第181話 みるみる完成、カールくんのおうち

 ブルストと大工たちは、わいわいと再会を喜び合っている。


「もしかして、フシナル公国で仲間だった系?」


「おう、そうだ。俺とカトリナが国を追い出されてな。こいつらもそれに抗議して、国を飛び出したんだ。そうしたら国がまるごとアンデッドの国になっちまっただろ」


「うむ。それを俺が焼き尽くした」


 なるほど、これは不思議な繋がりである。


「むふふ、あそこが私とショートが初めて会った場所だもんねえ」


 後ろについてきていたカトリナが、過去を思い返して笑っている。

 全く明るい思い出ではないはずだが、あの時まだ子どもだったカトリナと、余裕がない感じの勇者だった俺が出会っていたので、夫婦の馴れ初めと言えよう。


 この大工たちもあの場にいたのだと思うと、親近感が湧いてくるな。


「お前ら、今まで何をしてたんだ?」


「ああ、隣の国でチームを組んで仕事をしてたんだ。あれだぞ。世界中で建築ブームだ。魔王がぶっ壊した跡に入り込んで、どんどん町ができてる」


「へえー、世の中は変わっていってるんだなあ。たくましいぜ」


 わはははは、と盛り上がるブルストと大工たち。

 全く仕事に取り掛かる気配がないので、執事のオットーがにゅっと顔を出してきた。


「そろそろ仕事に取り掛かってもらわないと……。奥様と坊ちゃまの今夜の寝る場所くらいはせめて……!」


「おお、そうだったそうだった!」


 慌てて仕事に掛かる大工たちなのだ。


「よっしゃ、俺も手伝うぜ! 図面見せろ」


「おおーっ! 剛力無双のブルストが加わるんなら百人力だ! 二人がかりで運ぶ木材を、一人で二つ運ぶからなあ!」


 オーガが人間よりもパワフルだとは言え、ブルストの腕力はその中でも突出していたようだな。

 大工たちは仕事をしながら、ブルストが大工として働いていないことを惜しんだ。

 彼らから一目置かれるくらい、優秀だったんだなあ。


『ほう。家を建てるのか。我が弟子の時間が取られてしまうのはもったいないな。よし、我も手伝おう』


 ピカピカ光り輝く鍛冶神が作業に参加してきた。


「アッー」


 とんでもないものがやって来たので、大工一同も、オットーもポチーナもびっくりしてひっくり返った。

 シャルロッテ奥さんは目を回し、カールくんはポカーンと口を開いている。


「おおっ、鍛冶神の師匠! 大工もいけるんですかい」


『こと、作るということに掛けて我の右に出るものはいない。さっさと片付けるぞブルスト!』


「うす!」


 こうして作業が再開された。

 それはもう、凄まじい速度で仕事が進んでいく。


 木材の組み立て、固定などを、一発でピタリと決めていく鍛冶神。

 三十分ほどで家屋の柱全てが建ち、壁板はその後三十分ほどで全てが設置された。

 屋根など五分だ。


「神とは言え、人智を超えた速度で作業しやがる」


「ゆ、ゆうしゃさま、あれはいったい」


「俺のことはショートでいいぞ。今は勇者じゃないしな」


「ショートさま」


「さんでいい」


「ショートさん」


「よし! 彼はな、俺が持っていた魔王殺しの魔剣だ。戦神にして鍛冶神である彼の魂を使ったものだったんだな。彼は魔王に滅ぼされる時、自らの魂を自ら鍛え、一本の剣にして神界へ放った。で、こいつを豊穣神が受け取り、俺に授けたわけだ」


「しんわのせかいだ……」


 確かに、言われてみれば神話の世界だよな、これは。


「そんなすごいかみさまが、ぼくのいえを……!」


「鍛冶神、今、ブルストに鍛冶の仕事教えてるからな。弟子が大工仕事に時間取られるのいやなんだろう。つうか、鍛冶神のペースについていくブルストもすげえな。あいつはオーガじゃなかったら大工方面の天才だったんじゃないか」


 オーガは図面が書けない。

 何かを創造することに不向きな種族なのだ。

 なので、図面を記憶して、それを再現することで大工や鍛冶という仕事をする。


 うちだと、ブレインがそういうのを作ってくれるな。


 途中、我に返った大工たちも参戦し、鍛冶神の采配を受けて作業した。

 建築速度はさらにアップし、なんと日暮れ前に完成してしまった。


 家に色を塗るのは明日、ということである。


「できちゃった……」


 呆然とするカールくん。

 意識を取り戻したシャルロッテは感激で目を潤ませている。


「田舎に追放された時は、この世の終わりだと思いました。だけど、こうして皆さんに助けていただいて、家もすぐに作ってもらえて……。本当に、本当にありがとうございます……!」


 彼女の肩を、カトリナがぽんぽん叩く。


「これからご近所さんなんだもん。お互い様だよー。困ったことがあったら何でも言ってね? 私たち、勇者村婦人会で助けに来ちゃうから!」


 カトリナが頼もしい!

 シャルロッテの目から、目と同じ幅の涙がだばーっと流れて、「ありがどうございまずぅぅぅ!」と叫びながらカトリナを熱烈にハグした。


 ちなみにカトリナは、仕事休憩のおやつを持ってきてくれたところだったのだが、本日全ての建築作業は終了していたのである。

 お茶とお菓子による、健康的な打ち上げになっている。


 大工やブルストや鍛冶神に混じって、マドカが丘ヤシのお菓子を両手で持って、うまうまとしゃぶっている。


「うおーいブルスト!? マドカにそのお菓子はまだはやいー!! まるごとじゃなくて、切り分けてくれえ!」


 俺は慌てて駆け寄るのだった。


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