第168話 川魚を焼いて干す

 川魚の話をしていたら、ブルストとパメラが出かけていき、盛大に釣ってきた。

 かなりの大漁だったので、途中で運搬役として俺が呼ばれたのである。


 大きいのから小さいのまでたくさん釣られている。


「もうすぐ雨季で、釣りができなくなるだろ。その前にたっぷり釣っておいたぜ。こいつらは雨季に繁殖するからな。また乾季が来たら増えてるだろうぜ」


 人間が釣る量などたかが知れているそうである。

 だがまあ、これから村の人数が増えてくれば分からんな。

 魚を養殖するとかも考えたほうがいいのかも知れない。


 アイテムボクースに魚をぽいぽい詰め込みながら、そんなことを考える俺であった。


 さて、川魚をたくさん仕入れたのには理由がある。

 俺は勇者村でも自給できる出汁の材料について、ブレインや植物の魔本、動物の魔本などを集めて会議を行った。

 その結果……。


「手軽なのは川魚でしょうね。肉はそれそのものが味を持っています。ですが、獣のそれは臭いがきついでしょうから」


『水中の生き物はある程度脱臭されているからな。臭いを水が常に洗い流し続けている』


『でしたら植物を使うのもいいでしょうな。この種類の木に生えるカサタケは傘が広く、可食部が多く、干して戻しても美味いですぞ』


「キノコの出汁か! そういう手もあるな! そして川魚はマストでゲットだな」


 そう言う話になったのである。

 ブレイン曰く、焼いて干した焼干しにした方が良かろうということである。


 海辺で魚を干すのと、山の中である勇者村で干すのでは感覚が違う。

 海辺は潮風というだけで、アドバンテージなのだ。


「川魚を捌くぞー!!」


 俺が食堂のテーブルに板を敷き、その上に魚をどさどさ取り出して宣言する。

 そうすると、どこからともなくピアが走ってきた。


「うちもやるうー!!」


「やはり来たな」


 俺、ブルスト、ピアで片っ端から魚を捌いていく。

 と言っても、腹を割いて内蔵を取り出し、大雑把な感じの開きにするくらいだ。


 取り出した内臓は、これはこれで焼いたり煮たりして食べる。

 塩味をつけると、ほろ苦くて酒が進む……とはブルストやヒロイナの言葉である。

 ちなみに、川魚の生食は絶対にいかんぞ。


「ショートさん、ししょー。これ、このまま焼いて干すだけで、まだ食べられないの?」


 見事な手付きで魚を捌きながら、ピアが聞いてくる。

 非常に真剣な声色だ。


「ピアは何でも食いたがるからな。ショート、ひとつかふたつ、くれてやったらどうだ?」


「そうだなー。じゃあ、ピアのお駄賃として焼いたのをふたつやろう」


「やったー!!」


 ご褒美に焼き魚がもらえるとなって、やる気が増すピアである。

 こうして、釣ってきた魚を片っ端から開きにした。


 これを串で刺して、焼く。

 両面に焼き色をつけたり、焼きムラをなくすために開いてある。


 勇者村中に、魚を焼く香ばしい匂いが立ち込めた。

 村の仲間たちがひょこひょこ顔を出す。


 むむむむ……。

 みんなじっと焼かれていく魚を見ているな。


「ダメだ、ダメだぞ。これは出汁を取るための魚なのだ……。焼き魚にして食べたらいかん」


「だけどショートさん」


 ここで食い下がってきたのはフックだ。


「俺の地元だと、魚に塩を振ってだな。コーリャンのおかずにした」


「ハッ……! な、なんてことだ」


 フックの言葉で、俺は気付いてしまった。

 こいつを塩焼きにして、魚をおかずにしてご飯が食べられるじゃないか……。


 なんということだ。

 天国はすぐ目の前にあったのだ。

 川魚はお出汁にせねばならぬ。だがこれを塩焼きにしてお米を炊けば、ホカホカご飯が美味しく食べられる……。


「ぬううううう」


「ショートが苦悩している。こいつ、魔王戦の時はほとんど苦悩しなかったのに、食事が絡むとこうなるよな」


 うるさいぞパワース。

 魔王との戦いは、やるかやられるかだった。

 川魚をおかずにするのは、やるかやらないかなのだ! ぜんぜん違う。


 結局俺は誘惑に負けた。

 とりあえず仕上がっている長粒種のお米を、お鍋で炊くことにする。


「仕方ない……。今日は焼き魚でご飯を食べる日とする!!」


 わーっと村のみんなが盛り上がった。

 勇者村で収穫されたお米を使い、勇者村近辺の川で捕れた魚をおかずにする。

 その他、副菜は奥様チームが常にお漬物などをたくさん作っている。


 魚以外にも、飯のお供はたくさんあるということなのだ。

 もうこれはお米を食べるしか無い。


 かくして勇者村は大いなる盛り上がりに包まれ、米を食うことになるのである。


「なんかこういうの、なんて言ったかな。収穫したものを大々的に食べてお祭りするみたいな……」


「収穫祭ね」


 この辺は農村からやってきたミーが詳しい。


「あたしたちの故郷でも、作物が豊作だったらこうやってお祭りしてたなあ。コーリャンは主食だけど、お酒を作る材料にもなるし」


「収穫祭か! そう言えば、米も酒の材料になるな」


「なにっ!!」


 ブルストが目を光らせた。


「米で作る酒……!? 興味が湧いてきたぜ……!! だが、その前にまずは米そのものの味を確かめねえとな。えっ、ショートの故郷には米を使った酒があるのか? お前の故郷が米どころ!? 今度行かせてくれ……」


「ブルストが行くなら、あたしもまた行きたいなー。あっちもお米が収穫されてるころだろ?」


 ブルストとパメラで、あっちの世界に遊びに行く……!?

 しかも米を使った酒、日本酒を飲みに……!


 いやまあ、それはそれで勇者村の酒のクオリティが上がりそうな気がする。


「前向きに検討しておく」


「じゃあ明日辺り頼むわ」


「急だな!?」


 そんな話を繰り広げつつ、勇者村は収穫祭……という名の魚でご飯を食べるイベントに突き進むのである。


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