第167話 魚の干物について

 また海の王国に共和国が攻めてきたというので、海を大荒れにして全ての軍船を転覆させてやった。

 周辺諸国もウエストランド大陸側の侵攻には困り果てていたのだが、俺がサラッと撃退したことで、かなり感謝されたのである。


 その後、海の王国連合みたいなのが生まれ、海の王国と他の沿岸諸国が同盟を結び、彼らもハグ砂海連合に加わったりしたのだが、それは今回海の王国を訪れた本題ではない。


「実は諸君に頼みたいことがある」


「頼みたいこと、と言うと、なんですかな」


 俺の言葉に反応したザザーン王。

 他には、沿岸諸国代表が集まり、固唾を呑んで俺に注目している。


「うむ……。各国で名物になってる干物は違うと思うんだが、これを一通り買わせて欲しい。うちは川しか無いので、川魚で再現できるかどうかやってみたいんだ」


 みんな、ガクッと崩れた。

 なんだ、そんなことかあ、って顔をしているな。

 そんなことではない。


 干物は大変良質な出汁が取れる。

 そしてそのものを焼いても美味い。

 乾燥することでアミノ酸が凝縮しているのだな。


 これを川魚で作れれば、勇者村は継続的に干物と出汁を手に入れられるようになる。

 俺がスローライフをする際のテーマの一つは、継続の可能性だ。


 俺がもしも勇者村からいなくなっても、あとに続く子孫たちがスローライフを継続できること。

 これを基準にして全ての技術や食材は用意していっている。


「では今度、我が国の干物を持ってきましょう」


「こちらも持ってきましょう」


 各国の代表たちがそんなことを言うのだが、いちいち持ってきてもらうのを待っているのではまだるっこしい。


「いや、君等を国に送り届けるから、そのついでにもらっていく」


 俺は堂々と宣言した。

 唖然とする各国代表たち。ザザーン王はゲラゲラ笑っている。


 そして俺は、有言実行した。

 各国代表を連れて、空を飛んで送り届け、各国にセーブポイントを作り、シュンッで移動できるようにする。


 ある国はイカの干物だった。

 スルメみたいなのだな。これはもう、くちゃくちゃ噛んでて美味いし出汁も出てきて美味い。

 どうやっても美味い。


 ある国はエイの干物だった。

 完全に干してあるやつで、これはこれで味わい深い。

 エイヒレ部分の歯ごたえが楽しいな。


 ある国は小魚をまとめて干していた。

 煮干しだ。

 煮干しがあったのだ、この世界には……!


「うわあ、干物の万国博覧会や!!」


 俺は目を輝かせて叫ぶのだった。

 これらをまとめてアイテムボクースの魔法に詰め込み、勇者村に帰還する。


 脱穀作業も概ね終わり、後は子どもたちにやらせながらクロロックが指導するという段階に入っていた。

 そのため、俺は暇になったので魔王と共和国の野望を打ち砕きに行ったのである。


 大量の干物を食堂のテーブルに並べ、お料理担当奥さんチームとわいわい騒ぐ。


「これ、色んなの作れるねえ! すごーい!」


 カトリナが無邪気にはしゃぐ横で、スーリヤが青い顔をしてイカの干物をつまんでいる。


「これ、なんですか……。足がたくさんある生き物……」


「砂漠の王国は海が無いもんなあ……。これはイカと言ってだな。足がたくさんある魚みたいなものだ。めちゃくちゃ美味い」


「こんな見た目で!?」


「なんかこう、とんでもない見た目なのに信じられないくらい美味い」


「世界は広い……」


 呆然とするスーリヤ。

 ミーとパメラが笑いながら頷いている。


「見たことないと、たしかにびっくりするよねえ。あたしはね、このエイっていう魚がびっくりした! こんなに薄い魚がいるの?」


「ああ、こいつはね、酒のアテにいいんだよ……。スーリヤもさ、あたしの料理のレパートリーにそういう足のたくさんある魚でね、タコってのを小麦粉で包んで焼いたたこ焼きってのがあってね……」


 この世界、たこ焼きまであるのか。

 食に関しては進歩的な世界なのだな……!


 とにかく、干物で大盛りあがりした。

 その後、俺が川魚で干物を作れないかという話をして、奥様方がうんうんと頷く。


「自前で準備できると全然違うよね。私たちお金持ってるわけじゃないから、買うっていうのがないし」


「そうだね、自分で作りたい」


「釣りは男衆に任せてもいいんじゃない? あたしは釣りはするけど、得意じゃないんだよねえ。ブルストが上手いから頼っちゃう」


 パメラがさらっとのろけたな。

 スーリヤはむむむ、と考え込んで、


「私も釣りができたほうがいいでしょうか」


 この間の釣り大会、スーリヤはずっと見学してたもんな。

 自前で川魚を釣れるようになれば、干物作りに貢献できると思っているのかも知れない。


「そうだなあ。これから雨季だし、川は危ないからあんまり釣りに行く機会はないと思うけど……。アキムがブルストに釣りの秘訣を聞いてたから、その時が来たら一緒に行けばいいんじゃないか」


「そうですね! 主人はアクティブなので、彼が色々仕入れてきたものを私が教えてもらうことが多いんです。そうか、アキムから聞いたらいいのね」


 アキム、スーリヤ家は釣りブームになりそうだな。

 こうして、干物の話題から川魚の話題まで広がり、次の乾季には大々的に釣りに行こうという話になった。


 雨季は頻繁に川が増水するので、川べりは危険なのだ。

 クロロックの家は、川をまたぐような形をしており、足元は川の水の流れに逆らわず、流線型になってやり過ごすから増水期でも流されない。


 ちなみにあの家はブルストの師匠みたいな人がデザインしたんだそうだ。

 ブルスト本人は全く設計とかできないので、過去に覚えた建築デザインを再現してるだけなんだと。


 さて、話し合いが終われば実食だ。

 干物を使って出汁を取ったり、焼き物を作ったり。


 そしてメインは、脱穀が終わった新米!

 食べるぶんだけを用意してきたので、いよいよ勇者村のお米がデビューとなるのである。

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