第175話 神様をヘルプ!

 俺と一緒に馬鹿騒ぎして、エンジョイしていたユイーツ神。

 あまりに騒いだので、ついに天使に見つかった。


 光の扉が開き、天使が何人も川原に降り立つ。


『やっぱりここにいた!』


『仕事が煮詰まるといっつもどこかに消えるんですから』


『ユイーツ神様、お仕事が溜まってますよ!』


『し、しまった!』


 しまった、じゃねえ。

 どうやら仕事を放り出して遊びに来ていたらしい。

 大変なのは分かるがな。


「ユイーツ神。後で鍛冶神が手伝いに行くと思うから、これからちょっと仕事は楽になるからさ。今だけちょっと頑張ってくれ」


『えっ、本当ですか? それはありがたい……。神の世界では神格が減っていますからね。なるべく神員を補充して、魔王襲来前の状態に戻したいものです』


 神員って、初めて聞いたな。

 神様をホイホイ補充できるのか。

 いや、できるな。


 勇者村のことを思うと、条件さえ整えば神はちょいちょい生まれることを実感できる。

 かくして、ユイーツ神は天使たちに担がれて神の世界に戻っていった。


 パメラがポカーンとしながらそれを見送っている。


「なんだか、凄いものを見ちまったねえ……」


「神様が仕事をサボって遊びに来たら、部下に見つかって連れ戻されるケースな。なかなか見れるものじゃないよなあ」


 とりあえず、川魚は捕れたし、雨が降ってきて川の水量が増してくるし……ということで、魚を持って撤退ということになった。

 俺が魚を持つと言ったのだが、パメラはむふーっと鼻息を荒くして断る。


「あたしを誰だと思ってるんだい? ミノタウロスのパメラ姐さんだよ! お腹に赤ちゃんがいたって、人間よりはよっぽどパワーがあるんだからね!」


「なるほど、ほどよい運動はいいっていうしな。じゃあ半分持つよ」


「ここで好意を断ったら感じ悪いねえ。じゃあお願い」


 パメラと二人で、魚を運ぶのである。

 ちょっと振り返ると、ユイーツ神から漏れた祝福を浴びた川原の石が、水に沈んでいきながらもキラキラ輝いていた。

 あれはどうなるんだろうな。


 雨が降ってきたということで、ブルストと鍛冶神も戻ってきていた。

 川魚は食堂で広げ、俺とカトリナとパメラとブルスト、ついでに鍛冶神で捌くことになる。


 みんなでワイワイ仕事をしていると、この様子をマドカが、じーっと眺めている。

 口がぽかーんと開いていて、よだれがちょっと出ている。


「うー」


『どうしたのだ』


「あー」


『ハハハ、我の透き通った体が珍しいか。まだ復活したてでな。実体があやふやなのだ。故にショートの剣を核にして姿を保っている』


 鍛冶神、座ると剣がくにゃっと曲がって座る形になるのな。

 面白い。


「んまま!!」


 マドカが強く声を発して、家の中からハイハイを敢行してきた。

 猛烈な勢いで鍛冶神の足元まで来ると、小さい手でぺたぺたぺたっと鍛冶神を触る。


「マドカー。他の人にぺたぺた触ったらだーめ」


「うわうー」


 後ろからカトリナに抱き上げられて、バタバタするマドカ。

 さっきまで魚を触っていたお母さんの手が魚臭いので、マドカがくさそうな顔をした。

 わはは、そんな顔もできるんだなあ!


「あー、ごめんね! 手を洗うからねー。みんなゴメーン! マドカ見てないと!」


「マドカは機動力高いからな。頼むー」


 カトリナはマドカを膝の間に挟んでから、ちゃちゃっと手を洗う。

 そしてマドカを抱き直して、家に入っていった。


「あびゃー!」


 マドカが暴れる声がする。

 相変わらず泣かない子だ。

 なんか赤ちゃん語で抗議してる感じだな。


『頭の良い赤子だな』


「そうなの!?」


 鍛冶神の言葉に反応してしまう。


『泣かぬのは、理解しているからだ。ショート、お主の頭の中から、物事の理解などを読み取って自分のものにしているぞ』


「なにっ、マドカは俺の脳内に直接……!?」


『先ごろ、何かアカシックレコードに触れるようなことをしなかったか、あの赤子は』


「ハイハイを始める時にやったな」


『やはり。常にそういうことをやっておるのだろう。既に並の赤子とは一線を画する知能を得ている』


「だから泣かないのか」


 なるほど、納得である。

 だが、納得したそばから、家の中から「ほんぎゃー!」と泣き声が聞こえてきた。


「あー、マドカお腹すいちゃったんだねー。おっぱいは? 飲むの? あとご飯も食べるの?」


 カトリナがマドカの要望を聞き取っている。

 うん。空腹だと泣くな。

 うちの子の行動原理は食欲だもんな。


 ばりばりと作業が進み、魚の内臓は燻製にして保存することになり、他の魚は紐に通して吊るし干しし……。

 おおよそ作業は終了した。

 鍛冶神の手際が良かったので大変助かった。


「鍛冶神はいつまでいるの」


『基本的に我の居場所は神の世界にはなくなっているので、この村でのんびりするつもりだ。豊穣神の仕事を手伝うくらいはするがな』


「そうしてやってくれ。あいつ、息抜きに月イチくらいのペースでこっち来るんだ」


『頻繁だな……! 仕方ない。さっそく手伝いに行くとするか』


 ユイーツ神教やタダヒトツ神教の最高神が、ホイホイ開拓村に遊びに来るというのはすごい話ではある。

 だが、そんな息抜きが必要なほど、神様業務はハードなのだろう。


 鍛冶神はそんなユイーツ神を手伝うべく、神の世界へ向かうことに決めたようだった。

 俺は光の扉を開く。


『ではな、ショート。短い間だったが、お主と旅をし、魔王と戦った記憶はこの剣に刻まれている。また会うことがあれば、思い出を語り合おう』


 今生の別れみたいな言い方するなあ。


「おう。で、今度いつこっち来る?」


『夕方には戻る』


 すぐじゃねえか!

 こうして、鍛冶神はユイーツ神の仕事のサポートに去っていった。

 これから、9時5時くらいのペースで神様業務を手伝いに行きそうだな。

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