第155話 向こうの世界の夏休み
日本の大学は夏休みなんだそうで、海乃理が毎日遊びに来る。
パワースといちゃいちゃする以外にも、年頃の近い女性陣とキャッキャとお喋りをしたりしている。
ついに、女性陣で地球に繰り出して海水浴をしようという話になった。
「えっ、カトリナも行くの!」
「うん、お呼ばれしちゃって! でも、マドカは行けないもんねえ……」
うちの奥さんは、マドカのちっちゃい手をふにふにしながら困った顔をする。
「そこは俺が世話をするから問題ない。それよりも、地球でマドカに、赤ちゃんが食べられるお菓子なんかをお土産にしてくれるといいぞ。なーマドカ」
「う?」
マドカが目をくりくり動かして俺とカトリナを見る。
おっと、よだれよだれ。
マドカの口元を拭いてあげながら、心配なところを聞く。
「カトリナ、角とか大丈夫か?」
「うん、なんかね、あっちには、こすぷれっていうのがあるんだって。それだよーって言えばいいって」
「あー、なるほどなあ。それに、ミーにスーリヤも行くんだろ? えっ!? パメラも遊びに行くの!? ミノタウロスが!? ……まあ、コスプレかあ」
都合のいいことに、勇者村の奥様部隊は全員魔力がほとんど無い。
つまり、自由に地球に行けるのだ。
ヒロイナが奥様になったら、魔力量が多すぎて行けないけどな。
ということで、男連中は赤ちゃんを受け持ち、奥さんたちを見送ることになった。
マドカは物を食べたり、誰かが抱っこしてると大人しいので安心だが、サーラがどうかなあ。
スーリヤの話を聞くに、結構な甘えん坊らしいからな。
「だいじょぶだよ!」
心配する俺のもとに、ルアブがやって来た。
後ろにアリたろうを連れている!
「大丈夫なのか」
「うん! サーラね、アリたろうすきだから!」
「なるほど!」
そんなわけで、赤ちゃん軍団は一箇所にまとめて管理することになった。
子どもたちみんなで赤ちゃんと遊んでくれるそうなので、安心である。
その中には、アリたろうもいるので何かがあってもすぐ俺に連絡が来るであろう。
「あー、異世界羨ましいわ」
本日の仕事が無くなったヒロイナが、食堂で頬杖を突いている。
「ヒロイナも地球に行きたかったのか」
「そりゃそうよ! だってあんたが生まれたとこでしょ? こっち来たばかりのあんた、あんな青白くてぷくぷくしてたのに、あっちではそれでも元気に生きてられたんでしょ? さぞかし安全なところなんだろうなあと思ってたのよ」
「当時は引きこもりをしててちょっと太ってたからな……」
そう、異世界転移してきたばかりの俺は、ポチャっとしていたのだ。
だが、すぐに勇者業務が激務過ぎて痩せた。
体力が追いつかない部分は、俺の能力でなんとかした。
俺が異世界に来た時に与えられた力は二つだったのだ。
一つは自分と他人のレベルが見える力。
もう一つは、レベルキャップの解放方法が分かる力。
つまり、後は自力で頑張らねばならなかった……!
ワールディアのレベルアップ方法、戦闘以外にも色々あって、本を読んだり技術を身につけたり、覚悟を決めたり成功体験をしたりとか、その人間によって全然違う方法でレベルアップできるのだ。
俺はこれを色々極めていき、己のレベルを上げた。
レベルが上がると身体能力なんかもちょっと上がるので、すぐに体力がつくのだ。
そしてレベルキャップを越えると、生命体としてワンランク上の次元に到達する。
人間なのにオーガと同じレベルのパワーを発揮したりできるようになるのだ。
魔王と戦うには、このレベルキャップをかなりの数越えていかねばならない。
その解放条件も厳しいので、魔王とやりあうのは、まず無理ゲーである。
俺はこのレベルキャップ解放をバリッバリにやりまくったので勝てた。
言ってしまえば、今身につけている魔法は、全てそれらの副産物である。
「何を遠い目してるのよ。昔のこと思い出してた? いやあ、あんなに貧弱だったあんたが、今じゃ世界最強の勇者でしょ? わかんないものよね」
「まったくまったく」
俺も就職浪人を重ねて引きこもりになった時は、これで人生が終わると思ったものだ。
だがまあ、なんとかなってよかった。
地獄のような努力をして生き残ったわけではあるが。
おっ、赤ちゃん軍団の方で何か盛り上がっているな。
マドカを乗せたトリマルが走り回っており、その後ろをサーラを乗せたアリたろうが追っていく。
赤ちゃんレースだ……!
アクティブな遊びをするなあ。
リタはハラハラしながら見守っているが、ピアやアムトは普通に楽しんで声援を送っている。
ビンが腕組みしながらレースを眺めているな。
あれは、自分ならもっと早く走れるという顔だ。
そしてレースのゴール地点では、ルアブが待っている。
トリマルとアリたろうが競る!
追い抜け、追い越せ、とギリギリの勝負が繰り広げられ、なんと鼻の長さでアリたろうが勝利した。
「アリたろうのかちー!!」
わーっと盛り上がる子どもたち。
「ホロホロー!」
トリマルがショックを受けている。
マドカを乗せていたのでトップスピードが出せなかったとは言え、舎弟みたいに思っていたアリたろうの思わぬ成長に衝撃を隠せないのだろう。
アリクイ三日会わざれば、即ち刮目してみよ、である。
克己心のあるものの成長は早いのだ!
マドカとサーラは、レースが楽しかったようで、きゃっきゃと笑っている。
スピード大好きなお子様に育つかも知れん。
そうこうしていたら、お昼タイムだ。
「よし、じゃあ俺が昼飯を全員分作るぞ! 魚介出汁のハーブで味付けしたお粥でいい?」
「あー、それ、暑くてもさらさらっと食べられそう。頼むわー」
働く気のないヒロイナに同意され、俺は昼食準備に取り掛かった。
ここで、コルセンターから連絡。
カトリナに付けていたものである。
「やっほー、ショート! マドカは元気? 泣いてない?」
明らかにデパートか何かの中という背景である。
うーん、うちの奥さんが地球にいる……!!
「赤ちゃんレースをしていた」
「赤ちゃんレース……?」
解せぬ、という顔になった。
だよな。
「カトリナはデパートか。ってことは……水着を買うんだな?」
「その通りです! お義母さんがね、みんなのぶんの水着を買ってくれるって」
「大盤振る舞いだなあ……!」
「ということで、ショートに選んでもらおうと思ってー。あ、お父さんとフックさんとアキムさんも呼んできて!」
「みんな旦那に水着を見せたいんだな……!?」
大変な事になってきたのである。
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