第156話 奥様方が水着に着替えたら

 俺、ブルスト、フック、アキムが四人、コルセンターの前に揃って衝撃に震えている。

 一体何が起こっているのだろうか?

 それは、俺たちの奥さんたちが水着に着替えて、旦那に感想を求めるという特異な状況である。


 確かに現代日本の水着であれば、角があろうがなかろうが関係ない。

 ビキニとか背中や首のところで、紐を使って止めるような水着が多いからな。


「ショート、こいつは一体どうなってやがるんだ」


 ブルストが戸惑っている!


「なんであの布切れを着たほうがけしからん感じに見えちまうんだ……」


「不思議だろう? だがよく考えてみろ。素のプロポーションを、水着が上手いことぐっと引き締めてだな。ウエストを細く、そして胸元や尻を強調して、しかも持ち上げて見せてくれるんだ」


「な、なるほどーっ」


 男三人が手を打った。

 納得したようだ。


 コルセンターの奥では、ミーとスーリヤが、いやーね男って、と言いながらちょっと嬉しそうである。

 旦那が自分の水着を見て、ハアハア興奮しているのはなかなかいい気分らしい。


 俺も同じである。


「どうかな? ショート、変じゃないかな?」


 くるりと回ってみせるカトリナ。

 彼女の水着はスカイブルーのビキニ。

 うーむ、鮮やか!!


 そして大変健康的なお色気に満ち溢れている。

 百点満点中一億点をあげちゃおう。


「ショートがすっごくいい笑顔で大きくマルを作ってくれてるから、気に入ったんだね!」


「俺は本当に素晴らしいものは素直に褒めるようにしているんだ。良すぎる……」


 ちなみに、パメラがパステルグリーンのパレオタイプの水着。

 ちょっと膨らんできたお腹をカバーする意味もあるらしい。


 ミーが健康的な赤いビキニで、スーリヤは慎ましく、ペイズリー柄のワンピースである。


「うおー!」

「うおー!」


 フックとアキムが何か吼えている。

 カルチャーショックと、うちの奥さん超ええやん!という気持ちでヒートアップしているのだろう。

 後ろで子どもたちが諸君の姿を見ているぞ。


「男の人ってあんな感じなの?」


「あ、ああ、うん、俺は違うけどね」


 リタに聞かれたアムトが、思春期の少年らしい返答をしていた。

 嘘だぞ。

 女好きな男はみんなこんな感じだぞ。


「ふふふふ、どうだったかなショート君、男性諸君!」


 コルセンターに海乃理が現れた。

 俺たちに向かって、ビシィッと指を突きつける。


「この水着はお母さんからのプレゼントだって! そっちの世界に持って帰るから、存分に楽しんでください!」


 ウオーっと男たちが歓声を上げた。

 主に俺とブルストとフックとアキムである。


「男ってバカよねー」


 ヒロイナが言うとなかなか含蓄がある。


 そして名残惜しいが、ここで水着ショーは終わりであった。

 これから女子五人で海水浴に行くのだ。


 パメラの角とか大丈夫だろうか?

 それに身長2mくらいあるよね彼女?


 この疑問に対して、ニヤリと笑う海乃理なのだった。


「レンタカーでハイエース借りたの!! これなら乗れるから!」


 なるほど……!!

 我が家にあった車は軽だもんな。

 あれにパメラは入らない。


 その後、母親も加え、女六人できゃっきゃと楽しげにハイエースに乗り込むところを映し出し、コルセンターは終了した。

 カトリナが帰ってきたら感想を聞こう。


「あむー」


 マドカも画面を見ていたらしく、指をくわえながら何か言いたげである。


「あっちの世界はな、俺やマドカが行くと崩壊するからなー。崩壊しないようにする魔法を鋭意作成中だからな。ちょっと待ってるんだ」


「ウー?」


 マドカにはちょっと難しいか!

 勇者村に存在する魔本勢の総力を結集し、魔力を制御するための魔法を開発中なのだ。

 これが成功すれば、例えばマドレノースクラスの最強の魔王でも、地球で周辺環境に影響を与えないようにできる。


 逆に言うとこれがなければ、俺はあっちに帰れないわけだ。

 俺が元の世界に帰れない状態は、目下継続中なのである!


 ちなみに魔法の開発中にユイーツ神が顔を出して、


『完成したら私もその魔法で向こうの世界に遊びに行きたいですね』


 とか言っていた。

 ほう、ワールディア最高神が異世界に遊びに行く!

 画期的かもしれない。


 だがその前に、俺とカトリナとマドカで遊びに行くからな……。


 その後、勇者村の時間は、どこかふわふわした感じで過ぎていった。

 既婚者男連中の頭の中が、水着奥さんでいっぱいだったからであろう。


 普段、ご飯担当であった彼女たちの不在中。

 昼飯は俺とピアとリタが担当することになった。

 補助役でアムトがつく。


 作りかけだったお粥を仕上げたら、ピアが豪快なイノシシの丸焼きとか出してきてたいへん驚いた。

 ピア曰く、


「トリマルにお願いしたの!」


 なるほど、トリマルならやれる。

 勇者村どうぶつ勢と親しいピアは、本人には何の魔力も無いものの、一声かければ国の軍隊に匹敵、あるいは凌駕するような動物さんチームが動くのである。

 主にトリマルとアリたろうがバランスブレイカーだな。ビンもちょくちょく、動物さんチームとして動いているのはどうかと思うが。


 かくして、豪快なる勇者村の昼食時間が過ぎていく。

 奥さんたちが羽を伸ばしてから帰途につくまで、まだしばらくあるだろう。


 帰ってきたら、海水浴の感想など聞いてみようではないか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る