第187話 パメラ、子どもを産む
ついにパメラが産気づいた。
ミノタウロスは体が大きい割に、生まれてくる赤ちゃんは人間サイズだというから、お腹の膨らみが果たしてどの程度なのかよく分からなかったのである。
カトリナが「もうすぐ!」と言っていたので、すぐなんだろうなあ、くらいだろうか。
うちのカトリナはもうそろそろかな? みたいなのは外からも分かったからなあ。
しかし、産気づいてもパメラはそこそこ余裕がある感じであった。
「んじゃあ、産んでくるね!」
手を振って寝室に消える。
助産師を務めるヒロイナと、助手のリタとピアが続く。
助祭ではなくなったピアだが、こういう生き物の体が関わることに関しては抜群にセンスがいいので、ヒロイナの指名が入ったのである。
「おお……パメラ、赤ん坊も無事でいてくれえ……」
ブルストが青い顔をしている。
どうやらカトリナが生まれる時もこんな感じだったらしい。
「大丈夫だぞブルスト。パメラは強いからな……。というかオーガは全体的に安産だと聞くが」
「ああ。だけど心配なものは心配でなあ……。カトリナなんか、カトリナが生まれるときよりもずっと大変そうだったし……。体が小さいからなあ」
「んもー。お父さんは心配しすぎ!」
カトリナがブルストをペチペチ叩いた。
だが、世の父親というものは一般的にこうして不安を感じるものかもしれない。
俺みたいに直接、出産に介入して安産にさせたりできないからな。
かかる時間は、大体2時間から3時間。
その間、勇者村の人々が代わる代わる覗きにやってくる。
「ブルスト、きっと大丈夫だ。お前が不安そうな顔してたらだめだぞ」
パワースが励ます。
こいつとしては、あれだな。将来的に自分と海乃理の関係に置き換えて見ている節があるな……!
「ミノタウロスとオーガの子ですからね。強い子が生まれてくるでしょう。古来より、種族が交わって生まれる子は強靭な肉体をもっていますから」
全然励ましになっていないブレイン。
そう言えばマドカは、俺とカトリナの血が混じっているのだ。
めちゃくちゃ頑丈なのはそれが理由だろうか。
クロロックが牛の出産の話をし始めたので、口を塞いで外に連れて行ったりした。
なんだなんだ、うちの学者どものポンコツぶりは。
いや、浮世離れしているから有能なのかも知れないな……!!
ちなみにブルストへの励ましで最も力を発揮したのがアキムだった。
「ブルスト。俺は三回立ち会ったが、三回とも気絶しそうだったぞ……! だけど三回ともちゃんと産まれてきてくれた! 生命が産まれてくることは素晴らしいぞ! お前も一回経験してるんだから、次も祝う準備をしとくんだ!」
「お、おう! 俺もカトリナの時は若かったからなあ……。おっさんになると、こうも不安に弱くなる……」
「大丈夫だブルスト! なんなら生まれるまでの間気絶しててもいい! どうせ男なんか何の役にも立たないんだからな!」
「すげえな。アキムの説得力が半端ねえ」
俺は感心した。
旦那は気絶しててもいい、とまで言い切る自信。
自らの経験から出た言葉は強いな。
これでブルストも気が楽になったようだ。
「すまんなブルスト。俺では力になれない……」
「ショートはまあ仕方ねえよ。自分からマドカの出産を手伝いに行っただろ。すげえことだ」
マドカが自分を呼ばれたのかと思って、「う?」とか言いながら俺たちを見た。
まんまるな目がくりくり動いている。
「マドカ、もうすぐ従兄弟が生まれるぞー。男の子かな、女の子かな?」
俺が話しかけると、マドカは少し考える仕草をした。
最近は、言葉がちょっと通じてる感じがあるな。
「んま」
マドカが指先を立てて、頭の上に乗せた。
おお、パメラの角か!
いや、産まれてくる子はオーガとミノタウロスの血が混じっているから、必ず角が生えてるもんなあ。
「おお、マドカありがとうな」
ブルストもほっこりしたようだ。
孫のパワーは偉大だ。
あれっ!?
生まれてくるの、マドカの従兄弟じゃなくて、年下の叔父さんか叔母さんじゃないか。
俺にとっては義理の弟か妹になるのだな……!
「私の弟か妹だねえー」
カトリナがニマニマ笑った。
そんなことをしてたら、あっという間に時間が過ぎて行った。
外はあいにくの雷雨なのだが、雷が落ちた土地は豊かになると言うし、悪いものじゃない。
川は増水して、熱帯雨林からたくさんの水や土を運んでくる。
栄養たっぷりの土だ。
この雨が、雷が、来年の農作業を助けてくれることになる。
「ほぎゃー!!」
「あっ」
赤ちゃんの元気な泣き声が響き渡り、みんな立ち上がった。
生まれたのだ!
あとしばらくしてから、ヒロイナが寝室への扉を開けた。
「ほら、入っていいわよ。今は赤ちゃんも寝てるけど」
ベッドでは、色々スッキリした顔のパメラがいた。
汗を拭いてもらったり、髪を整えてもらったりしたのだな。
パメラの腕の中には、黒い髪に、まだ短くて皮膚に包まれた角を生やした赤ちゃんがすやすや眠っていた。
「パメラ!」
「しーっ。この子が起きちゃうから。後ね、ブルスト。男の子だよ」
「男の子か!」
今度は声を小さくして、ブルスト。
パメラと二人で、名前をつけなきゃなあ、なんて笑顔になっている。
まだ考えていなかったのか。
しかしまあ、勇者村にちっちゃな住人が増えたな。
赤ちゃん軍団にもプラスワン。
そしてビンがそろそろ二歳になるので、赤ちゃんも卒業だ。
「マドカはこれで、一番年下じゃなくなるなあ。これからはお姉さんだぞ?」
カトリナの腕の中のマドカに話しかける。
すると、マドカはくりっと首をかしげた。
「う?」
分かっているのか、分かってないのか。
どちらにせよ、お姉さんマドカの活躍に期待したい。
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