第157話 勇者村婦人会、海を楽しむこと
奥様軍団が用意を整え、海に向かったようである。
カトリナがスーパーバイザーとして俺を指名したので、コルセンターを展開したまま彼女たちのバカンスを追跡してみよう。
昼飯を終えた直後、カトリナからの呼び出しを受けて、まったり彼女たちの様子を見る。
ハイエースは広々しているが、それでもパメラはちょっと窮屈そうだ。
……というか、よく考えたらパメラサイズの水着があったの凄いな。
どれだけ幅広く揃えてるんだ、水着売り場。
海乃理はごきげんな曲をガンガン流しながら、快調に運転していく。
免許取り立てだというのに、恐れを知らぬ運転だ。
奥様方は、こっちの世界の車ってこんなものか、と納得しているようである。
ああ、いや、ミーとスーリヤはちょっと青くなってる。
事故が起こらないことを祈ろうではないか。
まあ、例え事故が起きたとしても、カトリナとパメラのパワーでなんとかなるであろう。
二人とも、軽自動車くらいなら軽々ひっくり返すくらいの腕力があるからな。
そして海が見えてきた。
わーっと歓声が上がる車内。
スーリヤなどは、生まれてはじめて見る海だ。
最年長の奥様がはしゃいでいる。
これをコルセンター越しに見ていたアキムの鼻の下が伸びた。
「ね。ショートさん。うちの可愛いでしょ……。ちょこちょこっと見せる可愛いところがたまらなく可愛いんですよ……」
「アキムは村の女子に鼻の下を伸ばすくせに、スーリヤのことをバリバリにのろけてくるんだなあ」
「そりゃあ愛がありますからねえ、愛」
そういうものか。
駐車場に車を止めて、必要な道具をもろもろ携え、女子たちは海水浴に繰り出した。
海乃理以外、全員外人さんの見た目なので、とても目立つ。
ミーはアジア系だけど、どっちかというとベトナムとかみたいな顔立ちだし。
パメラがのしのしと砂浜を歩くと、誰もが注目した。
見事な角のある2mくらいある美女である。
視線を集めない方がおかしい。
「でけえ」
パメラを見ていた男の声が聞こえた。
背丈も胸周りも腰回りもでかいな。うん、分かる。
その後ろを、カトリナがトコトコついていく。
「あっかわいい」
「声かけようぜ」
なんだと!?
俺のカトリナに手出ししたら俺が世界に乗り込んでいって魔力災害起こしてお前らをミンチにするぞ!!!!
「可愛いだって! なんかみんな見てるー」
カトリナがコルセンター越しに囁いてきた。
あらかじめ彼女たちには、翻訳の魔法を掛けてある。
前回向こうに行ったクロロックたちにも同じことをしたのだ。
ちなみにパワースは、自力で日本語を覚えつつあるらしい。
愛のパワーか……!
「カトリナが可愛いことを最初に発見したの俺なのだ」
「うん、分かってる。私はショートだけが好きだからねー」
「んまー」
おっと、トリマルに運ばれてマドカがやって来た。
「あー、マドカも好き、大好き」
カトリナがふにゃっとした笑顔になる。
マドカはコルセンターに映るカトリナを、不思議そうに眺めている。
おっと、マドカの口からよだれがこぼれた。
フックとブルストもやって来て、奥様方が海で遊ぶさまを眺める。
おお、でっかいシャチの浮き袋!
みんなで掴まって遊んだりしている。
スーリヤはまだ海に入るのが怖いようで、荷物番をしながら日よけの下でのんびりジュースを飲んでいる。
おっ、スーリヤに近づく男たちの姿。
ナンパである。
「わおおー! 俺の! 俺の妻だぞ! ころすぞ!」
アキムがヒートアップした。
なかなか激しいところがある男だな!
「スーリヤもちょっと困っているな。コルセンターは世界をまたげるようになったので、向こうに一人くらいは押し込めるのだ。行け、アキム!」
「お任せください!! うおーっ!」
俺が広げたコルセンターに、アキムが飛び込んでいった。
そしてスーリヤに駆け寄ると、砂漠の王国の言葉で男たちに怒鳴り散らした。
外国語で怒鳴られた男たち、肝をつぶして逃げていく。
そしてアキムはスーリヤと何かぺちゃぺちゃ話した後で、なんかハグとかしてるな。
あ、ジュース分けてもらってやんの。
「戻ってこいアキム! 女子会を邪魔してはならぬ」
「アッハイ」
すぐさま、アキムが戻ってきた。
超短期間の世界間旅行をしたのはこいつが初めてじゃないだろうか。
なかなか男気があるので、俺はアキムを見直した。
フックにブルストも、同じ夫としてアキムへの評価を改めたようである。
「やっぱり愛だよな、愛」
ブルストの言葉に、みんな頷くのだった。
その後、奥様軍団は海の家で遅い昼食をとり、パメラとカトリナがめちゃくちゃ食べ、満腹になった二人は日陰で寝てしまったりした。
ミーと海乃理がサンオイルを塗りっこしているシーンでは、我ら男連中で唸った。
素晴らしい光景である。
これを見様見真似で、パメラがカトリナにオイルを塗るところで、水着の上が外れてしまい、あわやポロリという事になりかけた。
俺、思わず前のめりになる。
「ウー」
押しつぶされかけたマドカから、抗議のうめき声が上がって我に返った。
いかんいかん。娘がいる前でみっともない姿を見せるところだったな!
「マドカ、ノーカンだ。今のは一瞬の気の迷いだ……」
「うー?」
奥様軍団は夕方まで遊び、たっぷり羽を伸ばした後で帰還することになった。
お土産は向こうのお菓子。
カトリナはマドカ用に、赤ちゃんでも食べられる柔らかいおせんべいを選んだのである。
あれ美味いんだよな。
マドカが食べるなら、細かく砕いてやるといいだろう。
海水浴から戻ってきた奥様方は、それはもう晴れ晴れとした表情をしていたという。
そして迎えた男たちは、一日仕事にならなかったのである。
いやあもう、楽しそうな彼女たちを見るのに忙しくて。
マドカはお土産の柔らかせんべいを食べ、むにゃむにゃ口の中でふやかしながら満足気にニコニコしていたのだった。
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