第182話 レベルキャップについてのお話

 大豆の芽が出てきて、毎日見に行く度にちょっとずつ大きくなっている。

 ウキウキしながら、大豆の世話を終えると、午後になった。


 勇者村のお仕事は終わりの時間である。

 昼飯を食ってからは自由時間。


 ブルストはいそいそと、鍛冶神と一緒に倉庫に消えていった。

 あれは米で酒を作っているらしい。

 どんな酒が生まれるのやら。


「ショートさん!! きょうもおねがいします!!」


 カールくんがやって来た。

 彼には才能があるので、特別に魔法を教えているのである。

 他は、アキムもルアブもピアも魔法の才能は無いから、特に教えることはないなあ。


 ビンは聡明だがまだまだちびっこだし、魔法のお勉強は飽きちゃうだろう。

 彼はお兄ちゃんとして、マドカとサーラのおままごとに付き合ってあげているらしい。

 偉いぞ。


 ビンなら……将来的にマドカを任せてもいい……。

 だが俺はその時、めちゃくちゃ泣くだろう……。

 娘の結婚式で号泣するお父さんの気持ちが今からわかりそうだ。


「よし、じゃあ始めるか」


「はい!!」


「よろしくお願いします!」


 助手というか、まだまだ伸びしろがあるということで、フォスも呼んである。

 真面目なリタは聴講生として参加している。


 会場は俺の家の居間。

 俺たちの寝室で、赤ちゃん軍団が遊んでおり、カトリナとミーとスーリヤがそれを見ながらお喋りしているようだ。


「まず、フォスとリタは魔法が使える。魔法ってのはな、才能がないと使えない。これ、後天的に使えるようには絶対ならないんだ」


「へえ……!」


 カールくんが目を丸くした。


「じゃあ、さいのうがないと、あとからべんきょうしても?」


「無駄だ。で、普通はこの才能の有無を確認する手段がない。魔法を使えるやつが、相手の魔力を見ないとな。魔力が全くのゼロってやつは才能がない。一生魔法が使えない。魔法の才能があるのは、百人に一人くらいだ」


 カールくんが、可愛い文字で一生懸命メモしている。

 あれは自分で読み返しても読めないやつだな。


「しょーとさん! ひゃくってどれくらいのかずですか!」


「うーん、この村の全員でだな、俺、カトリナ、マドカ、ブルスト、パメラ、フック、ミー、ビン、ヒロイナ、リタ、ピア、フォス、クロロック、アキム、スーリヤ、アムト、ルアブ、サーラ、パワース、ニーゲル、ブレイン、カール、シャルロッテ、オットー、ポチーナ……で二十五人な。これがよっつで百。そのうちの一人しか魔法が使えない……くらい、魔法を使う才能があるのは珍しいんだ」


 ほええ、とカールが驚く。

 貴族は魔法使いを使う立場にはなっても、自ら魔法を使う必要は無かったりするからな。

 一応、魔法が使えると箔がつくらしいが。


「んで、魔法が使える才能があると、レベルを上げることで魔力の量が増える。レベルを上げるっていうのは、こう、修行したりとかしてると、ある時突然頭がパーッと晴れ渡って色々できるようになることな。フォス、リタ、経験あるだろ」


「ありますね。僕は魔法を習い始めた最初はよくあったんですが、今はそこまで」


「私はけっこうあります!」


 フォスはレベルが高くなってきて、いわゆる必要な経験値が増えてきたんだろう。簡単にはレベルアップしない。

 リタはこれからの子なので、まだまだレベルアップする。


 ちなみに俺から見て、フォスのレベルが28で、リタのレベルは9だ。


「ショートさん! ええと、じゃあ、フォスさんのうえにみえてる、フタみたいなのがレベルですか」


「なんだって」


 俺は驚愕した。

 その人間のレベルが見えるようになると、もう一つ見えるようになるものがある。

 それがレベルキャップだ。


 レベルの数字の上の方に、それ以上数字が上がらないように立ちふさがるフタのように見える。

 これを認識できるやつは、俺以外にはいなかった。

 だが、カールくんには見えるらしい。


「それがレベルキャップだ。強くなれる限界ってやつだな」


「レベルキャップ! そこまでしかつよくなれないんですか!?」


「いや、レベルキャップは解放条件……それを外す条件があってな。そうすればまたレベルアップできる。カールくんは数はいくつ数えられる?」


「えっと、ごじゅうまでわかります」


「ふむふむ。じゃあ、リタとフォスのレベルは分かるな。次に俺のレベルを見てみて」


「はい! えっ!? な、なんかすうじがいっぱい!! みたことないすうじです!」


「レベルキャップを解放しまくりながらレベルを上げ続けるとこうなる。多分、レベルキャップがあるのは、人間が人間の範疇に収まるためだな。レベル上げすぎると神様みたいになるからな」


 かくして神をも超える強さになった俺は、魔王を倒した。


「じゃあ、僕はまだまだレベル……ですか。それが上がる余地があるんですね」


 フォスがちょっとやる気になっている。


「ああ。人間の限界値は99だからな。あと71上がる。まだまだひよっこだぞ!」


「わ、私9なんですか!? ひくうい」


「ヒロイナにパワースにブレインは99だからな。頑張って励めよ」


 リタの肩をぽんぽん叩いて激励する。

 とは言っても、俺が彼女のステータスを見るに、リタの才能だとそこまで高いレベルにはならないかな。


「ショートさん! あの、じゃあレベルをあげて、すごくつよくなるとなにがあるんですか」


「今は平和だから、特に何もないぞ。レベルを上げる理由がない」


「へ?」


「俺の頃は魔王大戦真っ只中だったから、レベルをあげまくり、キャップを解放し続けた。だがなあ、どれだけレベルをあげても、子育ては大変だし、作物を育てるのはレベル関係無いからな。まあ、趣味だよ趣味。あ、でもカールくん。お母さんを守れるくらいには強くなっておいて損はないな」


「は、はい! ぼくはははうえを、まもりたいです!」


 その意気やよし、である。


「じゃあフォスもリタもそこに並んでくれ。俺オリジナルの初級魔法から教えるから。これがだな、アイテムボクースと言って別の並行世界を創造する初級魔法で……」


「ショートさん、それ初級じゃないですよ!?」


 フォスのツッコミが入るのだった。



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