第161話 黄金色の原
時期がやって来た。
長粒種のお米を植えてから、気がつけば五ヶ月くらい過ぎていたんだな。
金色に染まり、伸びた稲穂を前にして感慨に浸る。
今日は、村人総出でこいつを刈るのだ。
自動稲刈り機みたいなのがあると楽は楽なのだが、ああいうのは便利でも、存在することで色々問題が出てきてな。
機械を生み出す経済圏とか、科学技術が必要だし、金が関わってくるし、あれで十全に刈り取れる範囲と言うととんでもない広さの田になり、それじゃあ地産地消するには多すぎるから他に米を回すことになったり……。
それで米を売った先で他の作物が売れなくなったりすると、そこの経済圏にも影響を与えるからな。
だから、村人総出で刈り取りができる程度の量でいいんだ。
勇者村は、貨幣経済を採用しないことにしている。
必要なものは全て村で用意する!
「鎌は人数分作っておいたぜ!」
ブルストが誇らしげに並べているのは、お手製の鎌である。
この男、刃物の鍛造までやれたらしく、何気に多芸だ。
ちなみに監修はブレインと、鍛冶の魔本が担当した。
わいわいと、村人が自分の鎌を手にする。
ここで俺から村のみんなに注意を。
「えー、鎌は刃物なのでものすごく危ないです。稲の刈り取りに使う時も充分に注意してください。怪我をしたら俺とヒロイナが治すので、すぐに申告するように」
はーい、といいお返事がかえる。
さあ、仕事開始である。
時間は午前中。
日差しが強くなる前の早い時間で、一部を終わらせておきたい。
雨季が近づいてきて、日差しもそれなりに和らいではいるが、勇者村は南国なのでやっぱり暑いものは暑い。
わいわいと仕事に取り掛かった。
リタとアムトとパメラで、人数分の昼飯やお茶を用意している。
パメラは戦力として期待されていたが、そろそろお腹が大きくなってきたので労働してはいかんということになったのである。
元気な子を産んで欲しい。
さてさて、俺は猛烈な勢いで稲を刈っていく。
村のみんなに対するレクチャーの意味もあるので、動きを見て覚えてもらいたい!
事前に、クロロックの指導を受けて猛練習したのだ。
「うおおお! 刈り取るぜええええ」
「ショートさん、ペースを上げすぎです。この速度だとあなたが一人で全ての稲を刈ってしまいます」
「ハッ」
クロロックから指導が飛んでハッとした。
いかんいかん。
全部一人でやるところだった……。
「なんでショートさん一人でやっちゃうとだめなんだ?」
フックからの質問に、クロロックが喉をクロクローと鳴らした。
「これはショートさんの考えなのです。ショートさんが一人でやるとします。すると皆さんに作業のノウハウが残りません。皆さんが仕事を覚えなければ、いざ自分たちでやらなければいけない時に、とても困るでしょう」
「本当だ」
フックとミー夫婦、アキムとスーリヤ夫婦が感心する。
「もう稲刈りしていい? いい?」
「俺はもうショートの動きをマスターしたぜ」
「よし、やるかやるか!」
ピア、パワース、ブルストはやる気充分。
けが人対応のために、日傘を差しながら畦に座っているのはヒロイナ。
「じゃあ、がんばってきます!!」
「ええ、怪我しないようにね。あと、あんた体力ないから無理もしないようにね」
ヒロイナがフォスに優しい言葉をかけているな。
あそこの二人はかなり仲良しらしい。
かかあ天下だが、フォスがもともと縁の下の力持ちタイプなので、かなり上手く噛み合ってるのだ。
ちなみにニーゲルは肥溜め専任なので、一人で肥料を守っている。
ああいうのも必要なのだ。
おっ、砂漠の王国の歌が聞こえてきた。
向こうで仕事をする時に口ずさむ歌らしい。
なかなかエキゾチックでいいメロディだな。
だが言語が分からないと歌えないな!
これに、フックが適当な歌詞を乗せて歌い出した。
ミーがけらけら笑っている。
ブルストやパワース、ピアも独自の歌詞を載せ始めた。
こりゃあ愉快だ。
みんなでめちゃめちゃな歌詞を歌いながら、でも歌の音は一緒なのだ。
稲刈りがもりもり進む。
やはり歌はいいなあ。なんか気分が晴れやかになる。
俺も、カトリナとかマドカに対する愛情を込めて歌い上げていたら、横で稲刈りをしてたカトリナがぺちっと叩いてきた。
「照れるー!」
「わはは」
歌声に引き寄せられて、ホロロッホー鳥軍団やヤギたちもやって来る。
アリたろうは小さい荷車を引いていて、その上にはマドカとサーラが乗っていた。
あぜ道で稲刈りを見ていたビンが、舌足らずな口調でへんてこな歌詞で歌い始めたので、みんな微笑ましい表情になった。
うんうん、稲刈りは大変だが、こうやってると楽しいものだ。
かくして、本日の稲刈りは昼前で終了。
みんな腰をさすったりしながら、田から上がっていく。
ざっと見渡すに……明日で長粒種の稲刈りは終わりそうだな。
短粒種まではもう少し期間がある。
雨季になる前に、全部済ませてしまいたいな。
午前中でたくさん働いたので、今日の仕事は終わりである。
勇者村の労働時間は、一日四時間から六時間なのだ!
その代わり休みはないけどな。
仕事が終わったら、みんなでお茶を飲みつつ、昼飯を食うことになる。
さてさて、リタとアムトが作ったという昼飯はなんだろうな?
食堂の方から、スパイシーな香りが漂ってくる。
明日の稲刈りをするために、昼飯で精をつけねばなのだ!
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