第186話 勇者村婦人会の新たなメンバー

 カールくんがうちに足繁く通い、ポチーナはなんかニーゲルと仲良くなってきて、シャルロッテ婦人は暇になっているらしいと言う話である。

 これはカールくんの家を見に行ったら、家の前を掃除していたオットーの言ったことだ。


 思いの外、勇者村の田舎暮らしは心地よく、カールくんも楽しそうなので、張り詰めていたものが全部なくなって放心状態なのだとか。

 この話をカトリナにしたら、


「それはいけないねえ! やることはたくさんあるよ! それに、乾季になったら農作業してもらわないといけないから、体力もつけてあげなくちゃね!」


 むふーっと鼻息も荒く、決意したようである。

 かくして、勇者村婦人会が招集された。


 ミーとスーリヤの二人だが。

 パメラはなんかもう、いつ生まれてもおかしくない感じなのでのんびりしている。

 ブルストも落ち着かないみたいだな。


 ということで、フットワークが軽いこの二人が参戦し、三人で(プラス、マドカとビンとサーラ)でカイゼルバーン家に押しかけることにしたようなのだった。


「俺も見に行っていい?」


「だーめ。今回は婦人会のお仕事です。ショートはいっつも村のあちこちに気を配ってて大変でしょ。こういうのは、奥様である私にまかせていいの!」


「頼もしい……!!」


「でしょー」


 むふふ、と笑うカトリナなのだった。

 ということで、今回は俺はノータッチだぞ。


 最近は俺が行くところ、どこでもカールくんがついてくる。

 完全に弟子である。


 俺としても、レベルキャップを認識し、恐らくは俺と同じスタイルでレベルアップできる唯一の人間であるカールくんは、ショート流メソッドが通用する大事な弟子と言っていいだろう。

 俺みたいな万能型の強いのが、もうひとりくらいいた方がいいのだ。


「ホロホロー!」


 遠くでトリマルの叫ぶ声と、ホロロッ砲の輝きが見えた。

 ウグワーッ!とかも聞こえたな。


 なんだなんだと言ってみると、トリマルが戻ってくるところだった。


「どうした」


「ホロホロ」


「えっ、刺客が来てた? 明らかに油断してたから真正面から全員粉砕しておいた? いい仕事するなあ」


「ホロ~」


 トリマルをわしゃわしゃ撫でると、彼は目を細めた。

 トリマルの外見は、ちょっと大きいホロロッホー鳥でしかないので、まさかこれがエルダードラゴンに比肩する怪物だとは思わないのである。

 ということで、カールくんに差し向けられたらしき刺客は、ポロッと内情を話してしまったのであろう。


 アホめ。

 勇者村では、例え赤ちゃんやコアリクイに見えたとしても絶対に油断してはならないのだ。

 見た目がファンシーだけど、一国の軍隊よりも強い生き物がゴロゴロいるんだぞ。


 村内で完全自給自足が成立しているので、兵糧攻めも不可能である。

 さらに村に流れ込む川に毒を混入しようとしても、上流はジャバウォックとか、それを上回る怪物が跳梁跋扈する魔の熱帯雨林だしな。


 ちなみに俺とクロロックは、あの熱帯雨林を肥料の材料畑と呼んでいる。

 勇者村は、開かれた城塞である。

 難攻不落にして、出入り自由な砦みたいなものだ。


 いつも、トリマルやアリたろうやガラドンが散歩してるからな。

 一番弱いガラドンに当たった場合、彼は赤ちゃんなので手加減が出来ない。

 哀れな敵対者はミンチにされてしまうかもしれんな……。


「ショートさん、だいじょうぶなんですか? ははうえはぶじでしょうか」


「あそこはビンがいるから大丈夫」


「ビンって、あのあかちゃん」


 カールくんがバツの悪そうな顔をする。

 最初に突き飛ばしてしまったからな。

 きちんと自分がやったことを悪いことだと認識して、反省できるのはいいことだ。


「ビンがもう許してるからな。気にするな。普通にビンと接してやってくれ」


 俺はしゃがみこんでカールくんと目線を合わせ、頭を撫でてやった。

 彼は、「はいっ」と元気に返事をする。


 彼を連れて勇者村をパトロール(という名の散歩を)していると、雨が降ってきた。

 雨季なので、スコールに変わったりすることもざらである。

 俺は雨傘魔法を展開して雨を防いだ。


 カールくんを近くに入れながら、二人でぬかるんだ地面の上を、ぴっちゃぴっちゃと歩いていく。

 実は、彼の家に向かっているのだ。

 今後の展開が気になるからね。


 途中で、酒蔵を通りかかったので覗いてみた。

 パワースが居眠りしている。

 酒造りは順調なんだろうか。

 あと、海乃理とはどうなんだパワース。


「ショートさん、どうしたんですか?」


「なんでもない。なんでもないぞ」


 お酒は子どもにはまだ早いからね。

 いつまでも立ち止まっていてはいけない。


 再び歩きだし、ようやくカール君の家。

 我が家からそこそこ距離があるよな。

 畑を3つ隔ててるからな。


 ようやく、スコールも収まってきて、空からは晴れ間が覗いている。

 さて、勇者村婦人会はどうなっただろうか?


 外からカールくんの家を眺める。

 すると、扉が開いていった。


 中から、カトリナと、彼女に手を引かれたシャルロッテが現れる。

 戸惑っているようだ。


 カトリナは俺に気づくと、手を振った。


「おー、外に連れ出せたか」


「うん! あのねえ、シャルロッテさん、すっごい刺繍が上手いの! ゲージュツなんだよ! 縫い物も得意だって言うから、教えてもらおうと思って! それにね、色々難しいことを知ってるの!」


「なるほどなるほど」


 婦人会の知識担当になりそうな予感だ。


「行こう、シャルロッテさん! あなただって楽しんでいいんだよ! 図書館もあるから、そこで面白い魔本を借りてもいいし……でも、何より先に刺繍教えて! マドカにかっこいい服を着せるの……!!」


 カトリナが燃えている。

 シャルロッテは彼女の熱にほだされてか、ちょっと笑顔になった。


「ええ、ええ。なんだか突然のことで、わたくしびっくりしているのですけど……。わたくしでよければ」


「ははうえがわらってる!」


 カールくんも嬉しそうだ。

 いいことじゃあないか。

 勇者村に来たなら、存分にスローライフを楽しんでもらわなきゃ損というものだ。


「奥様にお友達が……よかったよかった」


 執事のオットーがほろりとしている。

 だが、完全に君の仕事がなくなってしまうな。

 そうだな、オットーは酒蔵でも紹介すればいいだろうか?


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