第184話 アリたろう、下剋上チャレンジ

 マドカの機動力が上がった。

 ハイハイでどこにでも出向き、掴まれるものがあれば掴まり立ちし、そして伝い歩きでもりもり動く。

 通常の歩行にもチャレンジ中らしく、ビンやサーラの動きを見て、真似をし始めているようだ。


 うちの子はどんどん成長していくなあ……。

 ついこの間まで、ちっちゃくて抱っこして歩いていたというのに。


 後は、俺とカトリナのことをどう呼んでくれるかだな。

 赤ちゃんに発音しやすいなら、やはりパパとママだな……。


 そんな事を考えつつ、目の前で人形を振り回すマドカを見ているのだった。

 腕力ついたなあ。

 カトリナが作った、あの重量感溢れるてるてる坊主を、両手とは言え振り回すとは。


 何の遊びをしてるんだ?

 ジャイアントスイング?


 村の食堂で首を傾げつつ、マドカの一人遊びを眺めていたら、茶色い毛玉が上にサーラを乗せてやってきた。


「まおー!」


「んま!」


 マドカがサーラに気付いて、バンザイした。

 お人形さんが放り出されて、宙を舞う。


 これを、マドカの魔力の角からビビビビッとエネルギーが出てきて、絡め取って地面に下ろした。

 無意識のうちに魔力を第三の腕みたいに扱えるようになっているのな。


 ちなみにサーラを乗せてきたのはアリたろうである。

 アリたろうとサーラは仲良しなのだ。


「もがもが」


 アリたろうは俺のところまで歩いてきて、挨拶をした。


「いよう、久しぶりだな。この一週間見ないと思ったら……おっ、お前もしかして……」


「もが!」


 アリたろうが胸を張った。

 このコアリクイ、レベルキャップを突破したか……!!


 俺には他人のレベルと、レベルキャップが見える。

 というか、異世界召喚されて手に入れた能力はその二つだけだ。


 アリたろうは種族限界のキャップをとうに超えていたが、ついに次のキャップ……中級魔獣のレベルキャップを超えたのだ。


「ここからは上級の道かあ。お前の強さ、そろそろあれだな。ヒグマを超えて重戦車級になったな」


「もが」


「なに、ジャバウォックを一人で倒せるようになった? やるなあ」


 アリたろうと、わははと笑いながら会話をする。

 ここでアリたろうが、シリアスになった。


「もが」


「なにっ、お前、自分の力を知りたいのか」


「もがー」


「トリマルに挑戦……? ほう、やる気だな。勇者村四天王の頂点を取ろうというのか。いいだろう。身の程を知るのもまた修行だ」


 勇者村四天王は、トリマル(ホロロッホー鳥)、アリたろう(コアリクイ)、ビン(幼児)、ガラドン(子ヤギ)の四人(?)によって構成されている。

 我が村の、俺を除いた最高戦力だ。


 実力もさっき並べた順番だな。

 このうち、ビンとガラドンはまだ子どもなので、成長するだけでどんどん強くなる。

 ビンの念動魔法と、ナチュラルボーンなパワフルモンスターであるガラドン。

 どこまで成長するか楽しみだ。


 これに対して、アリたろうはコアリクイを俺が気軽に名付けて進化……いや、神化させてしまった存在だ。

 とっくに成長期は終わっているのだ。

 彼は、自ら意識して特訓をし、己を高めていくしか無い。


 そんな彼がトリマルに挑もうというのである。


「よし、ついてこい。トリマルとの戦場を用意してやる」


「もがー!」


 アリたろう、やる気十分。

 マドカとサーラを放っておくわけにはいかないので、ガラドンを呼んだ。


「めえ~」


 子ヤギとしては明らかにでかいガラドン登場。

 その背中に、マドカとサーラを載せる。


 二人はヤギの背中で、キャッキャとはしゃいでいる。

 飽きる前には勝負がつくだろう。


 呼ぶまでもなく、トリマルがそこにいた。

 彼もまた、四天王ナンバー2の覇気を感じ取っていたのだろう。


 見つめ合う、ホロロッホー鳥(ガチョウくらいの大きさ)とアリたろう。

 傍から見ていると可愛いな。


 俺は彼らの周囲に結界を張った。

 外の世界に影響が及ぼされないようにである。


 結界の周りをガラドンがトコトコ歩き草を食べる。

 マドカがガラドンの首をよじ登ろうとして、ころんと転げ落ちそうになる。

 それを、ガラドンが前足で受け止めて、背中にポンと放り投げる。

 器用だ。


 そして結界の中でバトルが始まった。

 なんか鳥とコアリクイが、シュババババッと動き回ってぶつかり合っている。


 アリたろう、手数を鍛えたか。

 小兵なアリたろうなら、それはありだな。

 相手がそれなりに強いモンスターでも通用するだろう。


 だが、今のトリマルは以前よりも更に強くなっている。

 エルダードラゴンクラスだ。

 アリたろうの猛攻を全て片足で受け止めつつ、時折鋭いくちばしツッツキが放たれる。


「もがーっ!」


 三発目のツッツキでアリたろうは力尽き、ポテンと転がった。


「勝負あり! 勝者トリマル!」


「ホロホロー!」


 緑色の翼を広げて勝利を宣言するトリマル。


「もがー」


「残念だったなあ。壁はまだまだ高いぞ」


「もがが」


「ほう、またチャレンジするか! いいぞいいぞ」


 わしわしとアリたろうの毛並みを撫でた。

 その後、トリマルが俺に挑戦してきたので、左手の人差し指一本で相手をしてやった。

 うーむ、まさか俺にデコピンを使わせるほど力を上げているとは……。

 人差し指と親指を使ってしまったので、俺の負けだな。


 トリマルとアリたろうで、互いの健闘を称え合う。

 すると、そろそろ退屈してきたらしきマドカの声が「んまーまー!!」と響いた。


 いかんいかん、子守をしてるんだった!

 サーラはガラドンにしがみついたまま離れないので、この子はきっともふもふを何よりも愛しているのだな、と理解する。


 その後、ガラドンの兄弟たちがやって来て、サーラは子ヤギたちのもふもふに埋もれて、実に幸せそうに笑っているのであった。



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