第171話 短粒種ご飯とマドカのつかまり立ちマスター

「んむー」


「あっ」


 後ろでマドカが頑張っている声がしたので、うんちかな? と思って振り返った俺は仰天した。

 マ、マドカが!

 つかまり立ちしている!!


 しかも足腰はしっかりとしたものである。

 柱に手は添えるだけ……。


 こ、こりゃあすぐにでもトコトコ歩き出すぞぉ。


「カトリナ! カトリナーッ」


「なーに、慌てて。ショートが慌てるなんて珍しいなあ……あーっ!!」


 台所から振り返ったカトリナも、驚きのあまり飛び上がる。


「マ、マ、マドカが立った! 立ったあー」


「つかまり立ち失敗のブリッジは何回もあったけどな……。きれいに立っている……!」


 両親にびっくりされ、マドカはちょっとドヤァ……という顔で振り返った後、力尽きてころんと転がった。


「んまむー」


「抱っこを要求している」


「結構打算的だね」


 しかし我が子にはだだ甘な我々夫婦である。

 抱っこ要求に屈して、マドカを抱き上げた。


「ばうー」


「満足気に笑ってるぞ。かわいい」


「ほんとにかわいいー」


 二人でマドカをかわいいかわいい褒めていると、客室から魔王を狩る二人が起き出してきた。

 二人とも寝起きだというのに、シャキッとしている。

 常在戦場みたいな奴らだな。魔王を狩って宇宙を放浪しているというのも本当なのだろう。


「顔を洗う桶があるから案内するぞ。このでかいやつな。このちっちゃいやつは口をすすぐ用。水はその辺に吐き捨てる」


「へえー……。すごく田舎生活って感じ」


 魔女と名乗ったエレジアが、目を丸くした。


「田舎だからな。家一軒しかなかったところを開拓していって、小さい村を作ったんだ。だが、畑と田んぼの広さはもの凄いぞ」


「畑か。なんつーかよー。俺が生まれた星だとよ、それっぽい畑とか見たこと無かったんだよな。食べ物はどこからか運ばれてくるっつーか」


 彼らの話を聞いていると、かなりSFである。

 絶対こいつらの星、地下で食糧生産工場とか動いてただろ。


「その話は凄く興味があるが、今は飯を用意せねばならんのだ。喜べ。今日は新米が食えるぞ」


「シンマイ?」


 二人が声を揃えた。

 ほう、お米のない国からやって来た者たちか。


 ちょっと馴染みのない味かもしれないが、新米にしょっぱいおかずを組み合わせる悪魔的美味さを教えてやるとしよう!!

 ほっかほかに米が炊きあがり、お皿にこんもり盛り付けて配膳される。

 おかずは焼き魚をしょっぱくしたやつである。


 これに、ミーやスーリヤが用意したハーブやスパイスを掛けてもよい。

 村人たちが集まり、魚を乗せて飯を食っている。

 ここに、先日田んぼを襲いに来て俺に返り討ちにあい、美味しい干し肉になったイノシシも加わる。


「ぺとっとした食感なんだな。初めて食うぜ。なんか、粥みたいに柔らかいのに粥じゃなくて、しょっぱい肉や魚の味が引き立つっていうか……。嫌いじゃねえな」


 ブルストがふむふむ頷きながら、一匙で大量の米をすくって食っている。

 他の仲間たちも同じような感想である。


 概ね悪くない。

 お米の文化圏の人間がいないからな、ここ。


 ちなみに。

 クロロックには、俺が手ずからおにぎりを作ってやった。

 いつかの約束のおにぎりである。


「クロロック、ついにお前におにぎりを食べさせてやれるぞ」


「おお……これが……。白く輝く米が、ボールになっています。美しい……白い宝石のようだ」


 クロロックは目を輝かせた。

 そして、おにぎりをパクっと食べて飲み込んだ。


「おおー!」


 瞬膜とまぶたが閉じて、カエルの人は感動にうち震えた。


「なんという優しく柔らかな喉越し! そして程よい塩分が味を引き締めていますね。炊いたものに塩を付けただけでご馳走になる……。なんと素晴らしいのでしょうか、おにぎり……!!」


「えっ、そんなに美味しいの!? ショートさん、うちにも作って!!」


「あ、お、俺も」


 ピアが早速食いついてきて、これを見てルアブも真似をした。

 最近、勇者村の動物軍団をピアが率いてあちこちお散歩しているが、ルアブも動物軍団と一緒に行動している。

 ピアのことを、リーダーとして尊敬しているらしい。


 これは、ピアと同じく、勇者村の食べ物関連業務をなんでもこなす人が新たに生まれる予感だろうか?


 ちなみに魔王を狩る者たちは、戸惑いながらも米の飯を食べていた。

 出されたものは断らない主義らしい。


「おー、食ったことないぞこんなの。悪くねえじゃん。この白い米っつーの? こいつには味がねえのな。だけど、肉とか魚と一緒に食うと美味くなるわ」


「あ、噛んでたらなんか甘くなってきた。不思議ー」


 彼らのことは、勇者村ではまた変わり者が来たな、くらいの印象で片付けられている。

 みんなもう、慣れたものだ。


 後でニーゲルにも届けたところ、彼は目を輝かせて感動していた。


「こ、こんな上品な味の食べ物があったんすね!? おれ、大好きっす!!」


「そうかそうか!! わっはっは! いつでも米を炊いてやるからな!!」


 肥溜め管理メイン担当である彼は、乾季から雨季になった季節の変わり目、肥溜めから目を離せないのだ。


「美味しいお米が収穫できたのは、ニーゲルが毎日良質な肥料を作ってくれたお陰でもある。感謝してるぞ!」


「ありがとうっす!! おれ、がんばるっす!」


 かくして、勇者村で新米を食べる会は終わりを告げた。

 よく二次創作で見るような、超美味しい! みたいなシーンにはあまりならなかったが、現実というものはこんなもんだろう。

 みんな米を食べ慣れてないしな。


 むしろ、米に対する拒否感が無かっただけよし。

 ここからお米にはまらせていけばいいのだ。


 次は……丼ものを作ってみるか。

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