第174話 神様、エンジョイする

 ユイーツ神と鍛冶神が、茶を飲みながら我が家でのんびりしている。

 なかなかおかしい光景である。


 神からすると、人間が淹れてくれたお茶は捧げものに当たるらしく、飲むことでちょっと元気になるらしい。

 二神の話題は、魔王大戦の頃に大変だった話とか、本格的に滅ぼされて復活の兆しがない神様だとか、そういう話になった。


 サラッと世界の根幹に関わる話なのだが、俺もその時は同じ場所で戦っていたので当事者である。


 カトリナは話を聞き流しつつ、お茶菓子などを用意している。

 丘ヤシの果実を干したものである。

 丘ヤシはスイカの実のような上品な甘みのある水気の多い果物だが、これをじっくり干すと甘みが凝縮されて、なかなか凄い甘さのお菓子になる。


 神々はこれを、うまいうまいと食べ、茶を飲んでプハァと息を吐く。

 おっさんである。


『時にユイーツ神。ウエストランド大陸はまだ信仰の兆しが無いか? さすがに魔王放置は神としてどうかなと思うのだが、我々は信仰されていない地域には力を及ぼすことができないからな』


『人間の理性の力を重視するとやらで、不確定な神や精霊への信仰を否定しているんですよ、あそこは。かつて悪徳教団が悪さをやらかして、国民に信仰アレルギーがあるようで』


『なかなか難しいなあ。ワールディアにおいて信仰を持つことは、世界の外部から来る敵への守りにもなるのだが……いつの間にかそういう伝承はなくなってしまったのだな。……おっ、このマグカップ、自家製か。無骨な作りだが、分厚くて我は好みだ』


「そいつはな、俺の義理の父親に当たる男が作ったものだ。ちょいちょい鍛冶の真似事もするぞ」


『ほう! この地から我に対する信仰の力が湧き上がっていると思ったが、恐らくはその男だな! よし、我が直々に鍛冶の技を伝授しよう。今は復活したてで気分がいい』


「鍛冶神から鍛冶の技を習うのか! すげえな。カトリナ、ブルストどこ?」


「お父さんは川で網を使って魚を取るとか言ってたけど」


「よし、迎えに行こう」


 鍛冶神とユイーツ神を伴い、村の中を歩いていく。

 彼らが道を行くと、曇天が裂けて太陽の光が降り注ぎ、鳥や獣が顔を出して祝福の歌を歌う。


「あれってやっぱり動物も信仰を?」


『あれはですね、動物に見えていますが精霊なんですよ。実際の動物は信仰に至るほど知能がないので』


「驚くべき真実だな……」


 ユイーツ神からびっくりするような話を聞きつつ、川にやって来た。

 増水に備えて、ブルストとパメラがしっかりした足場の川原で、網を仕掛けている。

 既に魚がそれなりに捕れているようだ。


「おーい、ブルスト!」


「おう、ショートか! うわーっ! 後ろにいるピカピカ光るのなんだー!? あ、一人はビンが生まれた時に手伝ってくれた助産師さんか。あの時はどうも」


『こちらこそどうも』


 ブルストとユイーツ神がペコペコしている。


『おや、奥さんももうすぐですね。良い子が生まれますように祝福しましょう』


「あっ、みだりに祝福をばらまくな。あー、遅かった」


 ユイーツ神が祝福するとか言ったので、パメラの赤ちゃんはビンほどではなかろうが、何か祝福を得て生まれてくるぞ。

 うちの村を神々の村にするつもりか。

 ああ、いや、俺が言えたことではないな。


「ブルスト、実はこっちの光り輝いてコアに剣が浮かんでいるのは鍛冶神でな。俺の剣だったのだが、最近肉体を取り戻しつつあるんだ」


「ほお、鍛冶神!!」


「ブルストのマグカップを気に入って、ブルストが鍛冶もやってると言ったら、じゃあちょっと鍛冶のやり方を教えるって」


『我が手ずから教えよう』


「なんだって!!」


 ブルスト、驚愕。

 村の刃物関係を引き受けて作ったりしていた彼だが、精度を上げたい、と常日頃言っていたのだ。

 これは願ったり叶ったりだろう。


「パメラ、すまん。ちょっと行ってくる」


「いいよ。こっちはあたしがやっとくから! あ、ショートも手伝ってよね」


「おう、任せろ。釣り竿じゃないなら、ウグワーッとはならんだろう」


『それはフラグですよね』


「やめろやユイーツ神」


 ブルストと鍛冶神が、家の裏庭にある炉に行ってしまったので、俺とパメラとユイーツ神で魚を取ることにする。


『私も権能を使えば、魚がいくらでも身を捧げてくれるんですが、さすがにフェアじゃないですからね。私も真剣勝負で行きましょう。ちょあーっ』


 気合とともに川に網を放つユイーツ神。


「ほう、例え神であろうとこの勝負、負けるわけにはいかんな! ツアーッ!」


 俺も川に網を放つ。

 雨季に入り、魚がもりもり増えているのだ。

 いれぐいだ。


「よしっ」


 パメラが網を引き上げると、そこには川魚がそれなりに詰まっていた。

 わざと網目を荒くして、小さい魚は逃げられるようになっているな。

 いい仕事をする。こうして水産資源を守るのだ。


『今です! ほあーっ』


 ユイーツ神が網を引き上げた。

 早くないか?

 と思ったら、大物が網の中に掛かっている!


 今回は神の権能を使わず、自力だけで勝負することにしたらしいユイーツ神。

 魚を渾身の力で引っ張り上げようとして……。


『こ、これは力が強い! ショートさん、手を貸してください!』


「いいだろう。二人で一緒に行くぞ! ツアーッ!」


『ほあーっ!』


 魔王を倒した勇者と、世界最高神の力が合わさる!

 なお、どっちも手加減モードだ!


 大きな川魚は抗いきれず、スポーンっと水面から飛び出してきた。

 問題は、勢い余った俺とユイーツ神である。

 自分のパワーにふっとばされる形になり、ゴロゴロ川原を転げて行った。


「ウグワーッ!」


『ウグワーッ!』


 おいユイーツ神、転がるのをやめろ。

 お前が転がった後、小石がキラキラ金色に光り輝いているじゃないか。

 漏れてる、祝福が漏れてるよ!


「二人とも、豪快だねえ!」


 パメラは愉快そうに、けらけら笑うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る