイーツ神と三人で、地球との出入り口になってる実家のパソコン前までやって来る。


「さて……こいつを……」


 ディスプレイに通じている、世界間の通り道。その外側をがしっと掴む。


『概念的なものをあっさりと手づかみしましたね』


「こんなものは大体魔力でできてるんだ。そうと分かれば扱い方なんてみんな一緒だよ」


 ぐいっとこれをずらす。

 どうやら、窓のような形がキーになっているようなので、実家の窓の方向に……よし、ここだ。

 チョイスするのは、実家の庭。


 祖父母から受け継いだ家を、両親の代でリフォームしたので、我が家は一軒家なのだ。

 庭の一角に、俺は結界を纏って降り立った。即座に世界を切り離し、そこだけ独立した空間として成立させる。

 隣にカトリナもやって来る。


「うおー! 地球だーっ!! 戻ってきたー!!」


「戻ってきたねー!」


 カトリナも嬉しそうに、ニコニコしている。

 この結界魔法を成功させて、早く一緒に出歩きたいな!


「どーれ……。なるほど、確かにワールディアと比べると、魔力の濃度が低いな。これは俺が素のままだと、世界そのものの魔力濃度を変えてしまう。魔力災害と言うか、魔力災厄になってしまうな」


『ええ。私が知る限りは、別の世界の地球はもう少し魔力が濃かったりしますから。ショートさんが来られたところは特別魔力が薄いのかと』


「あー、平行世界があるわけね。そこからもきっと、勇者召喚とかされてるんだろうなあ」


『されているでしょうねえ。ちなみに、送還魔法が存在していなかったのは、召喚魔法を作った者の善意でもあったようです。召喚された者がレベルアップしてから元の世界に戻れば、その世界を破壊してしまいますから』


「なるほど……そんな理由があったのか。今となっては納得する他ないな」


 ともあれ、まずは結界を解いたり、一部だけ纏ったりして実験。

 解いてみた。


 おほー!

 見える範囲が露骨に魔界っぽくなったぞ!


 草木が魔力を受けて、食べれば即座に傷が治る薬草とか、毒消し草とか、あるいは触れただけで致死量の毒を流し込む毒草になる。

 これは俺が素のままではダメですわ。


「よし、トキモドール! そして結界!」


 時間を巻き戻して、周囲を元通りにした。

 次に、結界をちょっとだけ解いてみる。


 おっ。

 これは、少しずつ周囲が変異していくが……。

 その速度は随分遅いな。


 これくらいの変異なら行けるんじゃないか?

 俺が一年くらい滞在してれば、この県はまるごとワールディア化しそうだが。

 つまり、俺が一日だけ滞在していれば、せいぜい1/365程度しかワールディア化しない。


 これなら安全であろう。


「どうだ」


『いけそうですね。日帰りならばバッチリでしょう!』


「ああ。より一層の工夫を重ねて、ちゃんとこっちに遊びに来れるようにしないとな!」


 こうして、俺の元の世界帰還が可能になったのである!


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