第170話 魔王を狩る者たち

 なんか宇宙の方に、また何かが来た気配があった。

 俺はこんなこともあろうかと、星に接近する魔王を感知するための魔法を張り巡らせてあるのだ。

 以前の、名前がわからない魔王が来た時の教訓だね。


 ただ、アセロリオンみたいによく分からないルートから呼び出されるとお手上げだ。

 人類は魔王を召喚するなんて愚かな真似はやめて欲しい。

 魔王は人に制御できないぞ?


 大体、人間は同じ人間すら制御できないんだからな。


 ということで。

 俺は今、宇宙に来ています。


「ほう……」


 遠くからやってくる光をじーっと見ていると、それは俺から1万キロくらい離れたところで減速した。

 そしてピカッと光る。

 あれはなんだ。


 光の速度で、何かエネルギーの塊みたいなやつが飛んできた。

 魔力ではない、エネルギーだ。

 俺はこれを片手で受け止めつつ、呟いた。


「いきなり攻撃とは、マナーを知らん奴め。だが、魔力を使ってないあたりはこれ、ちょっと違う魔王っぽいな? お帰りください! うちはもう魔王がいるんで間に合ってます!」


 俺は指先から魔法を収束させたやつをブッパして、向こうに返礼した。

 遠くで、ちゅどーんと爆発が起きたのが分かる。

 いくつか、バラバラとワールディアに落っこちていった。


 あー、しまったな。

 思ったよりもタフだった。

 俺の魔法の直撃を受けて生きているとは。そして大気圏突入を許してしまったか。


 まあいいか。

 あっち、ウエストランド大陸の方だし。

 魔王同士で戦ってもらえると嬉しい!


 結託してきたら大義名分ができるから、まとめて潰す。


 俺がそう決めて、勇者村に戻ろうとした時である。


「ちょ、ちょっと待てよお前!」


 イキの良い若いやつの声がした。

 なんだと思って振り返ると、髪の毛がツンツンに尖った男が立っている。

 横には、そいつよりちょっと年上くらいの女だ。


「お前、この星の魔王だな!? ここでぶっ倒してやる!」


「なんだと?」


 俺を魔王だと呼ぶ魔王か?

 というか、魔王が魔王を倒す?

 むむむ、頭の中で魔王が多すぎて、ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。


「俺は勇者だが? 元勇者で、今は村長だが?」


「問答無用!! インフェルノビームッ!!」


 ツンツン男の両手が輝いた。

 そこから、エネルギーの塊がビームとなって俺に押し寄せる。


「ほう、インフェルノと来たか、面白い。俺も同じような魔法を持っていてな」


 放たれたビームを片手で払って、俺も目を見開いた。


「本当のビームの撃ち方を教えてやる。こうだ! デッドエンドインフェルノ・ビーム!!」


 俺の目から、小惑星程度なら焼き尽くす熱量を持ったビームが放たれる。

 そしてそれは、ツンツン男の脇を抜けて、宇宙を駆け抜けていった。


「な……なんだ、ありゃあ」


「あれが俺のビームだ。ちなみに魔法を無理やりビーム状に成形するので、本来の火力から六割ほど落ちる。ロマン魔法だな」


 俺の言葉を、ツンツン男は全く理解できていないようだった。

 隣りにいた女はふんふんと頷いている。


「あのう。勇者で村長だっていうあなた。あなたさ、魔王じゃないんだよね?」


「そうだぞ」


 話が通じるやつがいたか、ありがたい。


「俺からも質問だ。お前らは魔王じゃないんだよな?」


「俺が魔王だとお!? 違うに決まってるだろうーっ!!」


「オービター落ち着いて。まともに戦ったらこの人相手は無理だよ」


 女になだめられて、オービターという名前らしいツンツン男が大人しくなった。

 ほう、彼女かな? 彼女には従うのかな?

 気持ちはとても良く分かる。

 俺もカトリナには従うからな!


「じゃあなんだ。お前らは魔王じゃないのに魔王を追ってるのか。そういう集まりなの? 宇宙空間だと落ち着かないから、俺の村来る?」


「話が早い人だなあ」


 女……エレジアという名前らしい……が感心した。


 ということで。

 二人を勇者村まで連れてきた。


「あらショート、お客さん?」


「あぷあぷ」


 カトリナがお茶を持ってきてくれる。

 マドカが猛スピードでハイハイしながら後ろをついてきた。


 マドカは独自の機動力を身に着けたことで、目を離すと姿を消すようになって来た。

 用心せねばな。

 ハイハイを初めて二週間ほどで、すっかりこの動きを使いこなしている。


「……とんでもない村ねえ……」


 エレジアが呆れた様子で、勇者村を見回す。

 マドカがハイハイに飽きて、ハイハイの姿勢のまま魔力でスイーッと滑っていき、それをビンが念動魔法でキャッチしたり、ガラドンとアリたろうが相撲のぶつかり稽古みたいなことをしているだけなのだが。


 そこに、ホロホロ言いながらホロロッホー鳥の集団が通りかかった。

 先頭のトリマルが、「ホロッ」と片羽を上げて挨拶してくるので、俺も手を上げて「ウィー」と挨拶を返した。


「今、卵状態の魔王クラスの魔力を持った鳥が歩いていったんだけど……」


「俺の息子みたいなやつだ。勇者村四天王筆頭だぞ。そうか、お前さんは魔力が分かるか」


「私、魔女だからね。そしてこっちは魔女の騎士オービター。あと三人いて、この星に落っこちたけど……まあ無事でしょ。私たちはね、魔王を狩る者なの。宇宙を渡り歩いて、星を食い荒らす魔王種を倒して回ってる」


「そんな仕事の人たちがいたのか。確かに、魔王がホイホイ出てきたら宇宙なんてあっという間に魔王まみれになっちまうもんな。うちの星もな、この二年で三人魔王が出てな」


「二年で三人!!」


「すげーっ! 魔王を呼び寄せる仕掛けでもあるのかよ!!」


 俺もそう思う。


「だが、お前らみたいなのが魔王を倒して回ってるなら納得だな。なんだ、うちの星のアセロリオンを倒しに来たのか? じゃあ頼む」


「アセロリオンこの星にいるのかよ!! やっと見つけたぜ!」


 オービターが吠えた。

 元気である。それに魔王と面識もあるらしい。


 すぐさま出かけようとするオービター。

 彼の足をエレジアが引っ掛けた。


「ウグワーッ!!」


 オービターがゴロゴロ転がっていく。

 そして、ガラドンとアリたろうの間に挟まり、ぶつかり稽古に巻き込まれて吹っ飛んだ。


「ウグワーッ!!」


「オービター! どこにいるのかも分かんないでしょー! せっかく親切な人にお招きいただいたんだから、ここでしばらくゆっくりして、星のことを調べていこ!」


 吹っ飛んでいくオービターは、エレジアに呼びかけられると空中で体勢を立て直した。

 全身から小刻みにビームを吹き出して、空で直立の姿勢になる。


 宇宙で戦うロボットみたいな動きをするやつだな。

 かくして、勇者村にお客人がやって来た。


 魔王退治の専門家らしいが、まずは我が村のうどんでも食ってゆっくりしていってもらおうではないか。


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